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第33話 受付嬢は語る?

「ど、どうして私たちがオデットさんを目当てにここへ来たと思ったんですか……?」


 図星を突かれたけど、出来る限り冷静なフリをしながら尋ねる。

 普段はオデコさんって言ってるけど、初対面の人にはあだ名が通じないからオデットさんと言おう。


 私の質問を聞いて、受付のお姉さんはまたもやクスクスと笑い始めた。


「すまん、すまん……! 今のは推理でもなんでもなくって、オデット本人からあんたらの話を聞いただけなんや。山の中から光の柱がピカーッと伸びた時、それをやったんはセフィラとガルーやって言われてな」


 なるほど、それなら私の名前を聞いただけでオデットさん目的だと言えるのも納得。

 すでに私たちが知り合いだって、知ってたってことだもん。


「ちなみに山で起こったことについては把握済みや。あんたらと子どもたちと一緒に下りてきた冒険者たちが、昨日のうちに報告してくれたからな。オデットが山の向こうに子どもたちを送り届けてるっちゅうのも、もちろんわかってるで~」


 ギルドの受付にいるだけあって耳が早い。

 現状を把握済みなら、私たちがギルドに来た目的――その本題へすぐに入れる!


「あの、私たち……」


「あっ、そうや!」


 お姉さんの大きな声に、私の声はかき消された……!

 それに気づくこともなく、お姉さんはぺらぺらとしゃべる。


「自己紹介がまだやったよな? これは失敬、失敬! ウチの名前はラカタン・グラニーやで! 気軽にラカタンって呼んでくれてええで? 年齢はぴちぴちの28歳で、身長は170以上のナイスバデぇ! 脚が長い! 体重は秘密や。まあ、ウチは別に体重とか気にしてへんねんで? でも、秘密にした方が乙女らしいやろ? どうしても仕事柄、体の方はどんどんガチムチになっていくし、せめて振る舞いくらいは……な?」


「お、お仕事はギルドの受付ではないんですか?」


 流れるように吐き出される言葉、その隙間に質問をねじ込む。

 お姉さん――ラカタンさんはにやりと笑って首を横に振った。


「受付嬢のラカタンちゃんは、ギルドの人手が足りへん時の姿! その正体は……バナンバ支部のギルドマスター、A級冒険者ラカタン・グラニー様なんや~!」


 ラカタンさんのドヤッという表情……!

 もはや表情だけで「ドヤッ!」という音が聞こえてきそうなレベル!


「……ふぅ、満足したわ。それでセフィラちゃんたちはオデットの何が目当てでここに来たんや? 本人はおらんってことは当然知ってるやろうに」


 急に落ち着いて受付カウンターの中に戻るラカタンさん。

 このノリ……ちょっと疲れるけど、おそらく悪い人ではない……はず。


 とりあえず、オデコさんをアスパーナに連れていって休息を取らせたいことを、私の口から簡単に説明する。

 ラカタンさんは私の話をうなずきながら、静かに聞いてくれた。


「……なるほどなぁ~。それは名案や!」


 ラカタンさんは親指をグッと立ててウインクする。


「オデットは自分から休むってことを知らん奴やからなぁ……。誰かが休ませてあげな、壊れるまで働き続けるのは目に見えとる。ぜひとも温泉に連れていってあげてや!」


 おお、想像よりも反応がいい……。

 オデットさんの性格もよく理解しているみたい。

 それだけラカタンさんはオデットさんと親交が深いってことかな?


「あの、ラカタンさんはオデットさんと仲がいいんですか?」


 オデットさんはいい人だけど、あまり人と深くかかわらないというか、自分の本音を明かすタイプじゃない。

 だけど、ラカタンさんはそんなオデットさんの内面を知っているように感じる……。


「ふふふ……! まあ、昨日今日出会った仲ではないわな。オデットのことを初めて知ったのは、魔境戦争の最前線で戦ってた時やった」


「ラカタンさんもあの戦争に……!」


「不本意やったけど、まあ戦う才能を持って生まれてしもうたからな。オデットとは作戦地区が違ったけど、その名は私のところにも轟いてたで。『絶対に仲間を見捨てない兵士がいる』ってな……」


 オデットさんが戦う理由は……平和のため。

 だから、出来る限り味方を生き残らせようとしていたし、必要以上に敵を殺そうとはしなかった。

 そのためにいつも無茶をして、自分自身に負担をかけていた……。


「ウチはその理念にえらく感動してな。いつかオデット本人に会ってみたいと思ってたんや。その夢が叶ったのが、戦後に行われた冒険者ギルド設立会議の時やった。オデットはその能力の高さから、全ギルドのトップ『グランドマスター』になることを打診されたんやけど、速攻でそれを蹴って現場で働き続けることを選んだんや!」


「なんともオデットさんらしい話です。出世とかお金とか、あんまり興味ない人ですから」


「そんな判断ウチにはできへん……。一番偉くなりたいとか、アホみたいに金稼ぎたいとは思わんけど、それなりの立場とお金はやっぱり欲しいもんや。だから、地元のギルドのマスターになったわけやしな。それを迷うことなく捨てるオデットの姿に、ウチは遠くから見惚(みと)れてたんや……。そんで、心から尊敬したっ!」


 ラカタンさんの言葉に嘘はないと思う。

 でも、なんだろう……。妙な違和感も覚えるというか……。


「冒険者ギルド設立会議の後、またいつかオデットに会えたらええなと思ってた。そしたら昨日、オデットがこの街にやってきたんや! まあ……それは偶然やなくて、ウチがバナンバが抱える問題解決のために近隣ギルドにヘルプを出したら、それを聞きつけたオデットが来てくれたって感じなんやけどな」


「そうだとしても十分運命的ですよっ!」


 突然テンション高めのシャロさんが会話に入ってきた。

 どうやら、ラカタンさんとオデットさんの関係性に興味があるみたい。


「せ、せやな……! 昨日少しだけ話して、今日もおしゃべりできたらなぁって思ってたんやけど、あの光の柱を見たら血相(けっそう)変えて飛び出していってしもうたから、帰ってくるまでおしゃべりはお預けや」


「んんんっ……むふふぅー! セフィラ様聞きましたか!? お二人の間に強い絆を感じますよね!? 憧れ、友情、尊敬……いろんなものが入り混じった奥深い関係性が……!」


 シャロさんが私の肩を掴んで前後に揺らす。

 ……盛り上がってるところ申し訳ないけど、私は違和感の正体に気づいてしまった!


「本当に……そうですかね? ラカタンさんとオデットさんの間に、深い絆はあるのでしょうか?」


「えっ!? どういうことですか!? 今の話は全部嘘ってことですか!?」


 驚くシャロさんと目を逸らすラカタンさん。

 反応を見るに、私の考えは正しい……!


「シャロさん、よ~くラカタンさんの話を思い出してください。彼女は嘘をついていません。戦争の時はオデットさんの評判を聞いただけと言っていましたし、冒険者ギルド設立会議の時は遠くから見惚れていたと言っています。そして、次にオデットさんと会ったのは……昨日です」


「……あれ? 冷静に聞いたら全然オデットさんと関わってないどころか、昨日初めてお話したようにも聞こえるんですが……」


「その通りです。ラカタンさん、オデットさんと話したのは昨日が初めてですよね? すれ違いざまに挨拶を交わす程度のことはあったかもしれませんが……。あなたはオデットさんを尊敬はしていても、彼女に近づく勇気はなかった!」


 真実を解き明かした探偵のように、ラカタンさんを指さす!

 すると、ラカタンさんの顔はみるみる真っ赤になり、ひょこっとしゃがみ込んでカウンターの裏に隠れてしまった。 


「だ、騙すつもりはなかったねん! ごまかそうとはしたけど……! ただ、やたらとオデットに詳しいクセに、ほとんどしゃべったこともないって知られたら、気持ち悪がられると思ってついつい……! でも、本当にオデットのことを尊敬してるし、憧れてるし、好きなんやもん……!」


 まあ、気持ちはわかるし悪気がなかったのもわかる。


「セフィラよ、この女は信用していいと思うか? 一応我は最後まで黙って話を聞いてやったが……」


 ガルーは呆れた声で言う。


「信用して大丈夫だと思いますよ。確かにオデットさんとまだ仲良しにはなれていませんが、オデットさんのことをよく理解しているのは確かです。その証拠にオデットさんを温泉に連れていくことにも賛成してくれましたから」


「それはそうだが……。まあ、セフィラがそう言うなら構わん。とにかくここに来た目的を果たそう」


 そうだ、私たちはオデットさんが抱えている仕事を聞きに来たんだ。

 さっきラカタンさんはバナンバが抱える問題を解決するためにヘルプを出したと言っていた。


 他のギルドにも助けを求めるレベルの問題が、この街にはあるんだ。

 それはきっとこの街に人が少ないことにも関係している!

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