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第31話 買い食い!バナナスイーツ

 まずはガルーが選んだチョコバナナのお店で、チョコバナナを三本購入する。


「チョコバナナのビター、ミルク、ホワイトを一本ずつください!」


「はいよっ!」


 お店のお兄さんにちゃんとチョコバナナ三本分のお金を支払う。

 そして、受け取ったのは……チョコバナナ四本!?


「ワンちゃんとお使いに来れて偉いねぇ! チョコバナナ一本おまけだよっ!」


「え、いいんですか?」


「いいってことよっ! まあ、ここ最近は災難なことに旅人さんが少なくなっちまってるから、余らせるくらいならタダでも美味しく食べてほしい……なんて、お嬢ちゃんは知らなくていいことだな。毎度ありぃ!」


 お礼を言ってチョコバナナを四本受け取りつつ、お店のお兄さんが言ってることが気になった。


 ここ最近は災難なことに旅人さんが少ない――。

 つまり、普段ならもっと多くの人がこのバナナを売る出店だらけの通りに来るってことだよね?


 そして、旅人が少ない理由に心当たりがあるような……そんな言い方だった。

 今日もお客さんが少ないことがわかっているから、朝からおまけのバナナを私にくれたんだ。


「セフィラよ……早くチョコバナナを食べさせてくれないか……!」


 考え事の途中で、ガルーが話しかけてきた。

 その表情はもうチョコバナナが欲しくて欲しくてたまらない感じ!


「あっ、ごめんなさい。それじゃあ、どのチョコバナナから食べますか?」


 考え事を中断して、手に持ったチョコバナナをガルーに見せる。

 黒柴犬状態のガルーは……いや、元の状態のガルーも基本的に食べ物を手で持つことは出来ない。

 だから、私が食べさせてあげないとねっ。


「そうだな……。では、ビターチョコからいただくとしよう! ビターからミルク、ミルクからホワイトへと徐々に甘くしていくぞ!」


「わかりました! あ~んしてくださいねっ!」


 あ~んと大きく開かれたガルーの口に、ビターチョコバナナを入れる。

 バナナが大きくって一口では食べ切れないので、半分ずつ食べていく。


「もぐもぐもぐ……むううっ! なんと、チョコがパリパリに固まっておらず、ほどよく柔らかさを残しているではないか……! 柔らかさを残しているがゆえに口の中ですぐにとろけるビターなチョコが、熟れた甘いバナナと瞬時に混ざり合う……! 苦みと甘み――対極であるはずの二つの風味が完全に融合して、お互いの旨味をどこまでも引き立てあっている……!」


 ガルーのビターチョコバナナへの想いが聞こえてくる……小声で。


「セフィラ様~! クレープを買ってきました~!」


 片手に二つずつ、計四つのクレープを持ってシャロさんが駆け寄ってくる。


「三つでよかったんですけど、店員さんが一つおまけしてくれました。最近はあんまり街の外から人が来なくって、バナナが余っちゃってるそうです」


「チョコバナナのお店の人も、そんなことを言っていました。ただ客足が遠のいただけではなく、街自体に人が来なくなっているなら……何か明確な理由がありそうですよね」


 チョコバナナのお店で理由を聞いてみればよかったかな?

 まあ、冒険者ギルドでも情報は手に入りそうだけど……。


「ムニャッ! ムニャ~!」


 クレープを早く食べさせてくれと言わんばかりに、ムニャーがシャロさんの体に頭をすりすり擦り付ける。


「はいはい、今食べさせてあげるからね~」


 シャロさんは手に持ったクレープの一つを、大きく開かれたムニャーの口の中に入れた。

 口はすぐに閉じられ、ムニャーはおそらく生まれて初めてのクレープを噛み締める。


「ムニャムニャムニャ……ムゥゥゥニャッ!」


 どうやらクレープを気に入ってくれたみたい!

 嬉しそうに喉を鳴らしながら、またシャロさんの体にすりすり頭を擦り付けている。


「セフィラ様もクレープをどうぞ! 何でも出来立てが美味しいですからね」


「ありがとうございます、シャロさん。でも、今は手が塞がっているので……」


 なんとガルーはまだ一本目のチョコバナナに想いを()せていて、二本目のチョコバナナに口をつけていない!

 片手に残り三本のチョコバナナを持てば、何とかクレープを持てるけど……あっ、そうだ!


「シャロさん、私にもクレープ食べさせてください! あ~んってしますから!」


 口を大きく開けて、クレープを受け入れる準備は万端!

 でも、肝心のシャロさんが顔を真っ赤にしてもじもじしていて、クレープを口に入れてくれない……?


「そ、そんなっ……。私ごときがセフィラ様にあ~んするなんて……! (おそ)れ多くて、とてもとても!」


「えっ、そんな特別なことですか……!?」


「親しい者同士がやること……と、私は認識しています!」


「なら、大丈夫ですね。私とシャロさんは友達ですから!」


 そう言うと、シャロさんはハッとした顔をした。


「そうですねっ……! (つつ)んであ~んさせていただきます!」


「はい! あ~ん」


 大きく開いた私の口に、シャロさんがググッとクレープを入れる。

 薄く焼かれた生地、チョコ、生クリーム、カスタード、そしてバナナ!

 どれもボリュームたっぷりで、口の中がクレープでいっぱいになる……!


 ゆっくりともぐもぐしていくと、口の中でそれぞれの甘さが混ざり合う。

 違った甘さなのに、一切の雑味もなく完璧に調和しているんだ。

 それを引き立てる生地、バナナの食感が食べ応えを生んでいる……!


「……んぐっ! 最高に美味しいです! 流石は美味しい料理を作れるシャロさんが選んだクレープ屋さんです!」


 一口目を飲み込んで、シャロさんのチョイスを絶賛する。


「お口に合ったようで嬉しいです! ささっ、二口目を……!」


「待ってください。その前に私もシャロさんにあ~んします!」


 おまけで貰ったチョコバナナを、シャロさんに食べてもらおう。

 オーソドックスなミルクチョコでバナナをコーテイングし、その表面にカラフルなチョコレートの粒を振りかけた、見た目も楽しい一本だ!


「セ、セフィラ様が私にあ~んを!? 何と光栄な……! 生きてて良かった……!」


 目をキラキラさせて、感動に打ち震えるセフィラさん。

 そんなに喜ぶことかなぁと思いつつ、ここまでくると反応を見るのが楽しいかも?


「はい、あ~んしてください!」


「あ、あの、あまり口の中を見ないでくださいねっ……。毎日歯磨きはしていますが、それでもセフィラ様にお見せするようなものではないので……!」


 そう言ってシャロさんは、恥じらいながら小さく口を開ける。

 バナナが入るギリギリの開き方だ。


「もう少しあ~ん出来ませんか?」


「こ、これが限界ですっ。これ以上は恥ずかしくってとても……!」


 なら仕方ないか……。小さなお口にチョコバナナを押し込む!


「おうっ……もぐもぐ……ごくっ!」


 チョコバナナを飲み込むと、シャロさんがカッと目を見開いた。


「こ、これはとっても美味しいですね! バナナとチョコがケンカせずに、お互いの甘みを引き立てあっているのもさることながら、バナナの絶妙な食感がすごく私好みです。熟れる前の固い食感、熟れすぎたぐちゃっとした食感、そのどちらでもない最高のタイミングのバナナです!」


 美味しさで恥ずかしさが吹き飛んだみたい……!

 二口目からは大きなお口を開けて、チョコバナナを一本ぺろりと食べ切ってくれた!


「あわわ、私が先に食べ切ってしまいました……! セフィラ様、クレープどんどん食べてくださいねっ!」


「はぁ~い!」


 楽しい楽しい食べ歩き!

 ただ、楽しすぎて気づいた時には、時刻はお昼を回っていた。


 流石にそろそろ冒険者ギルド=バナンバ支部に行かなければ……!

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