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第27話 赤耳のオデット

「んん……もう朝ですか……?」


 ガルーの声と誰かが動く気配で目が覚める。

 上半身を起こしてうーんと伸びをし、目をこすりながら声のする方を見る。


 そこにはガルーと……オデコさんがいた。

 赤い猫耳と前髪を真ん中で分けておでこ(・・・)を出している髪型がすごくかわいくて、私は親しみを込めて『オデコさん』とあだ名で呼んでいるんだ。


 薄くだけど獣人の血を引いていて、頭の赤い猫耳は飾りじゃなくて本物。

 ちなみに頭の横には普通の人間の耳もついていて、4つの耳でより立体的に音を聞き分けられるらしい。


 でも、オデコさんがこんなところにいるはずないよね……?

 どうやら私の頭はまだ寝たりなくて、幻覚を見るほど寝ぼけているみたい……。


「久しぶりだね、セフィラ。しばらく会わないうちに、一層綺麗な女の子になったね!」


 そう言ってオデコさんは私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 このちょっと荒っぽくて不器用な触り方……懐かしい!


「……まさか、本物のオデコさん!?」


「もちろん! 偽物の私を見たことがあるかい? まあ、偽物が出てきてもおかしくないくらい有名になりつつあるみたいだけどねぇ」


「わーいっ! オデコさんだー! ほんっとうに久しぶりですね!」


 がばっとオデコさんに抱き着く!

 身に着けている装備の革と鋼の匂い、そして汗と血と……言葉では言い表せない温かくて落ち着く匂い。

 かつて共に前線で戦った時とほとんど変わらない匂いで、オデコさんはここにいる!


「ふわぁぁぁ……。何かありましたか、セフィラ様……?」


 私の大声でシャロさんが起きてきた。

 そして、オデコさんを見つけてカッと目を見開く。


「ふぁ……!? オデット・ココニャツ様!? えっ、嘘……本物の勇者の一番弟子!?」


 シャロさんはオデコさんのことを知っているみたいだ。

 かつての戦争で大活躍していたし、戦後も冒険者になって国民のために熱心に戦っていると聞いている。


 そう、勇者様の葬儀に来ないくらい熱心に……。


「ほら? 私もかなり有名なもんでしょ?」


 ドヤッという顔を見せつけ、シャロさんの手を取るオデコさん。


「初めまして、お嬢さん。私こそが勇者の一番弟子……つまりは最強の弟子オデット・ココニャツです。好きな言葉は平穏無事、嫌いなものは戦争、夢は世界平和! ……よろしくね」


「は、はい……! 私はエシャロット・レシピナです。人攫いに誘拐されたところを、セフィラ様とガルー様に助けていただいた者です! ちなみにこれでも20歳なので、子どもではありません……!」


「えっ、私と5歳しか違わないの……!? ちょっと老け顔の私からすると、うらやましい限りだよ。まだまだ私だって女の子なのになぁ~」


 オデコさんはまだ25歳だけど、くぐり抜けてきた死線の数が同年代の女性たちと全然違うからか、どうしても年上に見られがちなんだよね~。

 声がハスキーで、切れ長の目がクールでカッコいいっていうのも、かなり大人に見られがちな理由かも。


「ここには光の柱――聖なる光(ホーリーライト)を見て来てくれたのだな、オデットよ」


 ガルーがそう尋ねると、オデコさんはこくりとうなずいた。


「見覚えのある目印だったから、セフィラとガルーがそこにいるんだなってすぐにわかったよ。まあ、2人がこんなところにいること自体には、かなり驚かされたけどね! だって王子様の婚約者と神獣様ともあろう者が、こんな山の中に一体なんの用事でって思うじゃない?」


「それは……話すと結構長くなりまして」


 オデコさんはめちゃくちゃ強くて信頼出来る人だ。

 だから、婚約破棄とか王子バジルの野望について話も問題はない。


 まだ子どもたちも寝ていて動けないというのもあって、今まで私たちが歩んできた道のりをじっくりとオデコさんに話した。


「それは災難だったね……。セフィラが無事で本当に良かったよ。それにしても、まさか王子様がそんな悪いことを考えていたなんて……。せっかく戦争が終わって、これから平和な世界を取り戻すぞって時に、いずれ王様になる人間がそんなんじゃ……まーた戦争が起こっちゃうかもね?」


 出来るだけ深刻な空気にしないように、オデコさんは笑顔を崩さず話している。

 でも、その目がまったく笑っていないことには、オデコさんと出会ったばかりのシャロさんでも気づいていると思う。


 平和を乱す存在……オデコさんが心から怒りをぶつける対象だ。

 彼女が掲げる世界平和という夢は、決して冗談ではない。

 人間も魔人も差別することなく、争いを起こす者だけを憎み戦う。


 戦時中、『赤耳』の異名と共に恐れられたオデコさんの戦いは、まだ続いているんだ。

 勇者様の葬儀に来なかったのも、今まさに倒すべき敵と救うべき人がいたから、その場を離れられなかったという話だ。


 その話を私もガルーも疑わない。

 葬儀に来ないための嘘や言い訳ではなく、本当のことだってわかってるから。


 だからこそ、とっても心配になる。

 ちゃんとご飯を食べているのか、ちゃんとお風呂に入っているのか、ちゃんと寝ているのか……。


 世界平和というのは1人の人間が限界まで戦ってもそうそう実現出来るものではないから、休みつつのんびり長い目でやっていくしかない――と勇者様も言っていた。


 昔から無理する人だったし、ここで私たちと出会ったからには……そうだっ!

 オデコさんも一緒にアスパーナの温泉に連れていけばいいんだ!

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