第25話 シャロの行き先
いただきますから1時間ほど経って――大鍋の中は空っぽになった!
シチューは思ったよりもたくさんあって、足りないなんてことはなかった。
みんなお腹いっぱいになって、満足げな表情をしている!
「ぐふぅ……! シャロさんがたくさんシチューを作ってくれたおかげで、全員が満腹になれました! 私もお腹いっぱいでもう動けませ~ん!」
見るからに膨らんだ自分のお腹をさする。
上半身の重さに耐えきれず、お行儀が悪いと思いつつも地面に大の字で寝転がる。
「あぁ~、いけないことってどうしてこんなに気持ちいいんでしょうか~」
「ですね~」
私の隣にごろんと寝ころんだシャロさんが同意してくれる。
見上げる空には満天の星が輝いていて、私たちを優しく照らしてくれている。
「セフィラ様はこれからの予定とか考えていますか? 子どもたちを無事に送り届けた後、どこに向かうとか……」
「子どもたちを送り届けた後は、温泉街アスパーナに向かうつもりです。そこで心と体をゆ~っくり癒すつもりなんです! あと温泉街でしか食べられないようなグルメとかも……! あっ、シャロさんも何かご予定があるんですか?」
何気なくシャロさんに尋ねたつもりだった。
でも、その瞬間シャロさんから笑顔が消え、真顔で遠い星空を眺めるようになった。
それから十数秒ほど間を空けて……シャロさんはその理由を話してくれた。
「私の旅の目的は、私を助けてくれた女の子……セフィラ様に再び会うことでした。それから先のことは何も考えていなかったんです。家族を戦争で失い、故郷の街プレトーは復興を目指していましたが、魔人国に近い立地ということで人口の流出は止められず……つい最近街としての役目を終えたと聞きました」
シャロさんは表情を変えずに淡々と語る。
「……私はこれからどこに行けばいいんでしょう。セフィラ様に救われた命に感謝して、改めてお礼を言いたいという人生最大の目標は達成されました。次に私はどこを目指して生きれば……」
「それなら一緒にアスパーナに行きましょう! ゆっくり温泉に浸かって、美味しい物を食べて、それから考えればいいんです。これからの人生を決めるような大事なことは、気分がいい時に考えるに限ります!」
横に寝ころんでいるシャロさんの手をギュッと握りしめる。
その手の感触は想像していたよりもガッチリとしていた。
戦争が終わってから1年……ずっと私を探して、旅を続けてきた。
シャロさんの手には、その記憶が刻み込まれている。
「ですが、私には王国一の温泉街を楽しむようなお金が……」
「そんなの私が全部払うに決まってるじゃないですか! これでも元・神獣の世話係ですよ? 王国からいただいたお給料をたくさん貯め込んでいますから!」
「そこまでしていただく理由が、私みたいな人間には……」
「ありますね! 美味しいシチューをごちそうしていただきました。それも私だけでなく子どもたちやガルー、ムニャーも合わせて53人分! あっ、おかわりした子も結構いますから、その分も加えればザッとシチュー70皿分くらいのお返しをしなければ気が済みませんよっ!」
自分の体を起こして、シャロさんに覆いかぶさるようにして上から彼女の瞳を見つめる。
やたらとテンションが高かったシャロさんも今はしおらしくて、視線をふらふら泳がせながらぶつぶつ言っている。
「予定があるならまだしも、ないならガルーの背中に乗せて連れていきますからね。決定です!」
「……はい。不束者ですが、ご一緒させてください!」
シャロさんの顔にいつもの笑顔が戻ってきた!




