第24話 おかわり一丁!
私たちがうずうずしている間にも、子どもたちはシャロさんからシチューを受け取り、受け取った子からどんどん食べ始めていく。
みんなにシチューがいきわたってから全員でいただきます……って言うのが理想的な食事マナーではあるけど、今は特殊な状況だ。
恐怖から解放され、お腹がペコペコの子どもたちに「待て」と言うのは酷な話。
周りを気にせず、思う存分にシチューを味わってほしい!
「お待たせしました、セフィラ様! そしてガルー様! こちらがこのエシャロット・レシピナが魂を込めた料理――星空のシチューです!」
他のお皿よりちょっと装飾が豪華な金色のお皿に、具材がゴロゴロと入ったホワイトシチューが注がれる。
これが私の分で、ガルーには大きくて底が深いお皿が用意されている。
「ムニャーちゃんには先にお皿に分けて、少し冷ましておいたシチューですよ~! ヤマネコもネコなわけですから、きっと猫舌ですもんね。だから、やけどしないようにしておきました!」
シャロさんは平たくて広いお皿をムニャーの前に置く。
ムニャーは目を輝かせ、勢いよくシチューに口をつける……かと思いきや、体をうずうずさせながら私やガルーの方を見つめてきた。
「遠慮せずにどうぞ召し上がってください。そのお皿のシチューは、ムニャーのために用意されたんです」
「わざわざ食べる前に我々の確認を取るとはな。ネコにもかかわらず、なんとも人がいいと言うべきか。好きなように食べるのだ、ムニャーよ」
私とガルーにそう言われて、ムニャーは勢いよくシチューを飲み始めた。
舌をペロペロと動かし、野菜や鶏肉にはかぶりつく!
もともと白い毛だから、顔についたシチューもそんなに目立たない。
でも、目立たないだけできっと派手に汚れているのは事実。
食べ終わったら顔だけもう1回洗わないとねっ!
「私たちも……いただきまーす!」
スプーンでシチューを口に運ぶ。
その瞬間――口の中に広がる濃厚な甘み!
そして、それに負けないくらいの旨味!
最後には少しの塩味がやってきて、後味をギュッと引き締めてくれる……!
「美味しい……! 美味しいですよ、シャロさん! 優しい味なのにぼやけた感じがなくって、体の芯まで染み込んで温まる感じがします!」
「ああっ、セフィラ様にそのようなことを言っていただける日が来るなんて! 身に余る光栄です……!」
次は具材も食べてみる!
「むむっ! これは……想像以上にしっかりとした味が付いている!? 甘いシチューの中にあるからこそ、ほんのりとスパイスが効いた野菜や鶏肉がいいアクセントになっていますね!」
「流石はセフィラ様、よくわかっていらっしゃるっ! フラウ村の牛乳は濃厚だと聞いていましたから、すべてが牛乳の味になってしまわないよう、素材一つ一つを目立たせるような下味を付けました! それはまさに深い黒の空の中でも白く輝く星々のように……!」
「星空の下で食べるからというだけじゃなく、料理そのものも星空をイメージした作りになっているんですね! 今この場にある物だけで、こんなにすごい料理を作れるなんて、シャロさんは凄腕料理人です!」
「お、おおおぉぉぉ……! セフィラ様……感激のあまり気絶しそうです……!」
子どもたちはおしゃべりも忘れて夢中でシチューを食べている。
好き嫌いや、体質的に食べられない子もいないようだ。
「ガルーはどうですか? 美味しいですよね?」
「……あっ、うむ。とっても美味だ。美味すぎて……もう一皿平らげてしまった」
ガルーは特別大きなお皿だったのに、もうシチューがなくなっている!
一言も発することなく完食してしまうくらい美味しかったんだ。
「おかわりは遠慮しておくぞ……! 子どもたち優先だからな。だ、だが……もし残った時には我が最後まで食べ切るので安心するといいぞ、シャロ!」
「ありがとうございます、ガルー様! お口にあったようで幸いですっ!」
「ムニャ~!」
そうこうしているうちにムニャーもシチューを食べ切っていた!
食欲があることはいいことだ。
体を治すのには食べることが必要不可欠だもん!
「ムニャ、ムニャン!」
ムニャーは首を横に振る。
これは……さっきのガルーの真似だ。
おかわりはいらない、子どもたちを優先してと伝えている。
ムニャーは本当にいい子だけど……そのお願いは聞けない。
「ムニャーはこの中で一番酷い怪我をしていますから、食べれる時は遠慮せずにたくさん食べてください。それが回復への近道ですから」
「ム、ムニャウゥ……」
ムニャーの決意は揺らいでいる。
その証拠にシチューが入った大鍋の方をチラチラ見て、ポツポツとよだれを垂らしている。
「ムニャーちゃん、まだシチューはたくさんありますし、子どもたちもムニャーちゃんがおかわりするのを嫌がったりはしないと思います。だって、ムニャーちゃんは子どもたちのヒーローなんですもの!」
シャロさんが目線を下げて、ムニャーと向き合う。
そうしていると、何か起こったのかと心配した子どもたちの何人かが、お皿を持って近寄ってきた。
「ネコちゃんの分、もうないの……?」
「それなら私たちの残り食べていいよ!」
「早く元気になってほしいもんっ!」
自分たちのシチューをムニャーにあげようとする子どもたち。
それを見てムニャーはおかわりの決心がついたみたい。
「ムニャ~ン!」
「はいっ! おかわり一丁!」
子どもたちには私がすぐに事情を説明して、その優しい気持ちだけをムニャーは受け取った。
おかわりを一皿目以上にガツガツと食べるムニャーを眺めていると、なんだかシチューがさらに美味しくなるような気がする!




