第21話 シャロのレシピ
ガサゴソ、ガサゴソ、ガサゴソ――!
カゴの中から食材を探し続けること数十分。
シャロさんは探す手を止め、うんうんとうなずいた後……満面の笑みを浮かべた!
「これはいけますよ、セフィラ様! アジトの近くに畑でもあるのかってくらい野菜が豊富ですし、卵や鶏肉も腐ってはいないようです!」
「おおっ、それは良かったです!」
「ただ、調味料はそんなに多くないのと、大鍋とフライパンくらいしか調理器具がないので、複雑な料理は出来そうにありません。山の夜は冷えますから、ここは大鍋を使って野菜を煮込み、その旨味を抽出したスープを作ろうかと思います! 鶏肉は切り分けてフライパンで焼いて岩塩を振りかけ、骨はスープの出汁にします!」
大鍋でぐつぐつ煮込むスープ……!
想像するだけで温かくて美味しそうだ!
「セフィラさん、そのスープをアジトの外で煮込むことは可能ですか? そうすれば作ってる間も鍋を温める炎を囲んで子どもたちが温まれると思いますし、いつご飯が完成するのか楽しみに待てるかなと!」
「それはナイスアイデアですね。大鍋を煮込めるだけの火力があれば、どこでもスープを作ることは可能だと思います」
「火力なら任せてください。たき火を石で囲んで、簡単なかまどを作るのは得意です!」
シャロさんと話し合い、お互いの役割を決めた。
まずはシャロさんがアジトの調理場で具材を切り分け、空の大鍋に入れる。
その間に私はアジトの外で大鍋を乗せる石のかまどを作る。
そして、具材を入れた大鍋をかまどまで運び、湧き水を入れる。
かまどに火をつけた後は、シャロさんがぐつぐつ具材を煮込んで美味しいスープを作ってくれる!
「あっ、そうだ。調味料といえば、この間立ち寄ったフラウ村でいくつか調味料を貰ったんで、よければスープの味付けに使ってください。それと全粉乳もあるんですけど……スープには使いませんよね?」
何気なく尋ねたつもりだったけど、それを聞いたシャロさんの目の色が変わった。
「フラウ村の調味料と……全粉乳!? そ、それってどのくらいの量がありますかっ!?」
「えっ……! あっ、実物を持ってきますね!」
トランクの中から調味料と全粉乳が入ったビンを取り出し、調理場のシャロさんのもとへ持ってくる。
シャロさんはビンを1本ずつ舐めるように観察し、やがて満面の笑みを見せてこう言った。
「シチューを作りましょう! これだけの調味料と全粉乳があれば、それはそれは濃厚なホワイトシチューが作れるはずです! そっちの方がスープより栄養豊富で、お腹もいっぱいになりますから!」
「おおっ、それは名案ですね!」
ゴロゴロの野菜や鶏肉が柔らかく煮込まれ、濃厚な甘みの中に塩味も感じさせる料理――ホワイトシチュー!
夜の山の肌寒さにも負けないくらい、体を温めることも出来るはず!
「では、私は調理に入ります! 下準備が終わったらお呼びしますね」
「私も外でかまどを作ってきます!」
シャロさんと別れ、調理場を出てアジトの外へ。
外はかなり暗くなっていたけど、子どもたちがいるところには松明がいくつも立てられ、その周囲を明るく照らしていた。
「これは……子どもたちが置いた松明ですか?」
ガルーに尋ねると、こくりと首を縦に振った。
「アジトの中から持ってきて、自分たちで火をつけていたぞ。なかなか肝の据わった子どもたちだ」
もう泣いている子はいない。
比較的年齢の高い子が小さい子の面倒を見ているみたい。
「ムニャーの体調はどうですか?」
「見ている限りもう命の危険はなさそうだが……当然万全ではない。今は子どもたちの前で弱いところを見せまいと強がっているのだろう。なんとも健気な奴だ」
今ムニャーは子どもたちの輪から離れたところで座っている。
たまに暗がりに目を凝らし、周囲を警戒しているみたいだ。
それもきっと子どもたちを自分の力で守るため……。
「そういえば、まだ軟膏をムニャーの傷に塗っていませんでしたね。もう洗った体も乾いた頃でしょうし、晩御飯までに塗っておきましょう」
軟膏の入った小ビンを持って、座っているムニャーにゆっくり近づく。
逃げられる可能性もあるかも……と思ったけど、ムニャーは私の方を見つつも、その場を動く気配がない。
「傷にお薬を塗らせてくれませんか?」
「……ムニャ~」
その返事は「しょうがないな~」とでも言いたげだった。
どこかちょっと生意気な男の子みたいな雰囲気だ。
それでも傷に触る許可はもらえたということで……。
「じゃあ、お薬塗っていきますよ~。ちょっと染みるかもしれませんけど、強くてカッコいいムニャーなら我慢できますよね~?」
「ムニャッ!」
今度は威勢のいいお返事!
子どもたちの何人かがムニャーと私の方を見ているから、カッコつけたがってるみたい。
まるでヒーローに憧れる少年のような……。
いや、ムニャーは子どもたちを助けるために戦った本物のヒーローだもんね。
憧れるのではなく、すでに憧れられる存在なんだ。
「ムニャァァァ……!」
「あっ、痛かったですか……?」
軟膏を塗っている最中にムニャーがうなったので手を止める。
でも、その表情は痛がってる感じじゃなくって、どこか一点をジーッと見つめていた。
その視線の先には……ガルー?




