第11話 神獣契約の秘密
パンパーティは夜遅くまで続いた……のか、私にはわからない。
焼いた鶏肉に甘辛いタレを付けたものを、レタスと共にバンズという薄味の丸パンに挟んだ『照り焼きチキンバーガー』というものを美味しくいただいたところまでは覚えているんだけど……。
その後にお腹がいっぱいになったのか、時間が遅くなってきたからか、急激な眠気に襲われた私はガルーのしっぽにくるまって寝てしまったんだ……!
そして、気が付いたら朝――。
どこかの家の一室、ふかふかのベッドに寝かされていた。
「目覚めたか、セフィラよ。ここはゴルドンの家の一室だ」
ベッドの横には黒柴犬モードのガルーがいた。
窓から差し込む光を浴びて、のびのびとひなたぼっこ中だ。
「ガルー、おはようございます。私、急に眠たくなって……そのまま気絶するように寝ちゃったんですね。くぅ……! お腹はいっぱいでしたけど、もう少し味わってみたいパンもありました……!」
「成長期とはいえ、食べすぎは良くない。それに夜更かしもだ。まだまだ子どものセフィラは食べるべき分を食べ、寝るべき時に寝た……それだけだ。何も悔やむ必要などないぞ」
ガルーがもっともなことを言う。
それが正しいってわかっているけど……!
ちょっと背伸びもしてみたいと思うことすら、きっと子どもらしい感情なんだろうなぁ。
よく食べて、よく寝て、早くカッコよくて美しいお姉さんになりたーい!
「さて、セフィラの元気は十分なようだし、身支度を整えて外に出るとしよう」
ひなたぼっこに満足したガルーが立ち上がり、しっぽを振ってこちらを見る。
これはつまり……!
「犬らしくお散歩に行きたいということですね!」
「……今は違う! 昨日の夜、セフィラが寝た後にゴルドンと村の復興を手伝う約束をしてな。セフィラが起きたら、まずは村の現状を再確認しに行こうと思っていたのだ」
そうだ……。昨日のパーティーの活気で忘れかけていたけど、この村は壊された建物も多くって、命にかかわるほどじゃないにしても怪我をしている人だっている。
アンデッドの脅威を取り除いて「はい、おしまい」ではなく、私たちにはまだ出来ることがある!
「お着替えしたら、さっそく外に出てみましょう!」
身支度をササッと整え、トランクは部屋に置かせてもらって身軽な荷物で部屋の外へ出る。
「あらっ! セフィラちゃん、おはよう! うちのベッドでよく眠れたかしら? 枕が合ってればいいんだけど!」
玄関を目指していると、ゴルドンさんの奥さんに声をかけられた。
30代後半くらいで、ウェーブのかかった茶髪とニッコリ笑顔がよく似合う女性だ。
体格がガッチリしていて、畑仕事もこなせるパワフルな人に見える!
「おはようございます! とってもよく眠れました! 泊めていただいて、ありがとうございます!」
「うんうん、良かった良かった! じゃあ、朝ごはんにしましょうか! すぐ作るからね!」
「あ、お構いな……」
お構いなくと言おうとして、自分のお腹が減っていることに気づく。
昨日あれだけ食べたのに……!
人間、食い溜めと寝溜めは出来ないっていうけど、本当にその通りだ。
「ごちそうになります!」
「はいよ~!」
朝ごはんはパンケーキだった!
それも小麦の粒のすべてを砕いて粉にした全粒粉を使ったパンケーキで、普通の物より茶色っぽいけど、香ばしさは格段に上がっている!
そんな全粒粉パンケーキにバターとホイップクリームを乗せ、牛乳と一緒にいただいた。
美味しいということは、もはやくどくどと語るまでもないだろう――!
「ごちそうさまでした! 最高に美味しかったです!」
「ふふっ、お口に合ったなら何よりさ!」
「では、私たちは村の様子を見てきますね」
「うちの人も村の見回りに出掛けてるから、もし会ったら昼ごはんの時には戻ってくるように言っといてくれない?」
「了解です!」
私からゴルドンさんにいろいろとお礼を言いたいし、村の現状を把握するなら村長であるゴルドンさんに話を聞くのが一番だ。
ということで、村を見回りながらゴルドンさんを探そう!
大きな家の玄関から庭に出て、庭を横切って村の通りへ出る。
昨日村に来た時とは違って、通りにはたくさんの人が行きかっていた。
完全な復興はまだだけど、ひとまずの平和を取り戻せたことを実感する!
「さて、ゴルドンさんはいずこへ! ……あっ、いた」
ゴルドンさんの家の前から十数メートルくらい先――。
派手に崩れた民家の前に立つゴルドンさんの背中を確認した。
その周りにはたくさんの人が集まっている。
やっぱり村長として尊敬されているからかな?
「こんなに早く見つかるなんて……! もしかしたら別人だったり?」
「いや、匂い的にも姿かたち的にも本人だ」
ガルーがすぐに本人確認をしてくれた。
「それよりも気になるのは、ゴルドンの周りに集まっている村人たちだ。そのうちの1人から、何やら良からぬ匂いを感じるぞ」
「急いで行ってみましょう!」
駆け足でゴルドンさんに近づくと、私にもガルーが言った「良からぬ匂い」の正体がわかった。
集まっている人の中の1人――右腕が赤く変色し、黒いイバラの様な模様が浮かび上がっている。
これは闇の魔力に触れたことによる一種の呪い。
おそらくダークスケルトンと戦った時に、右腕に深めの傷を負ってしまったことが原因だ。
こうなると通常の薬や回復魔法では、怪我を治すことが難しくなる。
まずはかかった呪いを浄化して消し去らなければ……!
「ああ、セフィラ様にガルー様……おはようございます。今こちらの方の腕の傷について相談を受けていまして……」
「それは呪いです。そのままでは治すのは難しいですが、私の聖なる魔力で呪いを浄化してしまえば、あとは普通に治療出来ますよ」
ゴルドンさんにそう説明すると、周りの人たちが沸き立つ。
「そ、それは本当ですか!? ぜひ浄化をお願いします!」
「もちろんです!」
呪いを受けた人の前に立ち、一度しっかり右腕を見る。
……うん、あまり強い呪いじゃないな。
傷口はやっぱり深めだけど、出血の勢いはかなり弱い。
本当に強い呪いは、血の流れも止まらなくなるもの。
質より数で攻めるダークスケルトンから呪いを受けるのは、生まれつき闇の魔力への耐性が低い人くらいで、普通の人は呪いを受けることすらない。
「神獣紋開放! むぅぅぅぅぅぅ……はぁっ!」
おでこに浮かんだ金色の神獣紋に人差し指を当てる。
そして、聖なる力を溜めた指で呪いを指さす!
指から放たれた光を浴びた呪いは、シュゥゥゥと蒸発するような音を立てて消滅!
後には生々しい傷跡だけが残った。
「これで呪いの浄化は完了です! 完治したわけではありませんから、通常の治療は続けてくださいね!」
「おおっ……! ありがとうございます、セフィラ様! 耐え難い痛みがなくなりました……!」
呪いを受けていた人は何度も何度も感謝の言葉を言ってくれた。
その後、傷を治すために周りにいた人たちと一緒に村の診療所へ向かった。
この場に残ったのは私とガルー、そしてゴルドンさんだ。
「……つかぬことをお伺いしますが、セフィラ様もまたガルー様のように特別な力を持っているのでしょうか? 規模の小さい呪いとはいえ、一瞬で浄化してしまうほどの聖なる力は、誰にでも扱えるというわけではありませんので……」
ゴルドンさんが恐る恐る尋ねているのがわかる。
ガルーと視線を合わせて、ゴルドンさんになら本当のことを話していいか確認を取る。
「うむ、ゴルドンにならば話しても問題ないだろう。この男は信用出来る。そもそもセフィラが聖なる力を扱えることを多くの村人の前で見せてしまった以上、もはや隠すことでもないのでな」
「そうですよね。バジルにも私が真の神獣の契約者だと言った後ですし、無理に隠す必要はもうありませんよね!」
それでもあまり話したことがない秘密を話すのは、ちょっと背徳感……ドキドキする!
「ゴルドンさん、驚かないでくださいね。実は神獣の契約者というのは『神獣と契約した者』ではなく、『契約することで獣を神獣にする者』なのです!」
へへっ、言っちゃった……!
ゴルドンさんはしばらくぽかーんと口を開けて固まり、1分ほど経ってから言葉を発した。
「つまり、セフィラ様がガルー様を神獣にした……ということですか!?」
「そういうことです! ちなみになぜ私にそんな力があるのかは……わかっていません。戦争の最中、廃墟になってしまった街の片隅で勇者様に拾われた子なので、自分のルーツがわかってないんですよね……あはは!」
それを聞いてゴルドンさんは再び口をぽかーんと開けて固まってしまった。




