妹に関する予知夢
アレク様との婚約から認められた次の日から、私は侍女としてではなく、将来の王太子妃として妃教育が開始されることになった。
私の場合は、国内に関する情報やマナー、文化などは、次期男爵夫人としての教育や他の興味事は独学で習得していたのでその勉強は免除され、細かくは勉強していない国外のことについて勉強することになった。
流石に私も国外のことまでは詳しく独学では勉強出来なかったので、新たなことを知るということはとても楽しいことだった。寧ろ、相手の国に合わせたマナーの練習をする方が大変だ。
ただ私は覚えが早いらしく、サクサクと進むから大変ありがたいと、教師から言われているので安心しながら受けていた。
また母に王太子と結婚することになったと手紙を送ると、2日後に信じられないという素直に綴った心境と、挨拶をするべきなのかという相談をされた。
私もどうするべきか分からなかったので、王妃様に直接尋ねてみると、是非会いたいとのことで、母が1週間後にやって来たのだ。
そして、何か修羅場があるのかと思えば、王妃様が勝手に事を進めてしまい申し訳ないと謝罪しつつも、私に王太子妃として期待していると褒め、そして私達の婚姻を認めてくれるかと確認をしたのだ。母は戸惑っていたものの、娘をよろしくお願い致しますと言って挨拶は無事に終わった。
この時、母が反対でもしたらどうしようと内心少しヒヤヒヤしていたのだが、大変だと思うけど幸せそうで良かったと、心の底から喜んでくれて安心し、またこちらも喜びに浸っていた。
そんな風にして2週間経った頃、その日の王太子妃教育を終えて部屋に戻ろうとしたその時に、私は急な目眩が襲ってきて倒れてしまったのだ。
◇◇◇◇◇
これは馬車の中……って中にいるのは、ロゼリアとあの馬鹿息子!?
でもどうして彼と2人きりで馬車に乗っているの?
確かにここ最近ロゼリアは子爵家に出入りしているけど、成人した2人だけで一緒に乗っているなんて……。
それにロゼリアの表情がとても暗いわ。あいつは隠そうとしているけどニヤニヤしているじゃないの。
あ、馬車が止まったわ。
向かうのは……何か寂れた白い大きな建物ね。
この建物に2人で入って行ったわ。
◇◇◇◇◇
「ロゼリアが危ないわ!!」
「アナスタシア嬢、急に倒れられてどうなさいましたか? それにロゼが危ないってどういうことですか!!」
私の体を支えてくれたは騎士団長だった。たまたま通りかかった時に、私が倒れかけていたのだろう。
ロゼリアの主人である騎士団長なら、もしかしたら何か知っているかもしれない……と思うと慌てて彼に質問をしていた。
「ロゼリアが何処に行った知りませんか? さっき予知夢でヴァーンズ子爵の令息と一緒に2人きりで馬車に乗っており、その後寂れた白い大きな建物に入っていく予知夢を見たのですが、どうもロゼリアの表情が暗くて……何かこれから巻き込まれるのじゃないかって……。ご存じならば教えてください。私がすぐに向かいます」
「ロゼが男と2人きりで……アナスタシア嬢、ここは私に任せてください。必ず止めに入りますから、お願い致します」
あ、騎士団長が行ってしまったわ。思わず彼にその場で予知夢のことも話してしまったけど、本当に良かったのかしら?
あの様子だとロゼリアが何処にいるか分かっているようだけど……本当に大丈夫なの? でも私ではあの建物は何処にあるのか分からなかった。
もう今は彼に任せる他ない。もしロゼリアに何があったと思うと怖すぎる。何せ私の予知夢は不吉なことへの警告なのだから。どうかロゼリア無事でいて。
この後アレク様にも報告して、予知夢のことから騎士団長のことまで話した。アレク様は大変驚きながらも、伝言鳩を飛ばし、また数名の騎士達も用意してくれた。
そして、心配の中でロゼリアに関して連絡が来たのは次の日の夕方だった。
「アナ。レオから先程連絡が来たが、ロゼリア嬢は無事だ。ただ……子爵令息に襲われる直前だったらしい」
「やっぱり、そういう嫌なことだったのね……絶対に許せない」
あいつは婚約破棄された時から、一生許さないと思ったけど、今回はそれどころではない。本当なら私の手で懲らしめたいぐらいだ。
ロゼリアが助かった安心と、そんな危険な目に遭ったことが辛くて、思わず泣いてしまった。
「アナ……取り敢えず子爵令息は、その場で捕らえられた。容疑としてはまずはロゼリア嬢への強姦未遂……ただそれだと外聞が悪いから誘拐罪としている。あとは、ヴァーンズ子爵夫人の監禁罪と、ヴァーンズ子爵への殺人未遂も検挙された」
「夫人の監禁と領主様への殺人未遂? アレク様、それはどういうことでしょうか?」
「多分ヴァーンズ子爵が病で伏していたことは知っているとは思うけど、実際は病院などには入れずに、遠くにある別荘に閉じ込めていたらしい。それもヴァーンズ子爵夫人も一緒にだ。ロゼリア嬢が駆け寄った時は、死にかけていたらしく、もう少しのところで助けることが出来たらしい」
どうしようもない屑だということは分かっていたけど、その言葉で済ましてよくないほど、人としてやってはいけないことばかりをしている。
本当にどうしてあの子爵からこんな息子になったわけ。領主様も夫人も本当に出来た方なのに、これが1番謎かもしれない。
「あと先程子爵令息が留置所に着いたようだ。取り敢えずこれ以上の騒ぎは起こらないだろう。アナ、本当に辛いことだと思うから暫くは無理しなくて良い。私も出来ることなら出来るだけ力を尽くそう」
「それならばあの人に会わせてください。どうしても話がしたい……」
「分かった……なら明日会えるように手配しておく。とにかく今日は休んで欲しい」
こんな衝撃的な事実を知り、私は放心状態になりそうだった。私はここ最近王城のことばかりで、全然領地のことに目を向けてなくて、ロゼリアばかりに任せていたから、ロゼリアがこんな目に遭った。どうして私は手伝うことが出来なかったのだろうと、ただ自分を責めるしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
次の日の昼、アレク様と一緒に留置所まで来た。場所は分かるので1人で行くと言ったのだけど、一緒に行くと譲らなかったので2人での訪問だ。ただ話はあいつと2人でさせて欲しいと懇願し、アレク様は近くにいることを条件として渋々承諾してくれた。
部屋に入り少し待機していると、手首を縄で絞められたあいつが嫌そうな顔をしながら入ってきた。
「お久しぶりね、ビル」
「お生憎様だな、アナスタシア。なんだ婚約解消した時以来か」
「いいえ、貴方が勝手に婚約破棄したの。解消じゃないわよ」
お互いに睨め付け合っての会話開始か。本当に見ただけでイライラする。
そもそも、会話早々から勝手に言葉を変えるな。私が合意する間もなく、一方的に突きつけたのだから。
本当はもう一生こいつとは関わらないと決めたけど、今回ばかりは話を聞かないと納得がいかないもの。
「聞きたいことはいっぱいあるけど、まずはどうしてロゼリアを襲ったのか教えて」
「そもそも襲ってなんかない。約束を果たしてもらおうとしたただけだ」
話を聞くと、どうやらあいつは領主様がいた場所を教える変わりに、ロゼリアに結婚を迫ったらしく、ロゼリアに昔いた場所を教えたので繋がろうとしただけだという。
いや、場所を教えろって言うのは今いる場所に決まっているだろう。まさかかつていた場所に案内されるだなんて夢にも思わなかったはずだ。
それに本来の場所を教えなかったのだから、ロゼリアがその約束に応じるわけない。ロゼリアは私と同様に毛嫌いしているのだから、拒否したに違いない。そんなの襲っているのと何が違う?
ロゼリアが領主様を助けたいという心を悪用した達が悪い手法だ。
「それにしても、何故そもそも領主様達を殺そうとしたの? 別荘に閉じ込めていたと聞いたわ」
「そんなの決まっているだろう、復讐だよ。俺を追い出して紐爺い思いをさせやがって。貴族令息なんだから贅沢させろや」
より詳しい話を聞くと、私に婚約破棄を突きつけたことで、領地を追い出されたこいつは、渡されたお金を直ぐ様に使い果たし、なんとか紐になりながら暮らしていたらしい……もう本当に屑なんだけど。顔が良いことに出しゃばりやがって。
そんな時に領主様が病で身体が悪化したことを聞きつけて、息子の権限で病院を無理矢理退院させ、誰もが知らない別荘に押し込んだのだ。
何故すぐに殺さなかったのかと言うと、病で亡くなれば自分の手で殺す必要がなくなり、世間からも親を亡くしたとして同情を寄せられると思ったらしい。
そして領主様が亡くなった後は、自分が領主になり税金を一気に上げて贅沢三昧の生活を送る予定と、ここは噂で聞いた通りだった。
聞けば聞くほど自己中心的過ぎて呆れてしまう。
「そもそも領民は貴方を贅沢させるためにいるわけじゃないのよ。貴族令息なら、寧ろ領民のために尽くしなさいよ」
「阿呆か。何で下の身分の者に尽くさなきゃいけない。下の身分の奴らが俺達を支えるのが道理だろう」
「逆よ。上の者は下の者を束ねるためにいるの。その責任があるから、庶民よりは裕福な生活が出来るだけ。責任も果たさないのに贅沢したいというのがそもそもの間違いだわ」
「ロゼリアと言い、本当にお前達は欲がないな。馬鹿にも程がある。俺には理解出来ない」
もうこいつに何を言っても無駄だ。というか、こういう論争を婚約時代に何回かした気がするけど、その時と全く変わってない。えっと……海外の諺でこういうの犬に論語って言うだっけ。
あ〜もう相手するだけ疲れるわ。最後にこれだけ言おう。




