ど-483. 約束
ちょっと寝過ごしました?
「んあ? ――っ、やべっ、寝過ごしたっ!?」
「――おや、旦那様」
「っ、……よ、よお」
「はい、おはようございます、旦那様」
「あ、ああ。おはよ……?」
「それでは、私は少々用事が御座いますので失礼させて頂きますね?」
「あ、……いや、」
「? 何か私めに用事で御座いますか?」
「そういう、わけじゃないんだが……」
「なんともはっきりしない様子ですね。言いたい事があるのならば、はっきりと仰って下さって結構なのですよ、旦那様?」
「ゃ、お前の方こそ……俺に言いたい事とか、何かあったりしない?」
「旦那様に申し上げたい事、ですか?」
「ああ」
「そうですね。上げればきりは御座いませんが……」
「が?」
「改めて、強いて申し上げるとするならばこれでしょうか」
「っっ」
「――旦那様、いつも愛しております……と、何故にそのように身構えておられるんですか?」
「い、いやなんでもない、うん、なんでもない」
「おかしな旦那様。いえ、まあ旦那様がおかしいのはいつもの事ではありますか」
「は、ははっ、まあな」
「益々、何やら旦那様の様子が変なのですが……もしやお風邪でも召しましたか?」
「いや、熱はない」
「そうでしょうか? 旦那様は時折無理をなさる事も御座いますので……少々失礼を」
「ああ、いいぞ」
「……ふむ、熱は、ないようですね」
「だろ、だから風邪は引いてないぞ」
「確かにその様ですね」
「……」
「……」
「……えっと」
「はい、如何なさいましたか、旦那様」
「俺に熱がないのは分かってくれたんだよな?」
「はい。今もこうしておでこをつけ合って今にもキスが出来そうな二人の距離ですから、旦那様の胸の鼓動まで聞こえてくる気がいたします……と、改めてこのように申し上げると恥ずかしいモノがありますね」
「そ、それもそうだな」
「はい」
「……」
「……」
「そ、それでお前は一体いつになったら俺から離れる気で、」
「――ああ、それと一つ思い出したのですが宜しいですか、旦那様?」
「よ、宜しいと言うか、……何故俺を抱きしめているのでしょうか?」
「旦那様を愛しているからです」
「そ、そうか。でもその割にはちょっと力が強い気が……」
「それだけ旦那様への愛が深いと言う事です。どうかお察し下さいませ」
「そ、そうか~」
「それで旦那様、一つ申し上げたいのですが宜しいですか?」
「……ああ、一体なんだ、いえ何でしょうか?」
「今朝、日の出前に私と出掛けると言う約束を旦那様は覚えておられましたか?」
「――」
「私、待ちました。ええ、旦那様が起床なされた昼の、今の今まで、お待ちしておりました。館の皆様方から不思議そうに見られ、声も幾度か掛けられましたが……それは大したことでは御座いません」
「……えーと」
「本日は、随分と優雅な気象で御座いましたね、旦那様?」
「そっ、……ソウデスネー」
「――覚悟の程は?」
「完了しております、マム!!!!」
「宜しいです。では――……次は忘れないで下さいませ?」
「――って、え? それだけ?」
「それだけとは、旦那様は殴られることや何か被虐的な事でも考えておられたのですか? まあ旦那様の趣味嗜好あるいは思考に異を唱えるつもりは御座いませんが」
「い、いや。そう言う訳では……ああ、分かった。今度からは、気をつける」
「はい。では旦那様、朝食を……いえ、既に昼食ですか。持って参りますので少々お待ち下さいませ」
「あ、ああ」
「では、後ほど」
「……、……な、何を企んでるんだ、あいつは? 逆に沈黙してるのが不気味なんだが……う、う~む?」
はい、寝過ごしました。




