ど-316. ミステイク
ミステイク……漢字にすると、見捨て行く?
「……どうしよう、時間がない」
「旦那様、如何なされたのですか?」
「時間がないんだよっ!?」
「そうですか、では私はこれで」
「ちょっと待て!」
「はい、何用に御座いましょうか、旦那様?」
「お前、俺が慌ててる事に関して思う所は何もないのかっ!?」
「何も、と申されましても。旦那様の方こそ、私に話しかける暇があるのでしたら、その時間がないと仰られている用事を完遂させるよう心がけた方が宜しいのではないでしょうか? 私としては旦那様にお声を掛けて頂けるのは大変嬉しいのですが……」
「っ、そうだ。……そうだよな、うん。確かにその通りだ。お前なんかに声を掛けてる暇があったら――」
「私、“なんか”――?」
「よしっ、そうと決まれば善は急げだ」
「……“善”? 私“なんか”に話しかけない事が、“善”?」
「と、言う訳だから俺は――」
「少々お待ちを、旦那様」
「っ、なんだよっ!? だから俺は急いで、――……あれ? お前、何か怒ってますか?」
「そうですね。どちらかと言えば怒っているかもしれません」
「かもしれないって、俺には怒ってるようにしか見えない……っていっても表情は相変わらず無表情だけどな」
「些細な事に御座います。それよりも旦那様、お急ぎであると言うならば私をお使いになられてはいかがですか?」
「お前を?」
「はい。移動ならば瞬く間に、何らかの作業であったとしても複雑単純を問わず優秀ですから、私は」
「優秀て自分で言うな、自分で」
「私は客観的事実を申し上げているだけですが?」
「……そうなんだよなぁ。確かに、別にお前が驕ってるわけでもなくて、本当に客観的事実であるのがなんともまた……」
「旦那様、そのような褒め殺しは大変嬉しく今にも頬が緩んできそうなのですが、お時間の方は宜しいので?」
「そっ、そうだった――! あと、断じてお前を褒めてなんかいなかったからな?」
「……そうなのですか、残念です」
「ああ、あと頬が緩むとか、嘘吐くな」
「嘘では御座いませんよ?」
「信じられるかっ……って、だから急げだよなっ。おい、そういうことなら頼みたいんだけど、良いか?」
「――それが旦那様のお望みとらば、何なりと」
「そうか、助かるっ」
「いえ。それで私がお手伝いする事は移動でしょうか、それとも作業でしょうか?」
「移動だ。いまから俺をマイファ国まで頼むっ」
「了解いたしました。ではこちらの転移石で――」
「えぇい、まどろっこしい。貸してくれっ!」
「ぁ、旦那様、ですが今……」
「よしっ、じゃあ行ってくるっ!」
「……遥か北方へ無作為転位するトラップをまだ解除しておりませんのでご注意を、と申し上げたかったのですが既に行ってしまわれましたか。――……ふふっ、旦那様もうっかりさんですね。仕方ありません、何のよ時価は存じませんが、旦那様に代わり私がマイファ国へと向かう事に致しましょうか」
メイドさんの善意ある(?)行動、故意か偶然かは想像にお任せします。
身に覚えのない話
「――此処は何処だっ!? ……つーか、寒い。死ぬっ」




