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Wildfire-14


ぐー(親指を立てて)


「――ん?」




“彼”空を見上げた。とは言っても見えるのは青々と茂る木々、それに僅かな隙間から覗く空だけ。


それでも“彼”は何かを視るように目を細めて、それからすぐ傍にいた緑の少女へと視線を移した。




「おい」


『お腹が減りました。食べちゃダメ?』


「可愛く言っても駄目だ」


『可愛く、とはどのような意味?』


「……とにかく、食べるのは駄目だ。今喰った奴はこっちに連れて来い」


『分かりました』


「……いやに素直だな?」


『言う事に応えろと望んだのは貴方。それに何より、逆らう理由がない』


「――それはどういう意味だ?」


『? 言葉の通り。≪ユグドラシル≫は貴方を認めた。だから“資格持つモノ”に成った貴方に逆らう気は、今の≪ユグドラシル≫にはない』


「俺はお前に認められるような事をした覚えはない」


『だとしても≪ユグドラシル≫は貴方の力と意志を認めた。例え貴方が拒否しようともそれが覆る事は最早ない』


「死を好む“聖遺物”が何考えてるのかなんて知らねぇが……ま、素直に俺の言う事を聞いてくれるって言うのなら願ったり叶ったりだ。不都合があるわけでもなし、良しとするか」


『良しとすると良い。それと、一つだけ訂正がある』


「なんだ?」


『私たち、少なくとも≪ユグドラシル≫は死を好んでいるわけではない。そして“聖遺物”と称される大半のモノ達もそれは同じ。私たちが好むのは死ではなく、死の中でさえ輝く生そのもの。強き命を好み、欲する』


「へぇ。そいつは初耳だな」


『訂正するのはそれだけ。あと、少し下がる』


「ん? ――ああ」




僅かに空を見上げてから、“彼”は緑の少女に謂われたとおりに二歩ほど下がった。




「うきゃっ!?」


『っっ』




何もなかった空間に突如として一人の少女が出現する。解れに解れたメイド服、両目をギュッと瞑って何かに脅えるような庇護欲を誘う表情、と他にも突っ込みどころは色々あるのだが、それより何より。


全身“火だるま”――冷たい炎に包まれた少女を見て、やはり元は“木”だから火が怖いのか、緑の少女は警戒しながら“彼”の背中へと隠れてしまっていた。




「ぅ、うぅ……ルルってば急に私を振り落とすんだから」


「誰かと思えばファイか。相変わらず悪運が強い奴だな」


「本当に、ルルもシャトゥちゃんもう私の扱いが酷いです、日増しに酷くなってきてます。私が何したって言うんですかぁ……」




少女を包む炎はまるで彼女の気持ちを代弁しているように、ぷちぷちと言葉を零すたび、愚痴を言って中のモノを吐き出していくたびに徐々に鎮火していった。




「全く、元はと言えばシャトゥちゃんが……、?」




やがて僅かに燻ぶりだけを残すほどまでに炎が小さくなったころ、同時に落ち着きを取り戻したのか少女が周りの様子に、具体的に言えば自分を見つめてくる二つの視線にようやく気がつく。




「あれ、此処は……ふぇ!? れ、レムさ……」


「奇遇な場所で会うな、ファイ」


「あ、はい、レムさ……あ、あの、あなたはレム様の御親戚か何かですか?」


「本人だ」


「でもその髪、それに瞳の色は……」


「ん?」




少女の視線の先、真紅の髪を指先で摘んで“彼”は少女の浮かべる困惑の理由に納得したように、他人事のような声を上げる。




「ああ、ホントだ。髪が紅くなってるな。って事は目の方も紅くなってるってわけか」


「は、はい」


「反動だな。あいつの力を使ってる最中は髪と瞳が紅に染まるんだよ」


「……はぁ」


「そう驚くことでも……ああ、そう言えばファイがこれを見るのは初めてか」


「は、はい。初めて、です」


「少し驚いたかもしれないが、髪とか瞳の色に大した意味はないから気にするな」


「そ、そうなのですかー」


「ああ」




大した事大有りですよ、とはこの時の少女の内心である。


そもそもこの世界で髪と瞳の色と言えばそのモノが生来持つとされる力の象徴でもある。赤ならば女神シャトゥルヌーメの御力が、青ならば男神クゥワトロビェの御力が、緑ならば男神チートクライの御力が宿っていると言われている。


なので髪を染めようとしても、染める事は出来ない。瞳の色を変えるなどは以ての外である。これは世界共通、一般常識として広く知られている知識である。



そんな力の象徴たる髪と瞳の色をコロコロ変えられるなど本来ならばあるはずがないのだから、少女が驚くのも無理はない。




「ま、そんな事はどうでもいいとして。此処にいる限り身の安全は保障する――」




一旦言葉を止めて、“彼”は自分の背中に隠れていた緑の少女へと視線を落とした。その意図をくみ取るように緑の少女は頷いて、立てた親指を元気よく前に突き出した。


そんな仕草をどこで覚えたのかと溜息を吐きながら“彼”は再び視線を目の前の少女へと戻す。




「……保障するから、お前は後は此処で大人しく待ってろ。いいな、ファイ?」


「……」


「? どうかしたか、ファイ?」


「ぁ、いえ。何かレム様の雰囲気がいつもと違ってるような気がして」


「あぁ、それはあるかもな」


「何だかワイルドと言うか、その……格好――」


「俺も此処まで――理性を手放したくて仕方がなくなるほどに頭にキてるのは久しぶりだしな」


「っ、そ、その割にはレム様冷静そうに見えますけど……」


「――そう見えるだけだ。一気に潰してもいいが、それだけじゃ詰まらないだろう?」


「つ、潰す? それに詰まらない、ですか……?」


「大体だなぁ――」




その後“彼”の浮かべた表情と言葉は永遠に少女の脳裏に刻まれる事になる。忘れようとしても、決して忘れる事など出来ないほどに克明に、鮮烈に。


それが悪い意味か――はたまた良い意味かというのは少女自身の思う所ではあるが。







「あの野郎の考えてる計画の悉くを潰して、最後まで徹底的に嬲ってやって、何をしようが無駄だって理解させてやる、極上の絶望と敗北をプレゼントしてやる……最低でもその程度はしないと気が収まりそうにないんだよ」


ファイ=下僕一号様

と、言う訳でファイさんが行くところは良くも悪くもおおむね平和っぽいところが多いです?



キスケとコトハの一問一答


「さあ、あの朝日に向かって走れ!」


「はい師匠っ!」


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