Wildfire-0
むー
眼下には幾万の、武器を手にしたヒトの群れ。
その興奮を隠そうともせず絶叫を上げる彼らの視線の先にいたのは一人の男。
ヒトが屑の様――否、屑そのものか。その思いとは裏腹に男は実に朗らかに声を上げた。
「皆、準備は良いかな?」
――おお、おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ
遥か眼下より届くは幾万もの雄叫び。
それを見下して男は満足そうに頷いて、笑みを“作った”。
「それじゃあ行こうか。そして“神に約束されし地”を我々の手に取り戻そうじゃないか」
――おおおおおおおおおおおお!!!!
幾万の雄叫びが、絶叫が、男の眼下では次々と消えていく。何処かへ“転移”していた。
眼下の者たちが消えていくのを見届けて、ようやく男が本当の笑みを浮かべる。
「全く、ひどい男だね、あんたは」
「……何の事かな?」
「何の事? それはあんたが一番良く分かってるんじゃないのかい――燎原の賢者サマ?」
「ふふっ。さて、やっぱり何の事だか良く分からないけどな」
「ほんと、ひどい男だよ、あんたは」
「そんな事よりも、君は行かなくていいのかな、ミーシャ?」
「――あたしをその名前で呼ぶのはやめな、ステイルサイト」
「おっと、そうだったね。君は可愛らしい本名で呼ばれるのが好きじゃなかったんだったね。忘れていたよ」
「……どうだか」
「では言いなおそう。幻惑の薔薇、君は彼らと一緒に行かなくてもいいのかな?」
「はんっ、そんなのゴメンだね。誰が好き好んで釣り餌になるって言うのさ」
「釣り餌とは酷いな。彼らが聞いたら怒るよ、きっと」
「でもその通りじゃないかい。今向かった奴らが撃退されるのをあんたは知っている。しかも殺されるんじゃなくて、あくまで撃退されるだけだ。そうだろう?」
「ああ、その通りだね。彼ら程度じゃ彼女らにすら敵わない」
「それが分かっていて奴らを喜々として送り込んでるんだ。これを釣り餌と言わずにどう言えって言うんだい?」
「偉大なる犠牲、かな?」
「どっちも変わらないね。むしろあんたの言葉の方が酷く聞こえるよ、あたしゃ」
「それはどうも。それよりも、君の言う所の好き好んで釣り餌になりに行くのが一人いたみたいだね。ほら、あそこ」
「んん? ……あれは、キスケかい?」
「そうだね。それにしても可哀そうに、彼の周りだけヒトがいないよ。ほんと、嫌われてるね、彼」
「そりゃ近寄ったら斬り殺されるってのに近づく馬鹿はいやしないよ」
「ふふっ、それは殺される彼らが悪いんだよ。知ってるかい、弱者と言うのはそれだけで絶対的な悪なんだよ?」
「酷い事を言うね。とても我らが希望の星、“燎原の賢者”様のお言葉とは思えないよ。下のあいつら愚図どもに聞かせてやりたいよ」
「そうだね。その時の彼らがどんな顔を浮かべるかと言うのも、面白そうだね」
「……それを真顔で言うから、あんたは怖いんだよ」
「それはどうもありがとう」
「――ちっ」
「それじゃ、こっちもそろそろ行こうか」
「行く? 最初からあんたが出るのかい?」
「――それは愚問だよ、幻惑の薔薇。欲しいモノはこの手で手に入れる。君も知っている、当然の事じゃないか」
「成程。そりゃそうさね」
「では、行くとしよう。かつてこの世の頂点が住んでいた場所、神に約束されし大地――竹龍の地へ」
最近ちょっと、一日一回がやばいかも知れなくなってきているので、今日はこのくらいでご勘弁を……!




