ど-299. まだ、平和
カウントダウン、1
ご注意ください
「そこな道行くお嬢さん、ちょっとお茶でも一緒にいかがです?」
「……、見事に素通りされましたね、旦那様」
「何故だ? 俺の、いったい何が悪いって言うんだ」
「これで通算十七人目で御座います、旦那様」
「そしてちょっと嬉しそうにしているお前が少し恨めしい」
「嬉しそう、ですか? 私は特別、嬉しがっているつもりはないのですが……」
「表情変わりなくても雰囲気に滲み出てるんだよ。くそぅ、俺がお嬢さんに相手にもされないのがそんなに嬉しいのかっ」
「実に当然の……まあ一応は喜ばしい? 事実では御座いませんか。旦那様が現実をしかと見直す良い機会になるのではないかと進言させて頂きたく、存じ上げます」
「見直すも何も、俺に落ち度は何もないはずだ。そのはずなんだっ。なのに……何故だ。しかも今日に限ってこの体たらく……」
「旦那様、気づいておられないようですので申し上げさせていただきますが、」
「何だ?」
「こちらをご覧くださいませ、旦那様」
「こちら? ……ふむ。なあ、これってどういう意味だろうな?」
「どういう意味も何も、そこに記されている通りの意味なのでは御座いませんか。『この顔を、ピンと見たらお城まで』……ああ、確かにリッパー様の署名も入っておりますね。間違いなく本物です」
「なんで俺、こんな指名手配みたいに扱われてるんだ?」
「大方の想像はつきますが、気になるのでしたら本人に聞いてみたら如何ですか」
「ああ、そうする……とは言っても少しでも早く俺に逢いたい気持ちが暴走してしまった、お茶目かなにかだろうけどなっ」
「だと宜しいですね?」
「って、おい。それはどういう意味だよ?」
「旦那様の逞しいご想像にのみお任せ致します。所で旦那様、どうやら街の治安の方は安定しているようで御座いますね」
「ああ、まあそこはリッパーだから心配しなくてもいいんじゃね? とかとは思ってたけど、まず予想通りの結果だな」
「そうで御座いますね。リッパー様は国民の方々から大層人気が御座いますから。そして旦那様はリッパー様よりこの世で一番の謎と言っても過言ではないほどに人気が御座います」
「いや言い過ぎだろ。この世で一番、ってのは流石に」
「そうで御座いましょうか?」
「ああ。第一な、俺が人気者なのは俺の溢れんばかりの素敵オーラの所為だから、当然の結果だ」
「そう言う設定も御座いましたね?」
「設定言うな」
「では妄想という事で落ち着いておきましょう」
「落ち着くかっ。妄想でもなくて、誰がどう見ても疑う必要すらない事実だろうが。ほら、お前も見ろっ、俺の輝かんばかりのこのオーラをっ!!」
「私だけではなく、道行く皆様方から見られておりますね、旦那様?」
「ふっ、俺の魅力は道行くモノすべてを魅了するぜっ」
「単に好奇の目で眺められているだけに御座います」
「お前はそんな見分けもつかないのか? 好奇の視線の中にもほら、あるだろう? 羨望とか、嫉妬とか憧れとか、その辺の感情が」
「……、そうですね?」
「そうだろう、そうだろう。うん、うん」
「では旦那様、城の方へ呼ばれるより先に、リッパー様の元へと参りますか?」
「ああ、そうだな。態々手間を掛けさせることもないし。それにどれ、行き成り顔を見せてちょっと喜ばせてやるか」
「…………、何でしょうか、この湧き上がる不安は。何か、重要な事を見落としているような、そんな気が――」
ある意味、タイムリミット。
旦那様の(余計な)一言
「俺ってば、ある意味じゃ犯罪者♪」




