ど-630.“運命”とは変えられぬ定めであり、つまりは“結果”のことを指す
魔物? にかかわらずギルドとかの関係、
F→E→D→C→B→A→S→SS→F
なぜ最初と最後にFクラスがあるのかは、馬鹿と天才は紙一重、的な感じ。馬鹿な子ほどかわいいとも言う。
「旦那様、旦那様」
「……あん?」
「ここで面白い小話をひとつ」
「却下だ」
「何故で御座いましょう?」
「そもそもお前の小話に“面白い”要素はない」
「それは聞いてからのお楽しみで御座いましょう、旦那様?」
「……ゃ、何かオチというか、結果が見え透いてるからさ。――はんっ、どうせ俺をけなして終わりなんだろっ、おしまいなんだろうがっ!!」
「――旦那様」
「な、なんだよ? 違うとでも言う気か?」
「いえ。先に結果を仰っては詰まらないではありませんか」
「つまらなくねえよ!? つか分かってはいてもそこは否定してほしかった!!」
「それは無理なご命令に御座います」
「無理なのかっ!? 俺を貶さないってのがそもそも無理な注文なのかっ!?」
「旦那様のご命令には率先して誤解したいものと、ついうっかり意図的に誤解してしまうものと、命令の隙をついて以下に旦那様を困らせて楽しむかを熟考するものとが御座います」
「全部同じ意味だ!」
「ご指摘を受けるまでも御座いません」
「というかなにそれ、お前俺の言うこと真面目に聞く気ないの? というかなんで全力で俺のこと困らせる方向に向いてるんだよっ!?」
「私としても旦那様を困らせるのは楽しいのです」
「いや違うから。そこはせめて嘘でも『辛いのです』と言っとけって」
「では真っ赤な嘘ではある……かもしれませんが、私としても旦那様を叩きのめすのはずいぶんと昔に私の趣味のひとつになりました、あぁこれは嘘では御座いませんのであしからず」
「あしからず、じゃねえよ!? 勝手に人のこと叩きのめすのを趣味にしてんじゃねえよっ」
「問題ありません。つまりは旦那様が私に叩きのめされるのを悦べばよいのです。これですべて解決、」
「な、訳あるかっ!!!!」
「大丈夫です、旦那様。先ほどまでの私の言葉はすべて場を和ませる為のウィットにトんだ冗談、――紛う事無き本心です」
「ウィットに富んでないし冗談でもないじゃねえか!」
「……ふむ、私の話術もまだまだ捨てた物ではありませんね」
「何、それ! いったいどこからどうやってその言葉にたどり着いたんだ、お前!? と言うか捨てろよ、捨てていいよ、そんなろくでもない話術っ!!
「それでは詰まらないでしょう?」
「いや、んなことないからっ、全然詰まらなくもな、」
「詰まらないでしょう?」
「……」
「旦那様?」
「――なあ、」
「はい、旦那様」
「お前は変化に富んだ波乱万丈――それこそ毎日が命の危険と隣り合わせな日常と、平穏で平凡――全ての幸せが己の狭い世界のうちにある代わり映えない日常と、どっちが楽し……幸せなんだと思う?」
「旦那様、まことに申し訳なく思うのですが私にとってその質問は限りなく無意味です」
「何でだよ?」
「私は旦那様と伴にいられるのであればそれが煉獄であれ極楽であれ、何も問いません。幸せと言うならば、私は旦那様と伴に居られるならば他には何も望みはしないでしょう」
「……ああ、お前ってそういうやつだったよな、つかつまらない答えだな、おい」
「旦那様にとっては、そうでしょう」
「全くだ」
「では――判っていてなおお尋ねいたしますが、旦那様ならば退屈な幸せと胸躍らせる不幸と、どちらを選択なさるのでしょう?」
「言うまでもないな」
「はい、存じております」
「まっ…………波乱万丈の平和な日常だ」
「ではそんな旦那様に朗報を一つ、持ってまいりました」
「朗報?」
「あるいは面白い小話とも言います」
「……分かった。つまりは何か大変な事件な訳だな」
「何故、旦那様はそのように進んで曲解されようとなさるのでしょうか」
「あえて言うなら経験則だ」
「左様で御座いますか」
「んで、その面倒事……いや、朗報とやらを聞こうか。どうせ禄でもないことに決まってるけど」
「この度目出度く魔王軍が組織されました」
「全然目出度くねえよ、つかそれ世界的な一大事じゃね!?」
「魔王軍の首魁は当然旦那様」
「何か知らない間に悪の親玉にされてる!?」
「……」
「って、おい、冗談だよな、今のはさすがに冗談だよなっ!?」
「で、あればよかったのですが……」
「って、マジなのか、え、いや、本当に本気で俺が魔王軍の親玉とか? 俺の知らない間にそんなことになってんの!?」
「何を仰られているのですか、旦那様。頭は駄目ですね」
「いや、何をも何もお前が言い出したことで、」
「不思議な妄言をされる旦那様ですね。私は旦那様が新生☆魔王軍の首魁であればよかったのですが、残念なことにそうではありません、と申し上げただけですよ?」
「騙された!」
「そのような事実は御座いません。私は事を全うにお伝えしただけであり、それを旦那様がいつもどおり勝手に曲解なされただけに御座います」
「……何が曲解、だよ。お前がいつもそういう風に仕向けてるくせにっ」
「そしていつまで経っても驚くほど単調に引っかかってくださる旦那様は素敵です」
「……」
「まあそんな旦那様の可愛らしい一面は私の胸のうちに永遠にしまいこんでおくのですが、」
「いや、今すぐ忘れろ、と言うかその事実をお前の中からなかったことにしろ」
「一つ、困ったことが御座います」
「俺はお前の存在そのものが困ったものだよ」
「旦那様、私は真面目な話をしているのですが?」
「俺も真面目だよ?」
「……」
「……」
「……ああ、分かった分かった。マジメなお話、ね。いいよ、いいさ、聞いてやるよ。ほら、言ってみ?」
「新生☆魔王軍の中に推定Fランクの魔物の存在が複数確認できました」
「ああ、そう、Fランクの魔物が複数、……――もう一度言え」
「Fランク、つまり"規格外”の魔物が“複数”、確認できました。私自身が確認したので間違いは御座いません」
「ピンからキリまで、どれほどだ?」
「流石に旦那様と同レベル、は“三体ほど”しか確認できておりませんが、他は少なくとも最低でクゥワド様と同レベルかと。数で言えば、十四匹に御座います」
「最低で神レベルって……普通に世界滅びるんじゃね? つか、魔王様はどうなったんだよ?」
「へたれちゃんは館で“隷属の刻印”を刻まれた皆様方と楽しく戯れているようですね。魔王軍には一切関与しておりません」
「……それでいいのか、魔王」
「今更、魔王の事など些細なことです」
「ま、“軍”ができて、しかもFランク相当が複数、ってなると確かになぁ……」
「はい」
「で?」
「で、とは如何なさいましたか、旦那様」
「お前はそいつら見て、どうしてきたんだ?」
「ああ、どうやら“彼ら”には知能、いえ知性が一応とはいえあるようでしたので“軽く”挨拶などをして帰ってきただけですが?」
「軽く、挨拶、ねぇ?」
「はい。“軽く”、“挨拶”だけ、で御座います」
「……」
「何で御座いましょうか、旦那様」
「いーや、何でも」
「左様で御座いますか。旦那様がそのように私の美貌に見惚れるのは致し方ない、」
「いや違うし」
「……」
「……」
「しかしながらご安心くださいませ。旦那様が考えておられるようなことなどは、一切してきておりません」
「へー。……んで、俺が考えてることってたとえばどんな?」
「少女型の魔物を攫ってコマして酒池肉林?」
「ざけんな、だれがンんなこと考え、」
「フォロゥ――、アーク・プリム」
「――」
「前科のある身で何を仰いましょうか、旦那様」
「……あ~」
「反論があるならばお聞きいたしましょう」
「……」
「……」
「――酒池肉林っ、上等じゃねえかっ!! 俺が目指してんのは世界中の女の子との夢のハーレムだぞっ、高々酒池肉林程度で怯むかよっ」
「それでこそ旦那様と言うものです。一度煉獄へでも旅行に逝かれては如何ですか旦那様」
「断固として遠慮する」
「今ならば世界一の美女がお供につきます」
「だが断るっ!」
「私の何が不満と仰られるのですか旦那様っ!?」
「いや誰もお前を不満とか言ってないし、というか自分で自分のことを世界一の美女とか言うのは如何なものかと」
「事実ですので」
「サラッと言いやがったよ、こいつ。いや、でも人には好みというものがあってだな、」
「好みなど私の前では些細なものですね」
「……」
「ちなみにこれは不幸にも今まで6,568人の恋愛中あるいは既婚の男性の心を奪ってしまった実体験から来る発言ですので、旦那様の如き薄っぺらなものでは断じてございませんのであしからずご了承くださいますよう、お願いいたします」
「お前何してんの!?」
「実に不幸な事故だったのです」
「いや、百人超えてる時点で事故とかないよな?」
「私はすでに見も心も旦那様の物。そうお伝えして幾人もの男性が嫉妬に駆られた悪魔の如き怨念の塊に変わりました」
「何か時々変な男に絡まれるとか思ってたのもしかしなくてもお前の所為!?」
「そして続けてその男性を愛していた女性の方も皆、こういうのです。『全部、あの男の所為だ――』」
「いやどこからどう見てもお前の所為だよなっ、お前が全部悪いよな!?」
「私は見も心も純真ですので恨みや嫉妬を買うことなどないのです。よって、彼ら彼女らの仄暗い情念は全て旦那様へと向かいます」
「何それ、つかそれはもうすでにただの八つ当たりじゃ?」
「皆が旦那様という名の恨みのはけ口を捜しているのです」
「そこでなんではけ口が俺に限定されてるんだよっ!?」
「心理誘導の賜物です」
「やっぱりお前のせいかああぁぁぁぁ!!!」
「はい」
「……」
「というわけで旦那様が常日頃より狙われるというありふれた日常は今はどうでもよいのです」
「いやどうでもよくないから、ってかそれって俺にとっては死活問題だよな、だよなっ?」
「話を戻しましょう、旦那様」
「や、だからっ――」
「魔王軍、――如何いたしましょう」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ほっとけば?」
「よろしいので?」
「別にいいんじゃねえの? 俺たちに直接戦争吹っかけてきてるわけでもなし。なに、それともお前は戦争でもおっぱじめたいのか?」
「いえ、そのようなことは御座いませんが……不精ながらもう一度確認させていただきますが、旦那様は本当にそれでよろしいのですか?」
「……――なあ、昔、誰かが『喜劇には悲劇が必要だ』って言ったのを覚えてるか?」
「はい。忘れてなどおりません。そして旦那様はこうも仰いました、『日常に喜劇なんざ必要ねえよ』と」
「うわっ、何それ。俺、んな恥ずかしいこと言ったか?」
「はい、確かに仰られました。そのときの情景とあわせてこと細かくご説明いたしましょうか?」
「いや、やめろ。つか昔の自分を語られるとか、それなんの羞恥ぷれいだよ」
「では旦那様のリクエストとあらば――」
「や・め・ろっ!」
「……大変不満ながら了解いたしました」
「それでいいんだよ」
「……」
「で、だ。まあそんな感じのことを言ったかもしれないけど、俺は同時にこうも思うわけだ、」
「「変わらないものは唯一、死んでいることだ」」
「――って、あれ?」
「こちらも以前旦那様に伺ったことが御座います」
「……そうだっけ?」
「はい。元より私が旦那様のお言葉を忘れるなど、ありえません」
「あー、あーあー、、あー……そっか」
「はい、旦那様」
「まあ、つまり何が言いたいかって言うと生きるうえで“試練”ってのは必要だと思うわけだ、俺は」
「旦那様は日々が生き残るための試練の連続ですからねっ」
「誰の所為だよ、誰のっ!」
「十割弱が私の暗躍によるものですが何かご不満が?」
「あり過ぎでもはや言うべきことが何もねえよ……」
「ご満足いただけているようで私としても恐悦至極、嬉しい限りに御座います」
「と、とにかく、だっ。今のところは魔王軍は放置の方向で」
「はい、分かりました旦那さ」
「あ、でも怪我したりとか危ない子を見つけたら助けるんだぞ? それに困ってたらちゃんと助けなきゃだし、まあ魔族の軍隊に攻められてるような場面に偶然居合わせたりしたら、助けないでもないかもしれないしっ、いや今からそんなこと考えても仕方ないんだけどなっ」
「……――まあ、所詮は旦那様ということですね」
「どういう意味だよっ!?」
「珍しく褒めました!」
「今のどこがっ!? つか珍しくとか言うんじゃねえよ!?」
「えへんっ」
「“えへんっ”とか口で言うかっ、てか全然威張ってるように見えねえよ、せめて表情だけでも変え、――そもそも威張る要素がどこにもねぇ!!」
「しかし旦那様のご意向は把握いたしました。これで私のこれからの行動も決まります」
「……やめて、なにか物騒なこというの、やめてっ」
「失礼なことを仰らないでくださいませ、旦那様」
「おっ、お前は余計なこととかしなくていいからっ」
「そうなのですか?」
「あ、ああ」
「そうですか。では、」
「?」
「ただいま、“何故かこちらへまっすぐ向かって来ている、先ほど申し上げたF級魔族が二匹と、その他大勢およそ五万の軍勢を相手に私はただ傍観していればいいのですね。分かりました」
「は、え、いや、ちょっ!?」
「しかし不思議ですね。何故彼らはこちらへまっすぐ向かってくるのでしょうね?」
「……ゼッタイオマエノセイダ」
「そうとも言えます」
「言えるのかっ」
「そのあたりは旦那様のご妄想にお任せいたしますが、私は旦那様の影より生暖かく見守らせていただきます」
「いや、待っ……」
「旦那様ならば――……強く、生きてください」
「何その半ば諦めた感じっ!? というかさすがにF級を二匹相手に俺だけってのは、」
「旦那様ならば……だめかも知れませんね」
「うぉぉいっ!? そこはだめでも大丈夫です、って慰めるところじゃね!?」
「……」
「目を逸らすなっ!?」
「では旦那様、最後に忘れているようですがひとつ、進言を」
「いや、最後とか言わずっ、」
「ユウ様を必ず守ってあげてくださいますよう、努々忘れることなきよう」
「――言われるまでもない」
「現地は取りました」
「はっ!? しまった、つい反射的に!?」
「女性は守るものという信念を反射的に実現できる旦那様はそこだけ見ることができるならば素敵です」
「ふっ、当然のことだ!」
「では旦那様、」
「応っ」
「――せめて散り際は華々しく散ってください」
「散ること確定!? ってかもういねえ、どこ行きやがった、いやそんなことよりも今は迫ってくるらしい魔王軍の対処が先かっ、それともユウを、ってそういえばユウは今どこだー!!??」
・・・昔の一日一話更新とか、どうやってそんなばかげたことできてたのだろう、とつくづく不思議に思う今日この頃。




