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【書籍発売中】悪役令嬢なんてもうちょい若い子に任せたい  作者: そらいろさとり
高等部 一年生編

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楽しい時間はあっという間に過ぎゆくものです


「ユーリ、食べてるか?」


ミラさんとの談義が終わり、皆さんと改めて食事をしようとテーブルに向かえば、ロイさんに声をかけられた。


「あらロイさん、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんわ。改めて優勝おめでとうございます。治療院から着いた時には終わってしまっていて、勇姿が見れずとても残念でしたわ」


「あぁいいんだ。あの馬鹿との試合なんて見なくて良かった…」


「そう言えば、そのグラヴァルドさんは?」


部屋を見渡すが見当たらない。

そっと机の下も覗いてみるが居ないし、あの大きな身体を見落とすはずもない。


「外に捨ててきた」

「え!?」

「気にするな」


シレッととんでもないことを言われたわ!


「食べないか?俺も空腹なんだ」

「え…えぇ、ではなにかお皿に取らせていただきましょう?」


本当に大丈夫なのかしら?そう不安になりながらも、立食パーティーの様に、小分けにされた食事をお皿に取り分けて、小さな2人がけのテーブルにつく。


お店はレイさんとロットさんの知人のお店だと言うことで、普段とは違うこんなパーティーにも嫌な顔せず対応してくれたらしい。


改めて見渡せば隅々までとても可愛らしくて、きっとアベックがデートとかで来るのかもしれない。


テーブルの淵に刻まれた模様もとても可愛らしく、思わず顔が綻ぶ。


「ユーリ、この店気に入ったのか?」

「ええ、可愛らしくて素敵なお店ですね」

そう言って微笑めば、何故だかホッとした様に笑ってくれた。


「このカナッペもとても美味しいわ!口に広がるチーズのコクに香り、それにお野菜もとても新鮮!」


美味しいと言うのを耳にしたのか、端っこで寝てたクロモリがのそりと歩いて来たので、一つ口に入れてあげると、もう一つと口を開ける。


「好き嫌いなく食べるのよ?うん。いいこね」

なんて撫でてたら、ロイさんが笑った。


「本当にユーリは分け隔てないな。俺が昔セルリア邸で食事をご馳走になった時も、俺にそう言ったな!…ハハッ!思い出したよ」

「あら?そうでしたか?そういえば昔は緑の野菜がお嫌いでしたわね。もう克服しましたの?」

「ユーリにそう言われて、幼心に悔しくてな。今では気にせずなんでも食べるさ」


そう言って野菜の乗ったカナッペをパクリと口に運ぶ。


「たしかに美味いな。また一緒に来るか?」

「ふふふ、普段にわたくしたちが勝手に来たら、お店側のご迷惑になりやしませんか?」

「そうか…なら、ユーリの様に俺もカツラでも用意して、変装してくるか」

「まぁ!それも面白そう」


久々のロイさんとの会話はとても楽しく、ずっと笑顔でいられた。


幸せで楽しい時間。


それでもふと頭によぎるのは、捕まった召喚士や泣いてる子達。



「…ロイさん…例の件は進展ございますの?」

「うん。少しはな。ここではなんだから、また後日何処かで話をする時間を作ろう」

「お忙しい中ごめんなさい…」

「ユーリが謝る事はないさ。これも俺の公務の一環だ」


そう笑うロイさんに微笑みを返せば、

「姉さん、デザートが新しく出されていたよ」

「まぁホント!?」


シルクの声に勢いよく立ち上がると、何故かロイさんが机でダンッと握り拳を作ってる。

…なんとなく、今わたしの手があった場所あたり?何故に拳?


「姉さん、あそこ。ほらもうミラさんが行ってるとこだよ」

「まぁまぁ!ありがとうシルク!可愛いケーキまであるわぁ♡」


ウッキウキと向かって、カラフルなデザートのどれにしようか考えるのだけでも楽しいわ!!


ご飯まだあまり食べてないし、デザートスペースは万全よ!!


また静電気的なバチバチと、シルクとロイさんが仲良くお喋りしてるけど、その内容までは聞こえない。

男同士の話に入るのも野暮だし気にしないわ!!





「……あの、それ、どこに入りますの?」


ウキウキタイムに向かう途中に目が入った、ロットさんとカフィのお皿に山盛りのお食事が乗ってるのをスルー出来ずに思わず質問してしまう。


「成長期ですものね…そりゃ食べるんでしょうけど…特にカフィの身体どうなってますの?うん?しかも2人ともそのお皿、取り分け用じゃなくて、メインで置かれてるお皿そのままではございません?」


「すまん姫さん。商売人は時間が命や。食える時に食え!!が家訓でな!」

「嘘をつくなよロット。君の父上も兄上も、普通に食べてるし、こんな大食いは君だけじゃ無いか」


堂々としたロットさんの話を信じそうになったら、シレッとレイさんが横槍を入れる。


ほくはこへはは(ぼくはこれから)せひひょうひらかられ(せいちょうきだからね)!」

もぐもぐにっこりカフィが笑えば、ロットさんが隣で

「オレかてまだ成長期や!!そのうちグラヴァルド超えやで!!」

と大風呂敷を広げてる。

それよりカフィの言葉理解できた方が素晴らしいわ。


「でも、成長期ですか…ホント皆さん伸びてますものね。わたしはもうそんな伸びる事も無いし、羨ましいわ」


男女の差は仕方ないと思うけど、昔はわたしの方が大きかったのに、シルクにロイさん、それにこの先にカフィにも抜かれると思えば少しだけ寂しくて。


「なにそれ?ユリエル様は充分背も高いし成長してるじゃないにょっ!!?」

「だってわたくし達では見えない高い目線でも世界を見てみたく無い?なによりお掃除もしやすいし」


デザートを持ちながら小柄なミラさんがプリプリしながらも話しかけてくれた。

てゆーか!頭乗りキャロットちゃん羨ましすぎるんですけど!!


「せやなぁ。背が高いのは便利やもんなぁ〜」

「ロットさんもですよ?」


そう空のお皿を持ってお代わりに立ったロットさんの腕を捕まえて、ピタリと隣に並べば、

「ほら、わたくしと並ぶと最初に会った頃よりそんな経ってないのに、少しですが見上げなきゃいけなくなりましたわ!肩の位置もちょっとですが違いますし、やっぱり男の子の成長は早いですわね!」


「姫さん…オレも気付かんかったこと言って貰えて嬉しいんやけど…」

「はい?」

「殺気が酷い。後頭部禿げそう。…いやえぇわ。オレはお代わりにいってくるわ」

「よくわかりませんけど、引き止めて申し訳ありませんわ?」


青い顔してロットさんが溜息と共にパスタとかを取りに行った。…その身体はまだ食事が入るのね…。


驚いていると、後ろから突然誰かに抱き抱えられて…「エリュー…これ高い?」とクロモリの声にちょっと驚く。


しかし確かにクロモリと同じ顔の位置だから、これがクロモリの目線なんだと気が付いて「本当に高いわ!クロモリありがとう」ナデナデして周りを見たら、ミラさんが真っ青な顔してこちらを指差し口をパクパクしながら「それ召か…!!」っと叫びかけた所で、その後ろに音もなく回りこみ「シッ…いいね?」そうレイさんはミラさんの唇を片手で押さえ、自分の口に人差し指を当てて柔らかく微笑めば、ミラさんは真っ赤になって、首をコクコクさせている。


あれは犯罪だわ。犯罪級のイケメンだわ…



「おぉ!!レイ!!ロイサマよ!!なんだか眠くなっちまってぇ悪いなぁ!!目ェ覚めた所で一戦頼まぁ!!」


「なんで!?キャロットの睡眠魔法なら半日は寝てるはずなのにっっ!!やっとユリエル様と話せてるのにっっ!!キャロット!もう一回やっちゃって!!」


また勢いよく扉が開くと、何事もなかった様にグラヴァルドさんが入って来た瞬間、そう言うとキャロットちゃんがミラさんの頭から飛び、空中で何やら可愛らしいポーズを決めると、



「「ぐぅ…」」



わたしの記憶はそこで途切れた。






「………姉さん?」

「………ユーリ?」


そのままクロモリの抱っこで眠るユリエル。


「ミラはん…何してますのん?」


周りは驚きながらもこの部屋で眠っているのが、グラヴァルドとユリエルだけの現状に、彼女を近くで知る皆には思い当たる節があった。




 『単純馬鹿にはよく効きましゅわ』




「え!?え!?わたしもキャロットもユリエル様になんて掛けてないれすわ!?!」


「うん…姉さん、君の召喚獣とグラヴァルドさんの間に居たしね…しかも召喚獣が飛んだ時、可愛い〜って完全に目で追ってたしね。……うん。ごめん。それじゃなくても掛かる気がする。理由はあえて言わないけど」


無言で頷く人々に、1人慌てるミラ。


「ミラはんは悪う無いで?ここで責めたらオレら目を覚ました姫さんに怒られるとも思うしな…。ほな!!宴もたけなわやけど明日からまた学園も始まるし、そろそろお開きにしよか!!みんなお疲れさん!来週からもまた頑張ろな!!」


そうパンパンと手を叩けば、みんなお疲れ様や、ありがとうございましたなどと、終わりの挨拶を交わす。


「グラヴァルドだが…」


ロイが一応聞けば全員が外を指差す。

頷くとロイは風魔法に乗せて林の奥に大雑把に投げ捨てた。

勿論止めるものは誰も居ない。








そして屋敷に着く直前に目を覚まして、現状を確認したユリエルが


「まだウキウキ(デザート)タイムに入ってなかったのにぃ〜〜!!」


と泣き叫んでシルクを困らせたり、クロモリに慰められたりしながら、その日は終わったのであった。













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仁藤先生の美麗な表紙が目印の、2025年8月発売
『悪役令嬢なんてもうちょい若い子に任せたい』

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