頑張ったからって努力が報われるわけじゃない。
「……フッ、アラフィフの記憶力舐めてたわ……」
わたしは、誰に見られても大丈夫な様に書いた日本語の走り書きを見返す。
『12歳中等部
→婚約伸ばしたけど、ここで決めなきゃいけない(現在)
覚えてること
→メインキャラ ロイ様
攻略キャラ 赤髪の人、青髪の頭いい眼鏡 銀髪イケメンも居たはず。
15歳高等部入学
→ヒロイン登場
ピンク頭の男爵令嬢か、異世界転移の聖女的なキャラのどっちか。
→攻略キャラ追加 たしか先生 イケメン。たしか隠れキャラとか居たはずだけど、ゲームで出たらしいが、読んだ本にはサラッとしか出てなかったから覚えてない。
あと髪色が特殊なイケメンに注意。
18歳高等部卒業
→卒業式だか、卒業パーティーだかで、ヒロイン虐めたとかで婚約してたら婚約破棄からのゲームでは何パターンだか有ったらしいけど、読んだものは婚約破棄からの…なんだっけなー、平民落ちだった気がする。
殺されはしなかったはず。多分。隣の国への島流し?違うな、結婚相手がしょうもない格下のヒヒジジィ?
→とりま婚約したくないなー無理かなーまずはなんとかなんないかなー 』
読み返して頭を抱える。
いやマジで頼むよ前世の自分…いや、わかるよ。子育て粗方終わったって、仕事に家事にご町内の役員だの、なんだかんだ忙しかったよね。その合間の気分転換に娘の置いていった本読んだよね。ちょいと現実逃避して、また用事再開だったもんね!!
でもさ、この記憶酷くない!!?
読んだやつでは基本ストーリーある程度覚えてて、それをどうやって回避しようかな〜的なのが御約束じゃないですか!!?
攻略キャラの名前がたまたま知ったロイ様のみしか覚えてないとか、ヒロインがこの世界に在籍してるのか異世界転生なのかすら思い出せないとかっ!!
色々注意のしようがねぇわ!!!
もうコレ断罪されて仕方ないレベル…泣ける。
わたしは無言でノートを閉じ、クローゼットの奥の箱に仕舞い……、
「お散歩いこーーーーーっと!!あと甘いもの食べた〜い!」
現実逃避に満面の笑みで庭園に駆け出したのだった。
うん。わたし的に努力はした。
結果大したこと思い出せなかったけど。
何もしないよりはいいし、現実逃避と言われようとなんだろうと、とりあえずこの幼い身体に、日光当てないとか、もやしっ子になっちゃう。
てか令嬢ならもやしっ子万歳、白肌万歳!?
はっ!!つまり逆に焼けばいいのか!?なつかしのガングロギャル!!ヤマンバ系ファッション!!?そんな奴に誰が婚約したがるのか!!ナイスアイディィィィィア!!
「ヤマンバ…とは?」
「山に棲んでるオニババの事ですわ〜!お肌をコンガリ焼いて、奇抜な格好してたら、誰が好き好んでわたしなんかに婚約を〜……」
そこまで踊る様に答えて、血の気が引いた。
「心の声が……漏れてましたでしょうか?」
特技のテヘペロも、笑顔なのにヤマンバよろしくとんでもないオーラの出ている少年には効かないらしい。
「うふ…ふ?いついらしたの?ロイ様?」
「今しがただ。ユーリが見えたので、御当主の前にお声を掛けようかと近づいたが、随分ご機嫌のようだな。」
「ご…ご機嫌なので…ごきげんよう〜!!?」
走って逃げようとする私のスカートの裾をロイ様が踏みつけた為、思わず顔面から転んだわたしに、天使のような悪魔の笑顔で……あら、懐かしいフレーズ…じゃっなくて、とにかくそんな笑顔でロイ様は覗き込み、
「大変だ。御令嬢の可愛らしい顔に傷を作ってしまった。これは責任問題だな。どう思う?」
「だっ大丈夫です」
「そうか、そう言うなら責任問題として当方で責任を取らせて貰おう」
「へ!?大丈夫って、そうじゃなくてっ!!あのいや大丈夫なのです!!」
「そうか、責任を取ってもらえれば大丈夫との事だな。僕の失態だ。すまなかった。では取り急ぎその様に、御当主と話し合ってくる。大丈夫、子供同士の話し合いで済ませぬ様、キチンと叔父上も連れてきている。父上は流石に無理だったがな。では、後ほど」
「いやですから…? ん? え? 大丈夫の使い方……」
呆然としているうちに、ロイ様はスタスタと6歳児とは思えないスピードで我が家に行き、いつの間にか少し離れていたアナが駆けてきて怪我の具合を心配され、近くの東屋で救急セットで小さな傷を手入れされてる間に、大きな傷を広げた事に気づき、
「やられたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と、ストーリーの強制力とやらなのか、とんでもないスピードで、一つ目のフラグが立てられたことに、令嬢とは思えない叫び声をあげたのだった。





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