８時４５分くらいのアレの出る時間なのよ！

クロモリと目が合うと、口付けをする様にわたしの口から布を取ってくれる。

一つ咳き込んでから「腕と足もお願い」と言えば、鋭い爪で荒縄をアッサリと切ってくれた。

「ありがとう。殺してはだめよ？」

一つ撫でて、クロモリの大きなオデコにわたしもオデコをくっ付けると、その温かさに安心出来た。

震える彼らに向かい合い、大きく息を吸い目を見開いて、ゴロツキ達を勢いよく指差して叫ぶ。

「さぁクロさんモリさん！やっておしまいなさい！！！」

某御老公様を彷彿とさせる呼び方をしてみるが、クロモリは気にせず飛びかかっていった。ツッコミ不在。

窮鼠猫を噛むつもりなのか、震えながらもかかって来るゴロツキを、千切っては投げ、千切っては投げ…

「ちっ…千切っちゃだめよ！！？程々に立ち上がらないくらいに痛め付けてね！？」

我ながら無茶を言っているのは分かっているし、暗いおかげで飛ばされた人はあまり見えないにしても、阿鼻叫喚の図だわ。暗くて良かった。

こういったことはドラマの中のみの平和な前世と、今の引き篭もり令嬢には血の臭い漂うこの光景はどうしょう辛みざわ……これ使い方合ってるかしら…？

倒れている人を縛り上げておいた方がいいと考えるものの、素人が結んだところで役に立つとは思えず断念。

…だから死なない程度に倒して！クロモリお願い。

役に立たない主人でごめんね…

外ではまだ雨が降っている音がする。

「そうだわ！！クロモリ外に2人よ！！」

それを聞いて室内は片付いたのか、体当たりで扉を開け、外に駆け出した。

この空間ではクロモリには狭過ぎた。

それでも床を蹴り壁を蹴り、縦横無尽に飛びかかる黒豹相手に敵う人などいるはずも無い。

下手に動くと巻き込まれそうなので、わたしちゃんとその場で動かず待機してました！役立たずだけどちゃんと邪魔しない役立たず！！

しかし外に居た人間には、物音や悲鳴を聞こえていただろうし、きっと扉を開けなかったのを見ても仲間を捨てて逃げている。この森の中では捕まえられないかもしれない。

それでもこんな事してアッサリ逃げられるなんて思わないで欲しい。

ガタリと音がしてそちらを見れば、頭や腕から血を流しふらふらと立ち上がる男の手に、ナイフが光るのが見えた。

「てめぇ…何者だ…」

震えた手でナイフをこちらに向けていて…一瞬恐怖で固まる。

けど、ここでそれを出してはいけない。

震える手をギュッと握りしめ、相手の見下す様に見て願う。

原作ユリエル！！力を貸してッッッ！！！！

「オイっ！お前…なんなんだよ！！！」

「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情けね！！わたくし、ユリエル・セルリア！！このわたくしと出会ってしまったのが運のツキですわ！！」

背筋をのばし、肩に掛かった髪を後ろに流してビシッと決まった！！

…ちょっと某宇宙の乗り物団みたいな決め台詞になっちゃったけど。

だってそんな即良い言葉思いつかないわよ！！

原作ユリエル降臨ならず！

高笑いも入れようかと思ったけど、やったことないからミラさん張りに咽せそうなので自粛。今度練習してみよう。

ゴロツキは更に顔を青くし、手を震わせながら「うわぁぁーーー！！」と叫んでナイフを持ったまま突っ込んでくる。

それをなんとか左に躱(かわ)して、そのまま避けると見せ掛けて足だけ残せば！

ゴロゴロゴロツキドーーーーン！！

……足掛けで予想以上に…漫画みたいに転がったわ。

いや、わたしの力ってわけじゃなく、クロモリからの攻撃で既にまともに立てない位にボロボロだったからだけどね！！

「ユーーーリィィィッ！！」

叫び声の様に名前を呼ばれて開いた扉から外を見れば、もう薄暗い中走ってくるロイさんが見えた。

あとアベイルさん？周り居るのは騎士団かしら？

見えた瞬間安心して笑みが漏れ向かおうとするが、足を数歩動かしたところで膝から…いや、全身から力が抜けた時、走ってきたロイさんが抱き止めてくれる。

それがなんだか少し可笑しくて、

「ロイさん…まるで王子様ですわ…？」

「まるでじゃない！俺は…」

ロイさんは髪も服も濡れているのに、頬には温かい涙がポタリと落ちた。

「ごめんなさい…でも被害もなく無事ですわ。ミラさんよりわたしで良かった。あの…ミラさん…責めないであげて…ください…ね」

そこまで言って、安心感からか意識は闇に落ちた。