学生って凄いよね。勉強して体動かして色々学んで頑張ってる!当たり前みたいだけど偉い!!
「まぁクロモリのことは追々話そう。今日はユーリとクロモリの様子を見に来ただけだ。生徒会も忙しい中悪いが帰らせて貰う」
そう言って優しくわたしの頭を一つ撫でて出て行こうとする。
「あっ!お待ち下さい!コレ…」
慌てて立ち上がり端のテーブルに置いてあったわたしのバックからそれを取り出すと、ロイさんの元へ行き手渡す。
「これは?」
「無事を祈る刺繍をしたハンカチですわ」
戦いに挑む男性には女性は刺繍をしたハンカチを送るのだとアナに言われ、王妃教育でも習ったのはこんな時の為なのかと、チクチクと夜な夜な作ったハンカチを手渡す。
「…なんだか…その…前衛的なデザインだな?これは?」
「他国の古代の言葉で無事を願う言葉です」
文字は日本の漢字で『安全祈願』と書いてある。
アナにはめちゃ変な顔されたけど、薔薇やら百合やらより願いが込めやすくていいと思うの。
ハンカチが御守りだと言われたら、元日本人の記憶が御守りと言えばこれだろうと、それからどうしても他が思いつかなかったのよね。
「そうか。ありがとう、試合の時に持っていく」
「はい。どうかお気を付けて下さいませ」
笑顔で送り出した後は、まだ纏めただけのプリントを用途で分けて、来週の魔法祭に向けての準備を始める。
明日からは注文していた垂れ幕や、当日来る補助をしてくれる魔法士さん達との対応で忙しくなるそうで、わたしとシルクも引き続きお手伝いすることになってる。
正直今年の役員の2人とアベイルさんでは貴族との対応をするには地位が低いので、居てくれると助かるとお願いされた。
てか学生が頑張ってるのに、地位とか言う!?もう若者が頑張ってるだけで褒めてあげようよ!毎日勉強してこんなに努力してその上でお祭りごとまでやるのにね!!
プリプリしてたら「やっぱりユリエルくんは変わっているね」と爽やかな笑顔を貰ってしまったわ。
もうイケメンな若者からのスマイルだけでご馳走様です。
十分なご褒美貰ったから、あとの一週間も頑張れるわ。
ーーーーーー…なんて思ってた日もありました。
いや、あれから毎日バタバタと凄して過ごしてたのよ。
新たな書類や事前確認に来られた来賓の方を案内したり、搬入業者とレイさん達が対応する時にお茶を出したり、プリント提出やら、一部の飾り付け等々…それはそれは忙しい毎日でした。
ちなみに外部とのやり取りの時に髪色だけはカツラを被って対応したのよね。
珍しい髪色だし、ロイさんが『出来るならそうしてくれ』って言われたら断る理由も無いし…ちょっとたまに面倒だったけどその程度だしね。
そして召の曜日。もうやれる事はやったし、明日と明後日はお休みだし、放課後にシルクが来るまでいいわよね〜と、髪を纏めて久々の三角巾を被り、週明けの魔法祭に向けて飾り付けられた正門近くのお掃除に鼻唄混じりで勤しんでおりました。
すると久々のミラさんが垣根の間から現れて、いつものごとく手を上にあげ、キャロットちゃんを召喚して嗾けて来たけれど、キャロットちゃんは一旦飛びかかってきた……が、わたしとミラさんの間辺りで止まってしまった。
そしてその場でプルプルと震えていたので、怖がらせて申し訳ないと、駄目だと思いながらも、本能の赴くまま思わず抱きしめてフワフワ撫で撫でを堪能していると、正門から明らかにゴロツキの様な方が3人ほど現れ、
「こいつが召喚士だ!捕まえろ!!」
なんて言われて、狙いかもしれないMAXキュートなキャロットちゃんは思わず逃がしたまでは覚えて居るのだけど、そのまま担がれ馬車に乗せられ、口に布を詰められ、運が悪い事に目に大きな三角巾がズレてしまい前も見えない状況で、手首足首と縛られて、ドナドナドーナってるの〜?!な状態。
そして考える。
わたしが召喚出来るのを知ってるのは、まだ家族とロイさん、そしてレイさんロットさんだけなはず。
婚約者としての報告が王族へ挙げられたとしてもお父様かロイさんがそんな公表される場所で言うとは思えない。
レイさんロットさんもそれでなくともこんな忙しい時に誰かれ構わずに言ったとは思えない。
つまりアレだわ…
THE・人違い!!!!!!!
わたくし公爵令嬢よ!?
勘違いで拐うには不味くない!?酷くない!?
ミラさんを拐おうとしたあなた方に同情はしないけれども、間違える相手が大惨事よ!!?
とりあえずクレームを入れるが、口の布が邪魔でそれを吐き出すことも出来ず、当然わたしの文句は言葉になってない。
「召喚士ってのは、決まった動作で魔力を集めて呼び出して召喚するんだろ?なら手を動かせないようにするか、言葉を発せないようにすりゃ、怖い事ねぇんだからな」
…いや、違うけど。
あれ?違わないのかしら?思い返せば、ミラさんいつも上に手を挙げて、声を上げてたわよね?
喋る内容は違ったけど、わたしも名前を呼んで召喚するし、声は媒体なのかしら?わたしはポーズは取らないから、手足は関係ないのだけれど。
あとは魔法祭が終われば魔法の授業も始まるし、そこで聞いてみればいいわね。
しかしレアな召喚士の先生なんていらっしゃるのかしら?
「こいつ怖がって声も出せねぇようだぜ?」
下卑た笑い声が数名聞こえる。
……そうね。正直怖いわ。
身体の震えを隠すのに必死よ。
ガタガタ揺れる馬車のお陰でバレていないだけ。
でもさ、こーゆーのってヒロインじゃないの?
ヒロインどこ行った!?え!?もしやミラさんがヒロインだったのかしら?
…えっと、ミラさんはとてもとても愛くるしいけど、ヒロインがあんなに噛むとは思えないのよね…いや、ヒロインレベルで可愛いとは思うのよ!!
なんて妄想のミラさんに言い訳をしてみる。
「しかし召喚士を買い取るやつが居るってんだから、物好きもいるもんだよな?あんなウサギ召喚しても大したことねぇだろうに」
いや!大したことあるわよ!!
召喚士買い取って、あのフワフワ可愛いキャロットちゃんを思う存分撫でられるとか…え!?幾ら出せばいいのかしら!!?
…おっとだめよユリエル。
そんなこと考えたらこの人達と同じよ!!
キャロットちゃんさっき撫でたらフワフワだったわ…可愛かった…
暫くガタガタと揺れる道を走り続け、ガタンと馬車が揺れた。乗り心地の悪い馬車の床は更に乗り心地が悪かったわ。
降りるぞとかなんとかガヤガヤ言っていて、結局わたしも小脇に抱えられて運ばれているっぽい。
念の為スパッツ履いてて良かった…





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