* 高いものは売上金だけで充分や。
ロット目線です。
「ロットさんおはようございます」
「おっ!姫さんおはようさん!闇光の休みで疲れは取れたんか?」
「はい。ロットさんはお忙しかった様ですね。先日の件で商会の方にはご迷惑になってませんか?」
「いやぁ、商人に取ったらありがたい悲鳴やからなぁ。感謝こそすれ、迷惑やなんて誰も思うわけあらへんわ」
「そうですか?もしなにかわたくしに出来ることあれば言って下さいね。またお店にも行きたいし…」
「それはいつでも大歓迎や。後ろのシルっくんが許可してくれたらまた来てや」
「ええ。また行く日が楽しみだわ。その時はまた色々お店教えて下さいね」
柔らかに笑いを向けられ、各々クラスに向かうため別れて何となく気になって振り向けば、背筋を伸ばして歩く姿が目に入る。
「姫さんだけでなく、シルっくんもピシッとしとんなぁ〜」
こうして見ればなんと絵になることか。
なんて思ったことでも知れたら、どこぞの王子の逆鱗に触れる事もわかってるので、誤っても口にはしない。
いや…あの王子も去年見た時はもっと取り繕ったようなお綺麗な笑顔で内面見せなかったのが、彼女が来てから日に日に独占欲なのかハッキリした性格が出てきたのも驚きだ。
それにしてもあの彼女は入学式に突然代理で答辞を読むことになった時、あのたった一回でどれだけの生徒の心を掴んだのか、きっと知らない。
その美しい見た目すら添え物と感じさせる、芯の通った凛とした声で堂々と読み上げ、そして最後にまるで子ども達を見守る聖母の様な優しい笑みを浮かべ見渡したあの瞬間、何人の生徒が息をするのを忘れたのか。
普段は王子と公爵なんて最強のナイトに囲まれて、その高貴な雰囲気と微笑みに誰しもおいそれと声を掛けられず、なのにこうして話をすれば屈託なく喜怒哀楽を出してくる。
「変わった姫さんや」
突然の行動、突然の発言、突然のアイディア。
どこまで考えているのか考えていないのかわからないけど、全て投げ捨てることなく、貴族とは思えない発想力で進めていく。
学園とはいえ、庶民である自分なんかが気楽に話して良い相手で無いのは百も承知だが、嫌な顔もせずこちらに合わせて話してくれる。
きっとそんな気さくな彼女を知ってるのは数少ないと少し優越感すら感じてしまう。
「おっと、危ない危ない…」
最初は計算なのか裏が有るのかとも思ったが、叩いても埃すら出てくる様子も無いし、例えきっと本当に叩いても笑って許してくれると思えてしまう。
レイですらそうだ。
人を頼らず孤高に上だけを見ていた様な男が、すでに絆された気もする。
なのに当の彼女はあんな極上の男に囲まれて、絆されず家族だ友人だと笑ってる。
万が一自分もそこに加わってしまっても叶うビジョンが浮かばない。
(損得計算は得意なんや)
「おはようございます」
「ほいおはようさん」
「おっ!ロットおはよう。掃除楽しかったよ!またやるなら声掛けてくれ」
「まだ未定やけど、あればチラシ貼るんで頼んますわ」
あの掃除の行事一回で、自分へ声をかけられる数は数倍に膨れ上がった。
正直見下されてた一部貴族の御曹司にも、公爵家の繋がりが見えたせいか、突然親しみを込めた話し方をされ、スパッツとその相乗効果で実家の店の売り上げもうなぎ登り。
二男で家督こそ継げないものの、商売は好きだし将来的には家の事業を手伝って行こうと思っている自分には公爵家との繋がりはとんでもないメリットになったと言えるが、なんだかそんな考え方をする自分が嫌にもなる。それは今までの自分では考えられないことだ。
(ま、今はお友達ってことで、有り難く恩恵頂きましょか)
なんて思うが、今はってなんだよと、思わず苦笑いが漏れてしまう。
一時限目の授業の準備をしながら、どこかで『次はどこに案内しようか』なんて考えてる自分に喝を入れ、少しでも学や知識を足そうと教科書を開く。
(あの子を手に入れるのは誰なんやろな)
願わくば、自分に一つの後悔すら残させないような相手であって欲しいとも思えば、後悔ってなんだと眉間にシワも寄る。
認めないし、認めたくも無いし、認められもしない、だからその思いを見なかったことにすれば、外から少し涼しくなった風が吹き込んで来た。
「あっつい時期も終わりやな」
風で閉じた教科書をパラパラと開けば、授業開始のチャイムが聞こえた。





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