マカロンはお腹に溜まらないけど美味しい。って食べてるとお腹に肉が溜まりそうで怖い。
翌日の放課後、生徒会室にいつもの6人とカルージュ先生で集まったところで、レイさんが挨拶を始めた。
「昨日は皆様お疲れ様でした。1日経ちましたが、先生方や生徒からも好評だったようです。是非またやりたいとの声も頂きましたが、一先ず今日は昨日までの労をねぎらわせて頂こうかと思います。では、ユリエルくんからも挨拶を」
「え?わたくしですの?えっと…、わたくしが勝手にやり始めた事から大きくなり、皆様それぞれにお忙しい中沢山のご迷惑をお掛けしたにも関わらず、嫌な顔もせずこんな例の無い活動に一月足らずで仕上げて頂き、感謝いたします。その…あとはありがとうございます…以外の言葉が見つかりませんわ。皆様、ありがとうございました」
「ユリエルくん、こちらこそありがとう。そうだな、では今日は乾杯ではなく、『ありがとう』で、いこう!『ありがとう!』」
「「ありがとう」」
みんなが笑ってカップを持ち持ち上げる。
未成年なので飲み物は紅茶やジュースで。そしてテーブルには学校側からの好意で用意して頂いたアフタヌーンティーセット。
打ち上げもなんだかとってもお洒落だわ…。
ちょっとした立食パーティーね。
「ユリエルさん。お疲れ様でした」
「アベイルさんこそお疲れ様でございました。昨日も言いましたが、巻き込んでしまい申し訳有りませんでしたわ。でもアベイルさんに来ていただけて、ホント助かりました。ありがとうございました」
「いえ、もうお詫びも御礼も充分言って頂きましたし…それに、ユリエルさんが困った時にボクを思い浮かべて声を掛けて頂けた…それだけで充分なんですよ。お役に立てたなら良かったです」
「ありがとうございます!では、アベイルさんが困っている時は、次は私がお助けいたしますわ!!お友達ですもの!!なんだって声掛けて下さいませね!!」
見返りなく笑い返せる!これこそ友情よッッ!と、鼻息荒く近付けば、クスクスと笑われてしまった。ハッ!令嬢としてあるまじき行為ですわ!!
仕切り直しにコホンと咳払いをして
「ですので、困った事がありましたら、お手伝いいたしますわ。ご遠慮なさらずお声お掛け下さいませね」
ニコリと笑えば「ではその時は」なんて優しい声で返される。
「おいユーリ」
呼ばれて振り向けば口にマカロンを放り込まれた。
「モグモグ…ロイさん、お行儀悪いですわっ…あらでも美味しい。」
「だろう?ユーリが好きそうだったからな」
ふふんと、何故かドヤ顔で返された。
「嬉しいですが、せめてお皿でお渡し下さいませ。食べたいタイミングもございますもの」
「はい姉さん」
そう言っていくつかお皿に綺麗にシルクがお菓子を乗せて来てくれた。
「ありがとうシルク。ゆっくり頂くわ」
ニコリと笑ってお皿を受け取れば、何故だかバチバチと火花の様な音が聞こえる。
最近多い気がするけどなんなのかしら?こんな季節に静電気?
「それにしてもシルクもロイさんもお忙しい中ありがとうございました。ロイさんお忙しい中無理なされてたでしょう?寝不足は万病の元になりますわ。少しでも休憩なさってくださいね?」
「いや、俺は大丈夫だ。ユーリこそ…」
認めないものだから、ロイさんの少し伸びてきた前髪をかき上げて、
「ほら、少しクマが出来てますわ?これが証拠です。髪もいつもより伸びてますでしょ?…ね?わたくしにはわかっちゃってるんです」
ふふっと笑えば、その大きな手で目元も隠して
「わかった!ちゃんと寝る!」
そう言って、少し端に寄せられているソファに向かっていく。
やっぱり疲れてるのよね。強がっちゃうお年頃だとは思うけど、若いからって無理は良くないもの。
「シルクもありがとう。貴方は今回だけじゃなくて、いつもわたしと一緒に居てくれて助かってるわ。いつも巻き込んでしまってごめんなさいね?あっ!でもきっとシルクが居てくれるから、安心してしまって行動してるのね。これは駄目ね!姉としてもっとシッカリする様に気をつけていくわ!」
「姉さんは姉さんのままでいいよ?姉さんのフォローは僕がするって約束したでしょう?」
そう言ってカフスボタンを見せてくれる。
「ふふっ、そうね!でもそれではいつまでも甘えてしまいそうだから、わたしも負けないように頑張るわ」
なんて笑えば、後ろから「ユリエルくん、お茶のお代わりはいかがかな?」また呼ばれて振り向けば、レイさんが優雅にティーポットを持って微笑んでいた。
「このまま注ぎ足して綺麗な手を火傷するといけないからね、カップごと一度頂いてもいいかな?」
「ありがとうございます。でも一番の功労者にお茶を入れて頂くなんて申し訳ないですわ」
「何言ってるんだい?君がみんなを頼る様言ってくれて、ユリエルくんがこんな素晴らしいみんなを呼んで手伝ってくれたんじゃないか。君のアドバイスと手伝いがあってこそだよ。私とロットだけではこう上手くはいかなかったよ。ありがとう」
そう言って新しく入れたお茶を落とさない様に手を添え、わたくしの手ごと包んで渡してくれる。
なんなの?ホストなの?お触り厳禁ですよ?でも触られたのがわたしだから、別料金は発生しないかしら!?
そんな内心の動揺は出来るだけ出さずに
「ご丁寧にありがとうございます。わたくしだけの力は微力でしたが、そう言って頂けて嬉しいですわ。わたくしは周りに恵まれてるのを改めて嬉しく思います」
「いや、ユリエルくんの力だよ」
「ふふ…そんなに褒めても何も出ませんよ?」
イケメンオーラが凄すぎて、ティーカップに目を落として微笑んで誤魔化す。
「レイ、姫さんに振られてもうたな!」
「ははっ、そのようだね。次は君かい?」
「阿呆抜かすなや、高嶺の花どころか、そんな足滑らせそうな崖のど真ん中で、えっらい凶暴な野獣が周りにうろちょろしとるとこオレは登ろうともせんわ。ひゃ〜怖ッ」
「なんのお話です?」
「姫さんは気にせず遠く見とき〜オレは暫く楽しませて貰うわ…ってのは置いといて、いやぁホンマ姫さん大変やで!スパッツ昨日の時点でもの凄い問い合わせや。まだ販売発表もしてへんのに、やれいつからだ、やれ早く売れだの、店にお貴族様やら使用人やらがえっらい来るで、対応でてんやわんやや」
話を逸らされた気もしたけれど、まさかの話に目を丸くしてしまう。
「まぁ!ご迷惑おかけして申し訳ありませんわ」
「いや、売れるのは大歓迎なんやけどな、やっぱここの学生関連と来年入学予定とからしくてな、30枚、50枚、100枚って、予約もまだ受けてない状態でも言ってくるそうでな、もう流石に断るのも限界らしくて…姫さんなんかアイディアあらへん?」
「100枚って…使い捨てとでも思ってらっしゃるのかしら?う〜ん…でしたら、最初だけは予約受付を一律で一週間分の5枚までと制限掛けたらいかがかしら?基本はこちらの女学生でしょう?ではまずは全員に少しでも回るようにすれば、一旦は落ち着きますし…そうだわ!受付最初にわたくしがまず5枚注文いたします。そうしたらお客様も発案者でも5枚しか買えないと分かれば、一旦諦めて下さらないかしら?そして流通が上手くいけばまた予約再開して、その頃には…少し肌寒くなる事だと思いますので、もう少し暖かい…なんなら毛糸とかで作ったらいいのですわ!!腰回りよりもう少し長くしてお腹周りまで守れたら更に防寒にもなりますし!長さは短いのと長いので!」
それもう毛糸のパンツ。と、突っ込む人は居ないので、これ幸いと言ってみる。
「あのな…ユーリ、下着の事をこんなところで語るのは…」
「あっ!そうか!姫さんすまん!オレ商品としてガンガン話してもーたわ!」
「下着ではございませんわ!下履きです。」
乙女の悩みに口を出すロイさんを思わずキッと見る。
「いや…俺には違いが良く…」
「全然違いますわ!もっとも男性には分からないのでしょうけど、女性のスカートがどれだけ足腰を冷やすのか体験してみたらよろしいのですわ。むしろわたくしは学校へ女生徒もズボンの制服の許可を頂きたいほどです」
「ユーリ…それでは伝統がな?」
「伝統だけでは腰は暖まらないし、お腹も膨れませんの。古き良きを守るのは大切でございますが、新しきを取り入れる事をそれを理由に止まってはいけませんわ。それでなくとも、女性は冷えやすく将来的にはお産に向けて大切にしなければならない場所ですのに」
「お…お産…」
何故だか少し顔の赤いロイさんを気にせずに続ける。
「それに、今回声を掛けて頂いた方で風魔法でスカートが揺れて恥ずかしいと仰る方が居ましたわ。ロイさんは例えばわたくしが風属性で、大きな魔法を使う時にでも誤ってスカートがバサァッと、皆さんの前でめくれても気にならないですか?」
「それは駄目だ!!」
「では万が一そうなった時、女生徒が一律で履いたスパッツで腿あたりまで隠れていたらどうですの?」
「まぁ…それもどうかとは思うが、まだマシか…」
「そうなのです。わたくし、まだその『マシ』と言う安心感を女の子達にお届けしたいのです」
ニコリと笑えば、少し驚いた顔をした後に頭をポンポンと撫でて「なら頑張れ」と笑ってくれたので、「はい」と笑顔を返す。
「ほな纏まったとこで、姫さんのアイディア頂いて店には話つけとくわ。5枚程度ならなんとか間に合うと思うしなぁ。ありがとな!」
「いえ、売り上げも大切ですが、品質には変えられませんもの。それに従業員の方の体調も考慮なさって枚数は改めて考えて売り出して下さいね」
「姫さんは商売を多角的に見とるな。なんかしとったん?」
一瞬ビクリとするがニコリと笑って、
「そんな訳ありませんわ。わたくし生まれも育ちも公爵家。最近まで殆ど家からも出てない引き篭もりでぇございます。最近までお友達が本だったので、そちらで得た知識ですわ」
某下町の車さんの様な喋りになってしまった気もするけど、なんとか誤魔化す。
前世でスーパーでパートしてたからとか、いつの間にかシフトや発注までまかされて、ついでに営業の方とした会話が元だとかの知識はバレないバレない!
たしかに御令嬢の話す内容では無かったなぁと改めて考える。
「ふーん?まぁええわ。で…姫さん。ツッコまな耐えられんで聞かせてくれるか?…うしろでセンセがずっと『あの…』だの『ユリエルさま』だの『申し訳ございません』だの言っとるの無視しとるのなんで?」
「…今朝方早めに学校に来ましたら、昇降口にいらっしゃってて…『ユリエル様!昨日は許可もなく喋り申し訳ありませんでした〜』って土下座で仰って…シルク以外誰もまだ居なかったから良かったものの、『様とか敬語とかおやめになって、他の生徒と同じ様にお喋りにならない限り、先生と会話をいたしません!』って思わず言ってしまいましたの。でも相変わらず言葉使いも行動も変わらないので、もう諦めて今日は色々一日無視しようと決めてるのですわ」
「え…怖っ」
昨日のやり取りをまたも繰り返してる気もするけど、チラッとカルージュ先生を見れば、尻尾が有れば途端に振り出しそうな笑顔を向けられて、
でもその姿は柴犬とかチワワとかご近所に居た可愛らしい感じじゃなくて…もの凄い高級な…例えるならボルゾイとか?なんか整い過ぎたその感じに構い方がわからないのでとりあえず…
プイッと無視しときます。
相手も一応大人なので。それにわたし、一応子供なので。
先生は膝ついて四つん這いで悲しんでも大人なので。
「もうワタクシめは椅子だと思って座って下さい」とか言ってても無視ですわ。
いや。てか意味わからないし。
そしてみんな先生を空気扱いなのか見て見ぬ振りをしてる。
ツッコミ不在。ヘルプミー
わたしが助けを求めてる間に、ロイさんとシルクで仲良さそうに会話していたけど、
「お産の時……」
「誰も貴方の子だとは言ってないですけどね。あとあれは一般論的なつもりで言ってますよ」
「まぁ、お前の子の確率の方が確実に低いがな?」
「低いとお認め頂ける?ゼロじゃないと言っていただけるだけ光栄ですね」
「お前最近日に日に図々しくなってないか?」
「さぁ?どうですかね?」
中身はそんな会話が行われている事は一切知らないのでした。
ブクマ評価感想ありがとうございます!
とんでもない励みになっております。ありがとうございます!
今回普段の文字数の2倍3倍になりました。
切るタイミング見つからず、いつもほどサクッと読める量で無かったですが、楽しんで頂けたなら幸いです。





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