笑顔に腹立つって事もあるんだと不本意ながらにも知る。
「返事をして下さい。ハント・クルドゥ・ドリエルくん。君が、今、蹴り飛ばした物はなんですか?」
冷たい声に背中がヒヤリとする。
その声の主は、一歩一歩生徒に近づいて行きながら質問を続ける。
「べ…ベレト先生…」
「聞こえませんか?では質問を変えます。今日、ここへは、何の為、来ましたか?」
「…掃除です」
「では貴方が今されている事は掃除に値しますか?」
「…」
「値しませんね?アベイル・ショウ・ナルファンくんは、生徒会、引いては学園と連携した担当者になります。学園内では全生徒平等であり、今回の掃除の会に対して言えば、ナルファンくんは生徒会や動いていた全員と立場は同じです。それに対して、誰が良かったどうこうと言うのでしたら、彼が言ったように帰って構いません。これは慈善活動であり、それに教師としても彼らが事前にどれだけ走り回って頑張ってくれていたのか見てたので、それに値した活動を見たいのですよ。」
うわぁ…めっちゃ教師してるぅぅ〜!!!
逆に引くわ〜〜!え?なんで??なんでこんなシッカリしてる人がわたしにだけ会話おかしいの!?それがおかしくない!?
アレか!?出会いか?出会いが悪かったのか…?
ってあれ?ここの東屋って…
「帰るか掃除するかの君の判断はさて置きまして、まずは君の蹴り飛ばした長椅子を戻し、せめてその長椅子だけでも綺麗〜にしてお帰り下さい。その椅子は、高貴な方もお座りになられます故、貴方が蹴り飛ばしてそのままにしていい物ではないのですよ」
これは…!!流れ弾でわたしまで弄ってきやがりましたわ!!
「ね!!」と言わんばかりに、こちらを振り向き笑顔を見せるが、それが逆にめっちゃ腹立つ。
「誰が座るかは自由ですが、先生の言われることも一理あります。掃除は皆さんが気持ちよく使う場所を作る為ですわ。それにアベイルさんはわたくしが無理を言ってお手伝い頂いておりますのに、彼を侮辱する様な言葉は、わたくしに対しての言葉と捉えて宜しくて?」
肩に掛かった髪を後ろに流しながら聞けば、ハントさんは「も…申し訳ありません!」と椅子を戻し、雑巾を拾い磨きだしてくれた。
「ここにいらっしゃる皆様に、掃除は慣れない行為でしょうけど、先程申しましたが、普段このような事をして下さっている方々がいらっしゃるからこそ、気持ちの良い毎日は送れるのです。それに将来侍女や執事、文官などになられる方もいらっしゃるかもしれせん。その時に普段とは違うこの行いはお役に立つこともあるかもしれません。誰かにやって貰う立場であっても、その誰かの行動を知るとはとても大切なことなのです」
また老婆心で熱く語ってしまってるな…と気が付き、思わず笑いが溢れる。
「皆様学生である今、意味のない行為なんてございませんわ。
皆様の未来は無限大です。今は無駄に感じる事も、将来振り返った時に…たとえば今日、学年の違う隣り合う方とお話をされた事を切っ掛けに、10年後20年後にたまたま出会って、今回の思い出話に花が咲く事、そんな些細なことかもしれませんわ?
有難くも恵まれた事に、今この様な時間も作れて、大人になったらそうそう出会う事のない方々が隣り合う今だからこそ、色々な事にチャレンジして、思い出を積み重ねて下さいませ」
そこまで言って、もうホント年寄りに若者を語らせちゃ長くなるものね…なんて思う。
そういや前世の学生の頃に近所のおじいちゃんが「若い頃の苦労は買ってでもせにゃいかん!」とか言われて、「もうおじいちゃん!買いたくないよ〜時代が違うよ〜」とか返したなぁ!
…まさに今そのおじいちゃんの立場じゃん!!
うわぁ!!これは若者にウザッて思われてる!!
しかも同世代。更にウザい!!
「では、わたくしは失礼いたします。先生、こちらアベイルさんと見てくださる様、お願いいたしますわ」
顔が赤くなればいいやら、青くなればいいのやら分からなくなってきたので、そのまま踵を返して一人元の方向へ戻る。
うわぁん!またお友達が遠退いた気がするよぉ〜!!





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