可愛い子には旅より先にご飯よね。
掃除一ヶ所目である正門付近に辿り着けば、ロットさんの参加生徒への詳細説明が終わったところだった。
「お、姫さん来てくれたんか。さっきは素晴らしい口上聞かせて頂いたわ。流石やなぁ〜!」
こちらに気がつけばニコニコと近づいてくれる。
「ロットさんもお疲れ様ですわ。なんだか生徒会の方々が頑張って下さったのに、大した手伝いの出来なかったわたくしが長々話してしまって申し訳ないですわ」
「相っ変わらず、変なとこ気にしぃやなぁ。充分やってくれてたやんか。姫さんおらんかったら回らんかったで」
「そう言って頂けると、心が軽くなりますわ」
そんな会話をしていると、ロットさんの後ろからおずおずと2名の女子生徒が近付いてきたので顔を向ければ、互いに目を合わせ頷き合うと意を決したように「あ…あのっ!」と声を掛けてくれた。
「えっと、その、ユリエルさまが…あのスパッツ?を下さったそうで…」
「いえ、わたくしはアイディアを出して、こちらのロットさんの御実家の商会で試作品として作って頂いたので、わたくしからではございませんのよ」
そう!スパッツとは、スカートの下に履くあのスパッツ!!
この世界の下着は現代日本的に近い可愛らしい下着はあるのに、それを隠す様な履き物は何故か無い。
アレか!ゲームストーリー的に考えたら、
『遅刻遅刻〜⭐︎キャッ!』ドシンからのパンツ見えて『きゃあ!み…見た!?』『みっ!見てねぇよ!てか気を付けろよな…』的なアレのため!?え?流れが昭和!?いやこの流れはどの時代でも通じていると思うの!!
しかしそんなん女子からしたら例えイケメンと出会えたとて、トラウマ間違いなし。
まかり間違えてその辺の生徒に『アイツのパンツ○○だったぜ』とか言われたら学校行きたく無くなるわ、貴族じゃ嫁の行き先に言われたら…いや身分なんぞより姑の耳に入るとかになったら…うわ怖ッ!
てな訳で掃除に動き出すにあたり、制服がスカートで塵取りするだけでも屈んだり、立ち上がったりする時の女子のパンツを守る為、スパッツを開発させて頂きました!!そして今回参加応募のあった方に先立って昨日試作品として配っておきました!ありがとうペンニーネ商会!仕事早いよペンニーネ商会!!
「えっと…それでも私達、頂いたスパッツ、大切にさせて頂きます!…その…今日参加するって女の子たちみんなで話してて、こーゆーの欲しかったねって…」
「わ…私達ずっと魔法使う時も、彼女は風だし私は火属性なんですけど、あの…お恥ずかしながら何故か魔法を使うとスカートがヒラヒラするのが恥ずかしくて…、勿論見えないとは思うのですが…」
そうか、風属性の魔法は当然風が起きるし、火が起きれば、熱が生まれ、熱が生まれれば、温められた空気は上に動く。
そう考えると、なんでここの制服スカートなのよ!?と疑問すら起こる問題だわ。可愛からでは済ませられない問題。まぁ女性がズボンを履くというのが一般的にタブーとされている旧石器時代の考え方か。
「ですので、えっと本当に素晴らしいものをありがとうございます」
多分ロットさんやカルージュ先生、男性の居る前で恥ずかしかっただろうに、必死で感謝の気持ちを伝えてくれた彼女達を嬉しく思う。
「こちらこそわざわざ伝えて下さり嬉しく思いますわ。そちら試作品ですので、もし不具合や改善的ございましたら、遠慮なく伝えていだだけると、商品化するのにより良い物を御提供できると思いますわ。そのうち正式にペンニーネ商会で取り扱いますので、お気に召したなら宜しくお願いいたしますわ」
「ペンニーネ商会ですね!!ありがとうございます!えっと今日はこれからお掃除頑張ります!お時間頂けてありがとうございました!!」
ペコリと2人はお辞儀をして、キャッキャッと可愛らしく持ち場に戻った。
わたしも仲間に入りたい。可愛い若者とキャッキャしたい。
「まいどありぃ〜」
小さな声で手を振るロットさんに思わずクスリと笑いが漏れる。
「いやぁ、俺ら男には思いつかへん商品やったわ。親父と兄貴も最初は疑問やったみたいやけど、女性従業員の熱に押されて試行錯誤しとったわ。しかもこんな生の声聞こえると嬉しなるなぁ。きっとこの先うちの商会、姫さんには頭上がらへんわ」
「わたくしのアイディアなんて大したことではございませんわ?ロットさんこそそれでなくともお忙しい中、商会との架け橋ありがとうございました」
「しかしこれやとホンマ売上も見込めそうやなぁ〜。ホンマにええの?」
濁してはいるが、商品の純利益から25%がアイディア料としてわたしの取り分になっている。
突然作ってもらう事になった上、試作品までの納期も短く無茶をさせるしそれは多過ぎると伝えていたが、そんなに売れないと思われたのか、それとも我が家との接点としては安いと思われたのかはペンニーネ会長の心の中だ。
とにかくその中から10%を近くの孤児院への寄付、10%を町人の幼い子に読み書きを教える寺子屋の建設費に回して、残り5%を私の手元に…と、いう分配にしたことだろう。
どのくらい売れるかもわからないし、微々たる額かもしれないけれど、少しでも手元にお金があれば、もう義弟へのプレゼントを家から出して貰うなんぞカッコ悪いことしなくて済むかもしれない!!
そんで未来の宝のお子様達が健やかに育つことに使われるなら、そんな有難いことはない。
前々から孤児院や寺子屋は考えていたけれど、公爵家のお金を使うのはなんだか違う気がしていたので、分配して頂けると聞いた時は正直嬉しかった。
ロットさんに聞けば、下町の子達もお店の表示されてる最低限の読みは親に習ってるそうだけど、やはり教育と親からの知識とでは差があるだろうしね。というか、どの世界でもお母さんは忙しい。そして短時間でも親の手を離れる時間を作ることは、親子にとってメリットはあると思う。子供は知識を広げ、親にとっては安心して一息つける時間になればいいな。なんて、まだ一歩踏み出す程の額にもなってないけどね。
あと公爵家のお金使うことに気が引けるのは、やはりシルクが継ぐ予定だしね。わたしの我儘…思いつき?で、使うのも気が引けてたのも正直なところで。
お父様もお母様もシルクも、言えばきっと両手を挙げて応援してくれるのはわかってるのだけどね。
「で、姫さん。なんで後ろのセンセ喋らへんの?」
「…お黙りくださいと言ったら、一切喋らなくなりましたの」
「え…怖っ」
わかりみしかない。
などとは言えないので、とりあえず「では次に向かいますね」と言えば、「おー!ここは掃き掃除くらいしかあらへんしな!顔出してくれてありがとな!」とニカっと送り出してくれた。





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