仲良しだなぁと思うけど、言えば2人とも違うと言われるのが解せぬ
今日の授業も終わり、荷物を纏めて鞄にしまっているとロイさんが声を掛けてくれた。
「俺も今日は行けるぞ。一緒に行こうか」
「お忙しい中ありがとうございます、もうすぐ纏まりそうで、順調に行けば来週半ばにも開始出来そうなんですよ。」
あれから本当にお忙しい中、時間を作っては手伝いに来てくれる。ロイさんのその優しさが嬉しくて笑顔で現状を伝えながら、廊下に出る。
「そうか…あまり手伝ってやれずすまないな」
「いえそのお気持ちが嬉しいですわ。わたくしも家でのレッスンも御座いますし、毎日通えてる訳ではございませんの。生徒会の方々や、巻き込んでしまったアベイルさんには申し訳ありませんわ」
「姉さんだって毎日忙しくて体調壊さないか心配だよ」
「シルクも色々とあるのに、いつも付き添ってくれて嬉しいわ。ありがとう」
「いいんだよ姉さん」
「弟もたまには休んで、ユーリは俺に任せたらいい」
「僕なんか比べ物にならない程お忙しい身の王子に任せるなんて申し訳無くて出来ませんよ」
「いや、俺は平気だから無理せず休むといい。」
「あの…わたくし1人でも出来ますよ?」
そんな雑談をしてる間に生徒会室に着き、2人は観音開きの扉を左右に開きながら
「それは駄目だ」
「それは駄目です」
と、声をハモらせて言われてしまった。
思わず反論しようかとも思ったが、目の前の人物を見て、言葉に詰まる。
「ユリエル様!!不肖ベレト・カルージュ!ユリエル様のお役に立てるならと馳せ参じまし…」
バタンッッッ!!
目の前で左右の扉が同時に閉まり、それと同時に2人はアイコンタクトでロイさんはわたしを抱きかかえ、シルクは私の鞄を持ち、すごいスピードで走り出した。
たどり着いた先は、入学式のアベイルさんの眼鏡の件で話し合った空き教室。
ストンと下されれば、思わずその場にへたり込む。
「ユーリ、アイツが居るとは思わず…大丈夫か?」
「姉さん、落ち着いてね?怖かった?」
わたしは溜息を吐くと
「…怖かったのは運ばれたスピードですわ?2人に何も言われず、急に馬にでも乗ってるようなスピードで走られたら声も上がる暇ないじゃない…」
「うん。必死でしがみ付くユーリは可愛かったぞ」
「…わざとですの?」
「擁護したい訳じゃないんだけどね、僕らもびっくりして必死だったんだよ」
「何故?」
「何故って…」
もう一度溜息を吐いて立ち上がり、2人を改めて見つめる。
「ごめんなさい。意地悪な質問でしたわね。カルージュ先生との対面で魔力を暴走させてしまった事をご心配をおかけしてしまったからよね。でもあの時の事情と、今では違いますわ。カルージュ先生も心を入れ替えて行動されてる様ですし、わたくしはもう大丈夫ですわ」
「いや、そうなんだけど…そうじゃなくて…」
「俺はその…あの後アイツの行動がな…逆に…」
「逆になんですの?」
「もう良いじゃありませんか?貴方方に認めて頂かなくとも、オレ…いや、ワタクシめは、ユリエル様に認めて頂けたなら其れだけが至上の喜びなのですから。」
歯切れの悪い返事に首を傾げていれば、2人で影になっていた扉の方から声が聞こえた。
「カルージュ先生?」
「ユリエル様、カルージュ先生ではなく…あの時の様に…いえ、こんな場所で呼ばれるのは忍びないですね。いや忍ばないのもまた一興ではありますが、今回生徒会よりユリエル様のお手伝いの申し入れがありまして、馳せ参じました。お役に立てる事がございますなら、雨除けなり、泥除けなり、何にでもお使い下さい」
そう言いながら扉からグイグイ近づいて、最終的にわたしの足元に跪いた。
「ちょっと先生!?あの、お手伝いはお掃除に関してです。わたくしのお手伝いではございませんのよ?てゆーか跪かないで下さいませ!」
「ユリエル様に楯突く埃から、貴女の御履の汚れまでこの身を使って綺麗にさせて頂きます」
「会話が噛み合ってる気がしませんわ…」
「いえ、今回は教師としてのワタクシめが必要でいらっしゃる事は存じ上げており、そちらの仕事はキチンとこなさせて頂きます」
そこまで会話して、やっと思い当たる。
きっと生徒会の『トラブル防止に見回りの教師』の仕事を引き受けてくださったのだと。
この学園は教育体制が整ってはいるが、その分教師の仕事は多そうで、掃除という新たな仕事を快く引き受けてくれる方が居ない、やはり外部に引き続き頼んだ方がいいと言われたとか、この前の話し合いでも議題に上がっていた、最後の難所だったのだ。
だからこそカルージュ先生の申し出は有難いの一言だ。
「えっと、つまりカルージュ先生は、掃除の見回りを引き受けて下さるのですね?ありがとうございます。…あと、先生が真面目にお仕事されている話は聞いております。わたくしの話をちゃんと真摯に受け止めて頂けて嬉しいですわ」
風の噂で、あれからカルージュ先生が人が変わった様に真面目に仕事していると聞いていた。
前は自分の仕事を終わらせるとふらふらとして居たらしいが、職務に向かい合い、不必要な生徒との接近が無くなり、寂しいとか、でも逆にそこがいいっ!とか話してるのを通りすがりに聞いていた。
うん。誰か直接噂を入れて欲しい。女子の友達プリーズ。
「えぇワタクシ、ユリエル様にお会いして自分という物が知れました。もう存在として、人として至らなかったと。」
「えぇっと、そんな話でしたっけ??いえ…えっと、でも、まぁ、若い方の心に傷を負わせる事もないし…いいのかな?」
「そうです!!ユリエル様に出会って、人に至らずとも幸せは有ると!!!人としてでは無く、ワタクシはユリエル様のゴミ屑として生きて行こうと…!そんな時にユリエル様からの掃除の誘い…コレは神からの啓示としか!…いやワタクシめの神はユリエル様という名の女神なのでは!?ワタクシめに罰を…いや、むしろ御褒美をお与えに…!!」
「えっと…何を言ってるのかわかりませんわ?」
「分からなくていいんだよ?姉さん…行こう?」
菩薩の様な顔のシルクは私の背を押して生徒会室に誘導し、ロイさんはカルージュ先生がまだ語ってる間に、さり気なく外から扉に鍵を閉めて、シルクの魔法で扉を固めた気もするするけど…見間違いかしら?流石にまさかそこまでしないわよね。
とりあえず前世通しても出会ったことのないパターンのカルージュ先生の対応には、わたしもどうしていいのかわからないので何も見なかったことにして、生徒会室へ改めて向かう事にした。
…ちなみに余談だけれども、生徒会室に入ったらすでにカルージュ先生がお茶を飲んで居たので、シルクとロイさんが新喜劇並の滑りをしてくれたのを心に留めておきたいと思う。





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