人の口に戸は立てられず。って戸なんて閉めても戸は開けるためにあるからなぁ〜もっとなんか無かったかな〜
起きてぼやっとベットに座っていたら、扉の開く音がして時計を見れば帰宅時間。
「失礼します」
「あぁセルリア家の。姉上ならそこだ」
「先生、お世話になりました」
声が聞こえて、囲まれていたカーテンを開かれれば、可愛い可愛いマイブラザー。
「姉さん、起きてたんだね。荷物も持ってきたから帰ろう?」
「ありがとうシルク。えぇ帰りましょうか」
保健医に御礼を伝えてそのまま昇降口に向かえば、そこはまだ美しい状態が保たれていた。
「なんか…いつもより綺麗で気持ちがいいね?」
「うふふ」
「…なんかあった?なんかした?なにしたの??」
笑っただけなのに義弟の第六感センサーに引っかかったらしい。よし黙っていよう!御令嬢が掃除したとか言ったら、呆れられるか叱られるか怒られるしか思いつかないし。
「あの…ユリエルさま…先程は…その…」
「あら!先程は折角のお昼休みを一緒に過ごして頂いてありがとうございました」
目の前にオズオズと現れたのは先程3番目に掃除に引き入れた相手だったが、掃除と云うワードを出される前にこちらから上手い具合に言葉を被せた。グッジョブ自分。
「はいっ!あの!!ぼ、ぼくはこんな当たり前の…身分ではなく、誰かの仕事によって快適に過ごせているって事に気がつく事が出来ました。それが当たり前だと思ってやらせてましたが、体験してみれば大変なんだと改めて感じて、有難さに気づく事が出来ました!あの…みんな、あの後少しは文句も言ってた人も居ましたけど、大体の人は行動に反省して、あの…仕事してくれてる人に感謝しないといけないと、口々に言ってました。こ、これもユリエルさまのおかげです!あ、ありがとうございました!!」
「こちらこそ…巻き込んでしまったのにそんな風に言って頂いて…ありがとうございます」
皆貴族や裕福なご家庭で育って、突然巻き込まれたでしょうに、柔軟な考え方の出来る若者に思わず目頭が熱くなる。
「あっ、あの!家でも掃除とか…他の誰かの仕事を真似てみたり、新しい事をやってみます!!ありがとうございました!!」
そうやって去る彼に手を振り、早歩きで外に出る…が、当然逃げきれる訳もなく肩をポンと叩かれる。
「…掃除って…何?」
「んふっ?うん。え〜っと…なんのことかしらね?」
「…はぁ…、もう姉さんの事は大概驚かないと思ってても、本当驚かされる事ばかりだよ」
「えっと、ごめんなさい?」
「そんな疑問系で謝られても…まぁいいや。彼の話し聞いたら、なんとなく悪い方に転んだ訳でもなさそうだし…また話し聞かせて?」
そう困った様に笑う義弟に御礼告げれば、怒られ無かった事に一先ずホッと…
「でも明日の下町の下見は考え直したほうがいいかなぁ?」
驚いて振り向けば…あれ?なんかお怒りオーラも出てた!!
「え!?お父様の許可出ましたの!?」
「出たけど…姉さんのいつもの予想外の行動を考えると不安になってきちゃったのも事実だよ」
「えぇ〜そんなぁ〜」
「お!姫さん!町にくんのか!?」
「ロットさん!」
弟の横からヒョイっと顔を出されて驚けば、またもうひゃひゃと笑っている。ホント笑い上戸なのね。
「マジに町に行くんならオレが案内したるわ!」
「えっと…失礼ですが、貴方は…」
「あぁ噂の過保護な弟くんか!どもども!生徒会役員のロット・ペンニーネって言いますわ。ちっちぇけど一応先輩なんで宜しくな!!」
「過保…あっいや…えっと宜しくお願いします」
愛嬌のある笑顔で握手を求める手を出されたらシルクも思わず握り返す。
「ほな!弟くんの許可も得たっちゅー訳で、明日はどこで待ち合わせしよか?」
「…え!?僕はいいなんて…」
「『宜しくな!はい宜しく!』そんで握手したら両者合意や!!呼び方はロットでもロットさんでもロットくんでもええで!姫さんらが下町降りんのに、様やらなんやら堅っ苦しい話し方はなしやで!?ほんで午前?午後?どないする??」
「えっと…わたくし下町のご飯を食べてみたいので、お昼前が良いですわ」
「ほなら11の鐘の頃でええかな!?馬車で来るなら少し裏手の湧水広場、あぁ知らんでも従者に言やぁわかると思うわ!そんでそこで待ち合わせな!!ほなまた明日〜!」
バビュンって効果音が似合う勢いで走り去るロットさんを見送れば、放心状態のシルクに声を掛け馬車に乗る。
「姉さん…なんか僕…勢いに負けてたね…」
「仕方ないわよ。ロットさんの話し方と勢いでわたしも口を挟む余地が無かったもの」
先程までのお怒りはどこへやら、
立て!!立つんだ!!シルク〜!!!
なんて言いたくなるほど、なんとなく真っ白になったシルクに御礼を告げる。
「それはそれにしても、お父様の許可貰ってくれてありがとうシルク。とても楽しみだわ!わたしが頼んでもいつもダメって言ってたのに、どうやって許可を取り付けたのか教えてくれない?」
「僕が付いていくのが勿論条件の一つ。あと姉さんの髪は目立つから、カツラを取り寄せたから明日はそれを被ってね?あと伊達眼鏡も用意してあるよ。それで兎に角、1番の条件は僕と逸れないこと。2人で行くし…の、つもりだったけど、そうじゃなくなったんだったね…」
「で、でもね!シルクが頑張ってお父様を説得してくれたからよ!それにロットさんは同じ学園の方なら身分も安心でしょうし、しかも商家の方で町にも詳しいらしいし、きっと助かるわよ」
「…姉さん随分詳しいね?」
「先程お話しする機会があってね。あと生徒会長ともお知り合いになったわ」
「…また有名な方と…なんで、次から次に…」
なんだか後半はゴニョゴニョ聞こえないけど、わたしも考えなければならない事がある。
あの2人攻略対象者なのよね……
前世でわたしがハマってた騎士のレイさん。生徒会なんて記憶は無いけど、少ない台詞ながらに挿絵のあの麗しのお顔にキュンとしてたのと、コミュ力の鬼なロットさんとの凸凹コンビ的な2人…メインのロイ様ストーリーの小説だけだったから、ゲームストーリーとか分岐は知らないけど…、そういえば小説の最後にゲームの案内かなにかでスチルが数枚載ってたのも薄ら記憶に…あれ?下町で買い物してたような…?
……まぁ買い物とはいえ、絶対ヒロインとのイベントだったし、小説の後ろの方に載ってたイラストだったから、白黒だったしね…ヒロインも顔の隠れたスチルだったはずだし…てか相変わらず全くヒロインは思い出せないのだけれどね…
はぁ…10代、20代とかで転生してれば、もう少し記憶残ってそうなもんなのに…もうバァバだったわたしに神様も無茶させるわよ…
「「…はぁ」」
互いについた溜息にも気付かず、ぼんやりと外を眺めていれば、いつの間にか屋敷の門を潜っていた。





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