人生未経験のことって沢山あるな〜と、遠い目しながら考える
「ロ…ロイさんっ!あの…痛いですわっ」
「…!!すまん!」
掴まれた腕と慣れない早足に限界を感じ訴えれば、驚いた様に手を離され、今度は突然の事にバランスを崩してしまい転びそうになるが、素早く腕を伸ばされ、なんとか地面と顔を突き合わせるような事態にならずに済んだ。
「いや、すまない。大丈夫か?」
「えぇ…少し驚きましたが、大丈夫です」
転び掛けたわたしを軽々と元に戻され見上げれば、拗ねた様にそっぽを向いているのが見え、なんだか昔を思い出してしみじみとした気持ちになる。
「ロイさん、本当に成長されましたね。昔はわたしより小さかったのに、身長も手も足もぐんぐん伸びて、今では勝てる事なんてないじゃありませんか?」
昔から偉そうな言い方はあったけど、手を引かれれば笑ってついてきてくれたあの頃の思い出に微笑んでいれば
「いつまでも子供では居られないからな…」
なんてポツリ溢された。
……ハイ!頂きました!!!!
成長!!このセリフは成長の証だわ!!お母さんじゃないから八つ当たりとか理不尽な扱いされないだけでも有り難く、ただそれなりに側で成長を見守らせて頂くという美味しいとこ取りをさせて貰ってる、あの可愛いロイくんが、成長されてますよ!!全国のロイくんファンの皆様〜〜!!わっしょいわっしょい!!
『いつまでも子供では居られないからな…』をわたしの心のロイくんメモリアルに新たに新規保存。ビデオなら爪を折って上書き保存出来なくする次第だわ。
ちなみに1番分厚いのは当然シルクメモリアルだ。
『お姉ちゃん』から『姉さん』に変わったあの照れ臭そうなあの時は、コマ撮り撮影よろしくハイビジョンテレビレベルで記憶済み。思い出すだけで愛おしい。若い脳みそをありがとう神様。
前世でお母さんやってた頃は、日々どったばったしてて、子供の成長見逃しがちで、しかも記憶はどんどん上書きされていっちゃったからね…
しかもこのユリエルの頭は賢く出来てるらしく、記憶力がいい。
王妃教育で燃え尽きなかったのも、この脳と身体のお陰だものね。
なので、その記憶力をわたしなりに有意義に使わせて頂いてる次第です。うん幸せ。
「ユーリ?」
「なんでもありませんわ?さぁ教室へ向かいま…痛ッ」
痛みの元を見てみれば、カカトが靴擦れしているのか靴下がほんの少し赤く染まって見えた。引っ張られてた時に変に歩いていたせいかと気付き、慌てて笑顔を向けて「なんでもありません!さぁ行きましょう!」とか言っても、もう遅い。
ロイさんは眉間にシワを寄せるとわたしを抱きかかえ、スタスタと治療室方面へ向かって歩き出す。
「いや、大丈夫ですわ!あの…大した事ないので…」
靴擦れ程度でお姫様抱っこって…王子か!!せや!王子やったわ!!
脳内で混乱を起こしながら、まだ授業中で生徒が居ないことに安堵を覚える。
治療室には【只今治療師留守】の紙が貼られていたが、ロイさんは無視して扉を開けて、わたしを椅子に座らせた。
「すまん…俺が考えず引っ張り歩いたからだな」
「ふふっ、大丈夫ですよ!大したことありません。絆創膏ありますか?」
「…まだ回復魔法で傷を癒すのは得意じゃなくて…それに…くそっ…俺が…悪かった…」
自分がもっと大きな怪我でもしたような、そんな痛々しい顔を向けられては、靴擦れも申し訳無くて塞がってしまいそうだと思わず笑ってしまう。
「だから大丈夫ですって!このくらいの傷何度も何度も経験してますから!ほら、あそこに絆創膏ありますから、取って下さいな!…はい!ありがとうございます!」
靴下を脱ぎ、ぺりぺりと日本の絆創膏より少し厚いけど同じ形のソレに、やはりこの形が結局ベストになるのだと感慨深くなっていたら、剥がし掛けの物を取られて、ロイさんは足元に跪く様にして、自分の腿へわたしの足を乗せて、絆創膏を貼ってくれようとする。
「いやあの…自分で貼れますわ!!」
「いや、俺のせいだ。貼らせてくれ」
そう言われてしまえば、拒否することも出来なくて、しかし羞恥で顔に熱が集まるのはどうしようもなくて…
「ん…これで大丈夫だな…」
なんて見上げられれば、その前に自分の顔を両手で抑えるのが精一杯…
しかしやんわりとその手を掴まれ退かされてしまい、必死で顔を背ける。
「いや、俺が悪かったし、反省もしてるけど、これは珍しいものが見れたな」
「お離しくださいませ!靴下を履いて授業に向かわなければなりませんわ」
「…そんな可愛らしい顔をしているユーリを、教室に戻すなんて出来ないだろう?」
「お世辞は結構ですわ!すぐに戻りますので、早くお手を離して頂けますか?」
「……すまないな…もう少し…ユーリを見ていたい」
そんな甘い言葉どこで覚えたのか!!
のたうち回りたい!恥ずか死ぬっっ!死なないけど!!だって生きたい!!!
「はぁ…もう大丈夫ですわ。わたくしも怪我はしたく無いので、次回からはお気をつけ下さいませ」
掴まれた手を外し、必死になんとか冷静を保った振りをすれば、そのまま膝に柔らかいものが当たった。
驚いて振り向けば、唇は離れていたが、その美しい髪の色以上に輝く笑顔が至近距離にあり手を伸ばして頬を触られた。
「…まだ熱いな?俺は教室に戻るから、ユーリはひとまず休んでいろ。俺から話はつけておくから」
優しくわたしの足を下ろし、ポンポンと頭を撫でれば、保健室から出て行ったロイ様の背をあんぐりと見つめ…暫くして我に返った。
「わたくし…怪我で来たのであって、熱で休んでた訳ではありませんわっっ!!」
こうなりゃもう自棄だと、そのまま布団に頭まで潜り込み、何故だか素数を必死で数えているうちに、うつらうつらと眠りに入っていた。





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