恋愛結婚でいまだ甘々熱々な両親は、常にべっこう飴が作れるし、重曹もあればカルメ焼きもいけると思う
「入りなさい」
ノックをすればすぐに返事がした。
「失礼いたしますわ。あら?シルクまで……」
「姉さん、大丈夫?」
「えぇ大丈夫よ」
ニコリと笑えば、シルクも少し安心したかの様に笑ってくれる。
その間に父は家族以外を人払いすると、部屋全体に風魔法で風の膜を作り、中にいるもの以外に声が届かなくなるようにした。
「お父様……わたしお母様に……」
「うん、わかっているよ。ロズも無理をしたとは思うが、仕方ないさ。可愛い娘の為だからね」
ロズは母の名前フィルローズを父が愛称として家族や親しい人の前でのみ呼ぶ名。
「すいません……」
「ユーリ。大丈夫。ここには僕達家族しか居ないよ?シルクから大体の事は聞いているけれど、僕らはただ君が心配なんだ。何かわかる事は無いかい?」
優しく微笑む父に、首を振る。
「えっと、あの時はカーーッとして、キーーッてなってるうちに、シルクが来たわ」
「よし!よくわからない事はわかった!!他には!?」
「あとは……シルクとロイ様にもお話したのだけれど、魔力を使った自覚は無いの。ただただキーーッッッ!ってなってただけで……魔力のことも本では見ていたけど、わたし周りでもそう使ってるのも見たことないし、昨日の事も、初めて魔力を排出とした言われても、ただ水晶に触っただけとしか思えないし……」
「ふむ…そうか。ユーリはロズの魔力を貰ったんだろ?魔力の流れる感じは伝わったかい?」
「えぇ、えっと……暖かいお湯が流れ込む…そんな感じに流れ込んで来たような……」
「そうか。それが魔力の流れだよ。普通なら水晶に触った時にそれとは逆に少し吸われた感じがするんだ。初めてなら尚の事、少し身体が怠く感じる子も多い」
その時のことを思い返せば、何人かしょんぼりしてる子がいたけど、あれは属性にしょんぼりしてたわけで無く、身体が怠かったのか!
「その顔は思い当たる子でもいたかな?……シルクは?」
「僕も中等部の時初めて触れた時は、やはり少し違和感は感じました」
「うん。それでも魔力の多いシルクだからその程度だったんだね。それすら感じないとか……お父様でも聞いたことないなぁ」
父はお手上げだと笑って万歳をした。
「はい。ロイ様も先程話した水晶の反応も、見た事も聞いたこともないと」
「ふむ……あの子も勤勉だからね。ロイ様が知らぬとなると……君は本当に特別な子の様だね?」
「お父様……わたし……」
「だからと言っても僕らにとってはなんて事は無い。僕らが君達の親である事は変わらないし、ユーリもシルクも僕らの可愛い可愛い子供達だからね。ただ、ユーリが将来困らない様に少し考えてみたいから、ユーリもシルクも出来る限り他言無用、そしてユーリは無自覚かもしれないけど、下手したら君はこの世界で毒にも薬にもなる特別な子になってしまう可能性もある。どうかその事だけは忘れずに、2人は面白楽しく毎日を過ごしておくれ」
なんでも無い様に笑ってくれる父にまた涙が滲む。
「シルクも、いつもユーリを守ってくれてありがとう。しかしこう言うのもなんだが……、万一ユーリの魔力がシルクの手に負えないことに成れば、シルクもためらわずに下がりなさい。君が怪我をしたならユーリも後悔するし、僕らも悲しくなるからね。そんな事が無いのが一番だが……甘いと笑われるかもしれないが、僕は我が子に無事でいて欲しいと願ってしまうよ。それに君達に何かあれば僕までロズに振られてしまうかもしれないだろう?」
父は最後は茶化して笑って言っているが、シルクは信じられない様に、目を見開いてその言葉を聞いていた。
「僕も……姉さんと同じだと……」
「ん?わかってもらえてなかったかい?そうだよ?例え血の繋がりは無くとも、君は私のたった一人の愛する息子だよ。勿論ロズにとってもね」
「ありがとう……ございます」
「まだ引け目を感じていたなら僕の方こそ申し訳なかったね。」
「いえ、僕が勝手に……すいません」
父がポンポンと背を叩けば、シルクに一筋だけ涙が光り、わたしはなんだか見てはいけない気がして、気が付かない振りのまま父にお辞儀し、風魔法の外に出たあと、お父様はシルクとまだ話しているようだった。
「そうか、すまなかったね。改めて言おう。君は大切な息子だよ。幼き日に慣れぬ我が家に来てくれてありがとう。他の誰でも無い、シルクが来てくれたことが僕ら夫婦は嬉しいのさ。
……そうだな、あとは……ある意味もう一度改めて息子になる方法もあるけど、なかなかライバルが大きそうだね?」
「……は!?え!?お父……」
「そのおかげで君はここにいるってのは、なかなか難しい運命だけどね。僕ら両親は君たち一人一人、結果はどんな道だとしても、ただ幸せになってくれる事を祈ってるよ?」
パチリとウインクをすれば、真っ赤な顔で目も口もパチパチパクパクとさせた息子とそれに笑う父の、わたしの知らない平和な親子の夜。
部屋を出た後のわたしは湯浴みを済ませて、何年か振りの母の寝ている布団に入り込み、その温もりを感じながら眠りについた。
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次の更新は、ロイ様目線の出会いの話です。





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