お母様ならなんとなく、変身して魔女っ子になれる気がする
目を開けば、見慣れた自室だった。
前回目覚めた時とは違い身体は随分楽になっているが、芯からくる怠さのようなものは残っているように感じつつ、視線を外に移せば空は暗く、かなりの時間が経っているのに気がついた。
「目が覚めたかしらぁ〜?」
声の方を振り返れば、優しく微笑む母がベットサイドに椅子を寄せこちらを見つめていた。
「お母様……いつから?」
「そんなじゃないのよぉ〜?さっきまでお父様とシルクもいたんだけどねぇ、シルクったら姉さんが心配だって離れないし、ならお母様が付いてるから、お風呂やお夕食食べてらっしゃいって言ったのよぉ〜」
実年齢には似合わないけれど、昔から変わらないこの間延びした話し方は、いつまでも可愛らしい容姿と相まって、年齢不詳に拍車をかけている。
しかし貴族としては普通こんな時は侍女がつくのが当たり前なのに、この家はそこも変わっているのだろう。
ただ本当に愛が溢れているので自然と頬も緩んでしまう。
「お母様、ありがとうございます」
「御礼なんていいのよぉ〜、久々にユーリの寝顔をゆっくり見れて嬉しかったわぁ〜。身体は?もう大丈夫かしら〜?」
「はい……。ロイ様が回復魔法を掛けて下さいましたし……」
「ユーリちゃん?」
「……はい?」
返事をしつつも思わず身体が固まってしまうのは、何故か昔から母は怒るか拗ねるとちゃん付けで呼ぶ。
「さっきっから、2人っきりなのに、ユーリちゃんらしくない喋り方よぉ〜お母様寂しくて寂しくて泣きそうよぉ〜」
……拗ねてる方だった。
「お母様、ごめんなさい。まだ身体も本調子じゃないし……」
母は手を伸ばすと、私の手を布団から出し、両手で優しく包み聖母のように微笑めば、その身体からフワリと光が溢れ出し、優しくわたしの全身に入り込む。
足の先まで光が届いたのを感じると、肌に入り込むように…消えた。
「お母……さまの、魔法?! えっ!? すごい……、疲れてたのが嘘みたい……!」
「そうよぉ〜お母様、光魔法が得意でねぇ〜、なんと!魔力の質がそれなりに近ければプレゼントまで出来ちゃうのよぉ〜」
「え?そんなの聞いた事ないんですけど!?」
「お母様のもね、あんまり公表しないように言われてるのよぉ〜?だってね、渡せる相手にもし知られちゃって、悪い人だったら、その人の魔力として……えっとお母様魔力量多めらしいから、数倍のストック扱いされちゃうと困るからって言われてるのぉ〜」
つまりは犯罪を犯そうとする者などが魔力が少なくとも、お母様が居れば、魔力のストックとして使われてしまう可能性も出て来るし、しかも王家の血筋のものである母が、そんな特技があるなら、更に狙われる原因としても増えそうだ。
しかも若かりし頃の母では(あんま見た目変わってないけど)、それを目当てに政略結婚等引く手数多になったことは間違いない。
お父様、よく落としたな……。いや、お母様の一目惚れだっけ?
「だから、内緒ね〜、お母様もユーリの魔力は内緒にするしおあいこねぇ〜」
わたしもまだ自分の魔力に対して詳しくわからないが、気を楽にさせてくれてるのを感じて、それが嬉しい。
「でもねぇ〜今、お母様ユーリに魔力送って思ったけど、ユーリの魔力の壺?入れ物?大き過ぎな気がするわよぉ〜…だからお母様疲れちゃったから、今日はユーリとここで寝るわ〜」
もぞもぞと布団に入り込んでくる。
「ちょ……お母様!? 流石にそれは……わたし、お風呂も入ってないしっ」
「ユーリはね、もうお母様の魔力をあげたから大丈夫よぉ〜?だからお母様は寝るから、ユーリはいつも通りの事済ませて、お腹いっぱいになったら、戻ってきてねぇ〜」
もう既にうつらうつらしている母に言われてみれば、身体の状態は起きた時と比べ物にならない。
寝息を立て始めた母を見れば、白い肌が更に白く……正直言えば顔色がかなり悪くなっていた。
なんでもない事の様に言っていたが、かなり無理をしたのだろう。
「お母様……」
滲む涙は仕方なくて、寝たばかりの母を起こさない様にそっと布団を降り、部屋を出て待機していた侍女に母がここで寝ることと、心配疲れをさせてしまったから、もし様子がおかしかったらすぐに家族に伝えるよう言って、お父様の居る書斎に向かった。





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