忘れたい事は全員共通なのかもしれない(遠い目)
「あっ、姉さん?目が覚めた?」
ボンヤリとする頭と、少しずつ開けてきた視界にシルクが入り込んだ。
「……ん……ここは?」
起き上がろうとしたら身体が鉛の様に重く感じ、上手く動けないでいると、シルクが支え起こしてくれた。
「姉さん?大丈夫?」
「えぇ……。わたしどうしたのかしら?……えっと、ここはどこ?」
「学園の保健室だよ?僕が運んだんだ」
「そう……ありがとうシルク」
貧血の様にふらつく頭で記憶を手繰るが、イマイチ思い出せない。
「魔力の暴走だな。昨日魔力を体外へ出す事を知ったばかりなのに……無茶をする」
声の方を向けば、苦しそうにロイさんが説明してくれていた。
「そうなんですか?魔力を使った自覚は無いのですが……申し訳ありません……」
「謝るな。無自覚でやったことはわかっているし、幸いな事にユーリが魔力を使う姿を見たのは、シルクと教師一人。無論もう口止めはしてあるが……まぁアレは喋らないと約束を取り付けたから……あぁもういい忘れろ」
なんだかめちゃくちゃ思い出すのも嫌そうな顔で話を切り上げられた。
「昨日から……重ね重ねご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「謝るなと言っているだろう。婚約者ぐらい守れなきゃ、俺は王になどなれん」
「ロイ様……」
「……ロイだ」
「ロイさん」
「……うん、まぁいい。休め」
ロイさんは手を伸ばし、フワリとわたしの頭に手を当てると、まるでお日様を浴びたかのように全身がポカポカとして身体が少し軽くなったかと思えば
「回復魔法だ。きっと今は眠くなる。そのまま眠れ」
そんな優しさのある声に安心して、逆らわず力を抜いた。
2人はユリエルが寝息を立てるのを見届けて、いつになく真剣な顔で目を合わせる。
「ロイ様、天候を動かすほどの魔力に聞き覚えはありますか?」
「いや……無いな。過去の文献を辿っても、そうあるものではあるまい」
「そうですね……僕も聞いた事ありません。それに姉さんの昨日の水晶の反応も……ありえない。」
「普通なら2色3色あったとて、例え混ざり合う様になっていたとしても、必ず全ての色が見て取れるはずだ。……しかし昨日のユーリの魔力は……闇を、溢れる程の光が包み隠した。しかも水晶が割れるなんて……それだけだって見たことも聞いたこともない」
2人はなんとも言えない顔で改めて彼女の顔を見る。
「姉さん……」
シルクがそっと手を握れば、彼よりもひと回りは小さい、白く美しい手は冷たく、思わず温めてあげたくて両手で握る。
「……何か、知ってることは?」
シルクは苦しそうな顔で頭を振った。
「そうか……」
ロイも眉間にシワを寄せユリエルを見つめる。
「こちらでも調べてみるが、両親にもなにか思い当たる事はないか聞いておいてくれ。勿論、他言無用だと」
「はいわかってます。……しかし昨日のあの時まで、この人は自分にまともに魔力がある事すら自覚してなかった様に思います。両親すら姉の魔力が何色なのかと、食事の場で楽しげに話題に出されていたくらいですので……新たな情報が入るとは思えません」
「そうか……セルリア公爵は賢明な方だしな。何か知っていると思ったが…」
「念の為帰り次第確認を……明日にでもご報告いたします」
そういえば……あの食事の時に両親が、赤だ、青だ、聡明な子だから何種類も輝くのでは……なんて話していた時、「そんな色だったら嬉しいなぁ」と、姉にしてはなんとなく歯切れの悪い言い方に感じたが、その違和感の理由も、会話の辻褄もおかしい訳でも無かった為、シルクは口に出すこともなく、少しずつ体温の戻っていく手にホッと息を吐いた。
「……ところでだ。いつまで手を握っているつもりだ?」
「家族ですから」
「よし改めて聞こう。俺の婚約者の手をいつまで握ってるつもりだ?」
「さて、僕は姉を馬車まで運びますので、ロイくんは気にせずお帰りくださいね?」
「婚約者である俺が運ぶべきだろう!」
「いえ、今は家族であり、未来も家族になり得る僕が運びます」
「おまえ……!暗になんか含みを込めてやがるな!」
「なんのことかサッパリです。未来は未定なので?」
「貴様……一番言ってはいけない言葉を……!!」
「おや?何か気に障ることを言いましたか?是非その辺の詳細を……」
にわかに騒がしくなった保健室に、そのせいでう〜んう〜んと魘されている可哀想な姫がいる事に2人が気付くのは、いつの間にか入ってきていたアベイルに困った様に注意された時だった。





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