とりあえず、一家に1人シルクよね。
「今日は最初に魔法の授業があるのよね?」
「姉さんは今年から学園に来たから、まだ得意な性質の魔法を調べてないんだったね。楽しみなの?」
朝の通学中、揺れる馬車の中で聞けば優しい微笑みを向けてくれる。
「えぇ…そうね。ところでシルクは中等部に入った時に調べて…たしか氷が得意なのよね?」
「うん。あとは日常生活程度なら水、風魔法も一応使えるけどね。属性としては氷」
だから昨日エアコン効いたのかしら?まだ昨日は少し早かったけど、夏場は一家に1人氷魔法使いが欲しいわね!!
「基本は…得意なのはシルクみたいに1種類…だったかしら?」
「そうだよ。今日の授業で最初に触れる魔石の色で判別されるんだよ。稀に…ロイ様みたいに、火と風、あとレアな光魔法なんて、2、3種得意なんて特殊な人も居るけど、基本はみんな1種類だよ」
「そうよね。ありがとう。」
表面では微笑んではいるが、正直内心はそれどころではない。
今日はヒロイン登場の日なのである!!!
昨日の入学式は、なんだかドタバタしてわたしは会うことなく終わったが、薄っすらとある記憶がホントなら入学式で既にロイ様と既に出会って居るはず!!
私の記憶だと多分ね!きっとね⁉︎ベタに考えてたら昨日会うでしょ⁉︎
入学式で、遅れちゃう〜ドンッ!わぁ☆ごめんなさい!!急いでて前見てなくて…
……あれ?この話昨日どっかで見たような?
ハッ‼︎‼︎アベイルさん!アベイルさんなの⁉︎
「アベイルさんがヒロインだったのね⁉︎」
「姉さん?突然どうしたの?」
「…って、そんな訳ないか…」
「あ、ダメだこれ、聞いてないやつだ…」
昨日のヒロインとの出会いはただのわたしの妄想なのか、それともイベントをアベイルさんが奪ったのかはさて置いて…たしか大切なのは今日よ!!
この魔法石での得意な魔法の性質を調べて…確か、ロイ様に匹敵するか…ロイ様以上の光魔法を発動するのよ!!?
……えっと、多分。
あの、異世界転移パターンじゃなければ。
男爵令嬢とかのパターンの場合ね。
……違うかも知んないけど。
うん。違う小説かもしれない。
違ったら聖女さまパターンに切り替えよう。
ってかさ、基本平和なのよねこの国。戦争とか物騒な話も今んとこ聞かないし、魔物が溢れて〜…みたいな事もない。
チートなヒロインどこで活躍するんだろ?
まぁ、そんな大きなイベントはさて置いて、とりあえず彼女が出てきたら、逆ハーレムは免れない。
この可愛い義弟も、この国の王子様も、多分秀才でなんかの頭角表すだろうアベイルさんも、まだ見ぬ攻略キャラもみんなメロメロ。あのフルーツパンのパンチ受けたレベルでメロメロでドキンドキンになっちゃうのよね……
そんである事ない事わたしのせいになって……はぁ……
「存在忘れられてそうだし、姉さんの百面相を見てるだけで楽しいのだけど…姉さん!もうすぐ着くよ?」
「わかったわっ!やはりわたしに必要なのはお友達よっ!!」
右腕を挙げガッツポーズをするわたしに、
「姉さん…もう着くから、お願いだから大人しくしててね?」そっとわたしの拳を押し下げながら告げるシルク。
「わかってますわ。大人しく、お友達作りに励みます」
ニコリと笑えば「わかってないと思うよ?」なんて言いながらも、馬車から先に降りてエスコートしてくれる。
その手を取りながら思う。
わかってないのはシルクなのよ?と。
これからわたしが魔石に触れれば…過去に殆ど例の無い黒色に染める。
それは闇魔法。
悪役令嬢というより、まさに悪役のベーシック。
染まれば、きっと畏怖され友達になってくれる子は減るだろう。
公爵家から闇魔法の使い手、しかも我が家は王族の血を受けついでいる。
家族に向けられる目も変わるかもしれない。
そしてそんなわたしを先入観に囚われず、友達になってくれる人は居るだろうか。
友達が居れば、断罪イベントが起きた時、もしかしたらわたしを守ってくれるかもしれない。そんな事していないと、言ってくれるかもしれない。
未来で、この子……シルクに責められて、わたし1人で立っていられるだろうか。
ロイ様にあらぬ罪を着せられて、友人すらも居なければ証拠も無く、違うと言えるだろうか。
それにアベイルさんにもう友人ではないと言われたなら、また笑える様になるのだろうか?
少しだけシルクに添えた手に力が入ったらしく「姉さん?」と心配そうに声を掛けられる。
「なんでもないわ。さぁ、行きましょう?」
そう〝なんでもないように‘’笑う。
そうだわ。今は、なんでもないのよ。
まだ3年近くあるのよ?
このままなんでもなく、卒業するの!
普通はどんな事が起きるかなんて、生きてれば分からないもの。
突然の病で倒れた訳じゃない。
あの幼い手を2度と握れなくなるわけじゃない。
まだ、これからよ。
一花咲かせてなくとも、堅実に確実に生きていけばいいんだわ!!
たとえダメなら平民に逃げるのも手よね。
働くのよ!!自分の食いぶち程度ならなんとか前世の記憶でやれる気もするし、公爵家のわたくしが、額に汗して働けないだろうと普通思うしね!
あっ!日本食みたいな食堂とか!……は、ダメか……
。
「お母さんの料理、嫌いじゃないけど、そこまで美味しいとは言えないよね!」と、とんでもなく失礼な事を満面の笑みで言った娘を思い出す。
いや、とにかく内職でもスーパーのレジでも、品出しでも…はて、この世界の働きブチはどんなもんかしら?
でもまぁ…なんか、希望が見えてきた気がするわ!!
「頑張りますわ。ねぇシルク」
そう笑えば、少し顔を赤くして「よくわからないけど…姉さんならやれると思うよ?」と笑ってくれた。
そんな肯定してくれる義弟に感謝しつつ、私は教室に向かった。





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