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アベル・イグナシオ回想録 ~国境で捕えられた敵国人は、俺の命の恩人でした~  作者: 晩夏ノ空


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49 帝都の協力者(1)


────────────────────────────



 帝都への強行軍は、正直行き当たりばったりだった感は否めない。

 普通の軍の作戦だったら、そもそも許可が下りないだろう。

 他国への潜入、しかも目的は国の中枢への強襲だ。こんな少人数でやるのは正気の沙汰ではない。

 だが──それすらも、実は大公の掌の上だった。

 帝都には、驚くべき協力者が用意されていたのだ。



────────────────────────────




 帝都に何か当てがあるのかと思ったら、リョウには無いという。


「うちの一族出身の帝国側との連絡役の人間が居るには居るけど、そいつに呼び出された凍牙とアオイがああなったから…」

「あー…」


 その連絡役が『あちら側』になってしまっている可能性が高い。

 なら、とモーリスが言う。


「俺の伝手を使うか」

「モーリス、帝国に伝手なんてあるの?」

「本来は機密事項なんだがな…」


 何故か視線を逸らして、ごにょごにょと呟く。


「帝都には、俺の弟が居る。帝都を担当している諜報員だ。あいつに頼めば、帝都だろうと城だろうと入り放題だろうよ」

「あー…、あいつか」


 ブラウが何故か微妙な表情をする。


 面白がっているような、しかし若干嫌そうな顔だ。


「俺、知らないんだけど」

「隊長直属だからな。うちの連中でも数人しか知らないと思うぞ」


 隊長補佐であるアベルが知らないのはどうかと思うが、機密と言われたら黙るしかない。


「まあ……覚悟はしておけ」

「ねえ、何その不安を煽る台詞」

「会えば分かる」


 モーリスが疲れた顔で遠くを見た。





 帝都までは、普通なら徒歩で5日ほど掛かる。

 アベルたちは、その道程を2日で踏破した。


 種も仕掛けもある。モーリスの身体強化能力は、仲間に伝播させることが出来るのだ。


 魔法にも身体強化の系統は存在するが、魔力を使わずに、仲間まで強化出来るのはモーリスの異能ならではだろう。


 そして。


「…ここだ」


 帝都の門ではなく、西側の外壁。

 なんの目印も無い場所で、モーリスが足を止める。


 石とレンガで出来た壁に近付き、周囲を探ると、程無く石の一つを独特のリズムで数回叩いた。


 すると、


「……!」


 ズ…と僅かな音を立てて、外壁の一部が向こう側へスライドした。


 ぽっかり口を開けた入口から、これといって特徴のない、ごくごく普通の顔立ちの青年が顔を覗かせる。


「…お待ちしていました。どうぞ」


 待っていた、とは。

 警戒するアベルをよそに、モーリスは平然とした顔で入口に近付いた。


「行くぞ」

「…分かった」


 どのみち、正門からは入れないのだ。


 覚悟を決めて外壁の中に入ると、すぐに入口が閉まった。青年が何かをした様子はないが、どこかから遠隔操作しているのだろうか。


「こちらへ」


 暗闇の中、青年が灯りを掲げて先導する。


 その灯りは松明やロウソクではなく、公国の自治区で開発された魔石ランプだった。パレンシア伯爵が密かに輸出していたもののうちの一つだろうか。


 ますますその青年の正体が分からなくなる。


 一般人ではないだろう。この通路は明らかに違法だし、『普通』の見た目に反して、足運びが異常に安定している。石の床を歩いているのに、足音が殆どしないのだ。


(…軍人…?)


 道案内されるまま、いくつかの階段を昇り降りし、扉を抜け、長い坂道を下り──自分の現在地が分からなくなった頃、ようやく明るい部屋に出た。


「お連れしました」


 青年が一礼しながら中に入ると、



「おう! ご苦労さん!」



 場違いな明るい声が響いた。


 モーリスが思い切り顔を顰める。


「………入るぞ」


 苦虫を噛み潰したような表情で、モーリスが部屋に入る。

 それに続いて入室したアベルは、次の瞬間、自分の目を疑った。



「久しぶりだなマイブラザー!」



「のっけから抱きつくな!」



 やたらテンションの高いモーリスが、物凄く嫌な顔のモーリスに抱きついている。


 …いや。



「……双子?」



 リョウが呆然と呟くと、テンションの高い方のモーリスが抱きつくのをやめ、リョウを見てパアッと顔を輝かせた。


「わお、久しぶりのかわい子ちゃんじゃないの! なにモーリス、そういうサービス覚えたの? 嬉しいぜマイブラザー!」

「んなわけあるか! 少しは真面目に話をさせろ!」


 モーリスが言っていた意味が分かった。


 これは、会うのに覚悟が要る。


「久しぶりの再会だからってそんなに恥ずかしがるなよマイブラザー」

「……」


 モーリスが疲れている。


 弟だというから似ているんだろうなとは思っていた。確かに顔はそっくりだが、何と言うか…まさかこういうタイプだとは。


「お茶をお持ちしました」


 奥の扉が開き、先程の青年が人数分のお茶を持って来た。


「ありがとさん。そこに置いといてくれ」

「はい」


 テーブルにお茶を置くと、青年は一礼してさっさと部屋を出て行く。

 それで一区切りになったらしく、モーリスの弟は居住まいを正した。


「はじめましての奴が多いな。オレはクラウス。モーリスの双子の弟だ。よろしくな〜」


 すぐに態度が崩れる。どうやら、それが彼──クラウスにとっての『普通』らしい。

 お互いに名乗り合うと、クラウスは皆にお茶を勧めた。


「まあ飲もうや。酒じゃないのが残念だけどな」

「…お前が酒を飲んだら大惨事だろうが」


 モーリスが低く呻くと、何故かクラウスはとても楽しそうに目を輝かせる。


「おっ、なんだ、どれだけ成長したか見たいってか? 昔のオレと一緒にしちゃあいけないぜマイブラザー」

「…お前ちょっと黙れ」





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