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「言いたいことが言えたなら」

言葉のキツイ大人ほど、心は脆いものなのよ

「よーし、朝飯食べたぞー」

「ふふふ、朝ごはんは大事ですからね」

「着替えも済ませたー!」

「ふふふ、似合ってますよ。やっぱりタクロウさんも制服が似合います」

「よーし、これで準備万端! いつでも来いよ、サトコ!!」

「はい、サトコさんはもうすぐこの部屋に来てくれますよー」


 ……気まずい。


 はい、朝食を済ませてお着替えもして小林くんはサトコさんが来るのを待ってるわけですが……


 >気まずい<



 精神状態:『絶好調』→『不良』。緊張状態。



 どうしよう、飯を食って着替えてるときは……


(見てろよ、サトコ。お前が今、どんな気持ちなのかは知らねーがもう許さん。その暴力的なボインを揉みしだいてごめんなさいと言わせてやる! 俺の我慢もここまでだ、覚悟しろよ!!)


 とか何とか強気になっていた小林くんですが、いざその時が近づいてきたらこの調子でございます。ごめんなさい、調子に乗ってました。


「覚悟しろよ、サトコォ!」

「ふふふ」


 ずっとこんなやり取りが続いているのに素敵な笑顔を絶やさないフリスさんがちょっと怖い。


『……』


 アミ公に至っては無言! ごめんよ、肝心な時にヘタレちゃう僕でごめんよぉ! でもこれは仕方ないんだ! 何だかんだカッコつけても俺は


 ガチャッ


「ほあああっ!?」

「……おはよう。よく眠れたかしら?」


 そしてサトコさんが部屋のドアを開けて中に入ってきた。


「あ、おはようございます。サトコさん!」


 俺は爽やかな笑顔で挨拶した。


 すんません、やっぱり無理でした。例えどんなにムカついていようとも、綺麗なお姉さんの顔を間近で見たらこんなもんですよ。ははは、ヤンナルネ。


『貴方のイメージトレーニングではこの時点で胸を触っていました』


 アミ公様ー、ちょっと静かにしててー? お願い。


「おはようございます」

「少しお邪魔するわね、大事な話があるの」

「はい、お願いします! サトコさん!!」

「ふふふふっ」

「……何だか、二人共機嫌が良さそうだけど。何かあったの?」


 お願いだから、何も聞かないで下さい。


「ふふふ、何でもないですよ。ね? タクロウさん」


 彼女の笑顔がここまで怖いものに見えたのは、いつぶりだろうか……



「とりあえず昨日はお疲れ様。色々と肝を冷やしたけど……結果は上々よ」


 サトコさんは俺に労いの言葉をかけてくれた。


「あれで上々なんすね……」

「私たちが予想していた結果よりね。他の終末対抗兵器(OVERPEACE)のみんなはもうすっかり貴方を友達として認めてくれてるわ」

「素直に喜べねーですね」

「……でしょうね」

「それに、みんなじゃないです。色々あって思いっきり傷つけちゃった子がいます」

「……」


 俺はサトコさんの顔を見るが彼女は申し訳なさそうに目を逸らす。


 さて、何から言ってやろうかね。さっきまでは緊張していたが、面向かって話を聞いてたらやっぱり言いたいことが腐るほど出てきたわ。


(はー……どうしようか。この人、美人なのは認めるけどさぁ)


 人の話は聞かないし、信じないし、肝心な所は教えてくれないし、おまけに凹んでる俺のメンタルケアは全部フリスさんに丸投げですよ。本当に、本当に……


 アンタ、ふざけるなよ?


「アンタには色々と言いたいことがありますが、真っ先に言っておきたいことがあります。今度はちゃんと聞いて下さい」

「……」

「俺はアンタのコバヤシ・タクローじゃない。だから、アンタの思うような結果は出せないし、アンタが思ってるほど優秀でもなければ、タクローくんよろしく日本のあれこれを任されても……正直いい迷惑だ」

『いえ、貴方の能力は日本の平和を託すに相応しいものです。貴方ならこれからも』


 黙ってろ、アミ公ゥ! 今の俺は真剣なんだよ! 今度、余計なこと言ったら口をガムテープで塞ぐぞ!?


『……』

「……でしょうね」

「でもな、一番ムカつくのは……フリスさんに俺を任せっきりのことだ」


 俺の言葉を聞いてサトコさんははっとした表情をする。


 フリスさんは俺の隣で何も言わずに座っているが、残念ながら俺はこの子ほど良い子じゃないんでね……代わりに言わせてもらう。


「この子にはわかっているんだ。俺が別人だって。それでも……俺を勇気づけてくれるんだ。俺を支えてくれてるんだよ」

「……」

「この子の気持ちが、アンタにわかるか?」

「……そうね」

「ガキの俺が言うのもアレだけどな……アンタ、大人として駄目駄目だ! 此処に居るのが俺じゃなくて親父だったら……ぶん殴られてるぞ!?」

「……!」


 言ってやった。言ってやったぞ、畜生!


 そうだよ、俺の親父だったら今頃アンタをぶん殴ってるよ! あいつも人の話を聞かなかったり説明もなしに殴りかかったりするけどな、俺と明衣子をしっかり育ててくれたし……何だかんだ励ましてくれるいい親父なんだよ!!


「アンタも大人なら親父みたいに立派な奴にはなれないにしろ、何も知らないガキの質問くらい答えろ!!」

「……」

「あとガキの世話を同じガキに任せんな! この子がタクローのパートナーだったとしてもな……大人として少し気を利かせるくらいは出来るだろ! そんなことも出来ないアンタの言うことを……俺がいつまでも黙って聞いてくれる思うなよ!?」


 俺に怒ったりする時もな、明衣子を泣かすとか質の悪い悪戯をしたとかいう悪い事をした時くらいなんだよ! こっちの親父も今の俺が別人だって知ってるよ……それでも弁当作ってくれたり、俺がフリスさんを傷付けた時はちゃんと叱ってくれたんだ!!


 アレでも親父はアンタよりずっといい大人してくれてんだよ!!


「アミ公……AMIDAが居るから大丈夫だなんて思わないでください。俺は人間なんでしょう? 大事な事はちゃんと人間のアンタの口から聞きたいに決まってるじゃないですか」

「……」


 あんまり言いたくないけど、アミ公が居なきゃマジで詰みだったぞ! 死ぬほど酷い目に遭わされたけどさ! このツンドラAIでもサトコさんよりはマシだ!!


『光栄です』


 言っとくけど褒めてないからね!? 勘違いしないでね、彼女よりマシってだけで君も大概酷い奴だよ!?


「……はい、俺の言いたいことは全部言いました」

「……そう」

「じゃあ、次はアンタの言いたいこと言って下さい。聞いてやります」

「……」

「どうせ、『戦って』だか『頑張りなさい』くらいしか言ってくれないでしょうけどね」

「ふふふ……そうね。本当に、情けないわ」


 俺に色々言われたせいか、サトコさんは小さく笑った。そしてここでようやく俺と目を合わせた。


「そうね、あの人なら……殴ったでしょうね」

「……?」

「ごめんなさい、コバヤシ君。駄目な大人で……」

「え、あ……」

「ごめんなさい……」


 サトコさんは俺の目を見つめながら、目尻に涙を浮かべた。



 精神状態:『不良』→『注意』。軽い動揺状態。



 え、泣いちゃうの!? やめて! 泣かないで! 沙都子先生そっくりの顔で泣かないで!!


「え、ええと! 大丈夫ですって!! 確かに駄目なお姉さんでしたけど、ここから頼れる大人としてしっかりした所を見せてくれれば……」

「……無理よ。ちょっと、立ち直れそうにないわ」

「さ、サトコさん!?」

「うわぁ! ごめんなさい、言い過ぎました!! だから泣かないで!?」

「ふっ………ふふ、ふふふっ……」


 おいおい、マジで泣きそうだよ! 俺泣くほど酷いこと言ったっけ!? 確かにちょっと強めに言いたいことぶちまけたけどさぁ! なんか彼女の地雷でも踏んじまったのか!?


『問題ありません。むしろ甘すぎると思います。もっと本気で罵倒しながら胸を鷲掴みにするくらいの制裁は必要かと』


 いや、それはやり過ぎだよ!?


「すんません、すんません! 言い過ぎました!! 今言ったのはあくまで俺視点の言葉でありまして……サトコさんの気持ちとかそういうのがわからなかったからでしてね!!! ですからその」

「あー……もう、困ったわね。貴方たちの前だから頑張ってみたけど……駄目ねぇ」

「は、はい?」

「ごめんなさいね、泣き虫で。でもお蔭でスッキリしたわ……ありがとう」


 サトコさんは何故か俺にお礼を言い、目尻に滲んだ涙を拭うと素敵な笑顔を見せてくれた。


 精神状態:『注意』→『平常』


「……あ」


 俺はその笑顔に見覚えがあった。それは沙都子先生が本当に無理をしている時に見せる顔だった。



「言いたいことが言えたなら」-終-


\SATOKO/>KOBAYASHI<\Frith/

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