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「絢爛交歓祭」

ここからが本当の地獄だ

調整者(メンテナンサー)は別の部屋で待機するんです。あの会議には、タクローたちと七条さんしか参加できないので……』


「はっ!」


 二人の美少女にぐいぐい来られていい気になっていた俺の脳裏にフリスさんの姿が浮かび上がる。



 精神状態:『*><*』→『良好』。未知の精神状態から良好に変化。



「と、とりあえず部屋に入ろうか!」


 フリスさんの寂しげな顔を思い出した俺は心頭滅却し、左腕を封じるボインを振り払……おうとするが思いの外しっかりホールドされていて抜け出せなかった。


「むー!」

「むーじゃないよ! ほら見てよ、クーロンさんのあの顔! まるでゴミか何かを見るような目をしてるよ!?」

「いや、そんなつもりは」

「クーロンは昔から目付きが悪いからよくわからない」

「……もういい、先に部屋で待ってるぞ」


 クーロンが俺達を置いて通路の先の部屋に向かう。


 キャサリンさんはふくれっ面になりながら俺の左腕を開放し、サーシャさんに向けてべーっと舌を出して挑発しながらクーロンの後をついて行った。


(……かなり子供っぽい性格だな、キャサリンさんは)


 それでいてあのダイナマイトバディか……相当な強敵だ。だが、フリスさんが俺を待っている。さっさと終わらせて彼女の所に戻らないと……


『フリス・クニークルスは婚約者候補ではありません。彼女を選ぶのは感心しません』


 >まさかのフリスさん候補外!<


 気は確かですか!? 10年の付き合いがある幼馴染を候補外にするとか人間のする事じゃねえ! どう考えてもあの子が花嫁候補でしょ!? 親父公認だよぉ!? 選ぶとしたらもう彼女しか


「……行こう、コバヤシ」


 ギュッ。


「アッハイ」


 ツンドラAIに異議を唱えようとした俺の手をサーシャさんはギュッと握る。


 彼女は明衣子と同じくらいの背丈で小柄な体格だが、キャサリンさんと比べて大人びている。この獣耳といい、性格といい明衣子ちゃんと似通った物を感じる……彼女も相当な強敵だ。


「あの、もう手を離してくれてもいいよ?」

「……」

「あのー……」

「……私と手を繋ぐのは嫌?」


 おーっと、何か言い出しましたよ。


 おい、タクローくん。いけませんよ、いけません。フリスさんという幼馴染がいながら! ロシア人ケモミミ美少女といい感じになるなんて……小林くんは許しませんよ!?


「どっちかというと、繋いでいたいですね」


 おい待て、何を言っているんだ俺は!?


 バカヤロー! イケメンでもないのにこんな台詞言ったら気持ち悪がられて……


「……むにぁーぷりやーとぅ(うれしい)

「む、むにゃむりゃ?」

「……何でもない。忘れて」

「アッハイ」


 あ、脈アリですか……そうですか。


 え、このまま手を繋いで部屋入っちゃうの? ちょ、ちょっと流石にそれは……で、でもこの子がその気ならー


「……やっぱり離す」

「アッハイ」

「みんなに見られると嫌だから」


 デスヨネー。ごめんなさい、調子乗りました。


 あとフリスさん、ごめんなさい。明衣子似のケモミミ少女にときめいてしまった駄目な小林くんをお許し下さい……。


『問題ありません』


 うるせー! 俺には大問題なんだよぉ!!



 精神状態:『良好』→『平常』



 泣いているフリスさんを幻視しながら、俺はサーシャさんと一緒に部屋に入った。


「遅いぞー! コバヤシィ!」

「廊下で何やってたのー? ちょっと詳しく聞かせてもらえる??」

「日本人は時間にうるさいと聞くが……小林には当てはまらないんだな」

「だってコバヤシだもんな!」

「ハーイ、コバヤシ! 貴方の席はここよー、かむひーあ!!」

「……」

「おう、自由な女神がご指名だぞ。行ってやれよ」


 豪華な装飾が施され、長いテーブルと高級そうな椅子が置かれた大部屋でオーバー・ピースのみんなが俺を待ってくれていた。


「……おおぅ」


 男女比は同じくらいで、みんな個性的な姿だ。といっても、俺みたいに()()()()()()()()()()()()姿()をしているのは居ないし、誰も彼も整った目鼻立ちをしている。


 やだ、ひょっとして小林くんの姿……悪目立ちしてない??


『そんなことはありません。自信を持ってください』


 アミダ様はそう言ってくれるが、とてもじゃないが自信が持てる顔じゃない。


「え、えーと」

「かむひーあ!!」

「……こっちには来ないでくれる?」

「アッハイ、すみません」


 何処に座ろうか悩んでいたところで眼鏡をかけた子に厳しい言葉を投げかけられた。ええと、この子は確かイギリスのアルテリアちゃんだったっけ。


『アルテリア・ペンドット。婚約者候補の一人です』


 嘘つけや! 今の反応の何処に婚約者要素があったんだよ!?


「じゃ、じゃあ失礼します」

「もうゴールインしたらいいんじゃないか? そこの二人で」

「ええっ!? ちょ、何を言い出すんだね!!?」

「えへへ、あたしはOKだけどー?」

ニェ、ニェーット(だ、だめーっ)! 駄目!!」

「それはサーシャさんが許さないそうですわ」

「クーロンはどう思う? あの二人のカップリング」

「俺には何とも……」



 さて、ここからが本題だ……


 絢爛交歓祭(ダズリン・フェイト)が開催されるのは終末対抗兵器同士の親睦を深める為だ。各々が核兵器並の抑止力となっている俺達が仲良くなることでお国同士のわだかまりも消えて世界平和に近づいていくと……


『そのとおりです』


 だが所詮、それは建前。真の目的は各々の終末対抗兵器を結婚させて国を合併すること。キャサリンさんの婚活パーティー発言は決して間違っていないのだ。


『国が合併することはその国が文字通り一つになることです。婚約が成立して合併に成功した場合、襲撃する〈終末〉は一体に減少。対してこちらは二体の終末対抗兵器を保有する事になります。二体一という圧倒的有利な戦況を実現できる上に〈終末〉の出現数を減らせる唯一の手段です』


 はい、そういうことでございます。普通に文字だけ読めばいい感じに世界平和に繋がると思えますが、よく考えてください。


『また終末対抗兵器を二体所有する〈合併国〉は戦力的にも世界情勢的にも多大な影響力を持つことになります。アメリカ合衆国に双肩する、もしくはアメリカと合併して更なる大国になれるチャンスである為、日本政府も貴方に期待しています』


 サトコさんが俺に説明したがらなかった理由が嫌ってほどわかりますね。


 つまり、大人達は俺達を世界平和とは名ばかりの政略結婚の道具にしようとしている訳だよ!!


「ふふふっ、じゃあもう決めちゃう? ()()()()!」

「だ、ダーリン!?」

「そう、ダーリン! うふふふっ!」


 ならば俺のやるべき事は決まっている……


 コバヤシ君が積み上げてきた各国オーバー・ピースとの友好度を維持しつつ 全力で結婚を先延ばし にする! 俺のトーク力と精神力と忍耐力が試される壮絶な戦いだ!!


『いえ、お相手を選んでください。婚約者候補は既に目の前に』


 俺はまだ未成年! 結婚はまだ早い! 早すぎる! それにもし結婚するならお相手は……


「あっ、でも結婚する前にハニーの了承を得なきゃ。ハニーはコバヤシのこと嫌いみたいだからー」

「勝手に決めるな! コバヤシはキャサリンには見合わない!!」

「そんなことないよー! ほら、私たちが結婚したら日米間が」

「駄目!!」


 ……しかし、タクローくんってこんな見た目してんのにモテてんのね?


『当然です。コバヤシ・タクローですから』


 アミダ様は何処か誇らしげに言うが、ちょっと気持ちの整理がつかない。どうしてかな、本当は喜ぶべきなんだろうけど胸が締め付けられるようだ。


 だって俺、タクローくんじゃないんだもの。中身は凡人の小林くんなんだもの。


「……」

「まぁ、()()()()()だな。お前もそろそろどちらを選ぶのか決めたほうがいい」

「決めろって言われても……あー……その」

「どうした?」


 隣に座る目がちょっと怖い黒人さんが声をかけてくれたが、この人が誰なのかがわからない!


『……』


 ええと……ええと、ちゃんと顔は覚えてるんだよ! メモリミテート・ルームで紹介された筈だし! でも名前が、名前が……!!


「まだ、考える時間がほしい……かな」

「だよな。気持ちはわかる」

「だって、まだ10代だよ……そのー……えーと……」

「わかる。俺も同じ気持ちだ」

「わかってくれるか」

「わかるとも、トモダチじゃないか」


 滅茶苦茶いい人だよ、この人! 結構、厳つい顔だけど凄くいい人だよ! やばい、この人に惚れそうだよ……名前わかんないけど君の事はしっかりと覚えたよ!!


『彼はジルバ。アフリカの終末対抗兵器です。彼とも友好な関係を築けているので忘れないでください』


 アッハイ、ゴメンナサイ!!



「絢爛交歓祭」-終-


\KOBAYASHI/\Саша/    \\\OVER.PEACE///

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