「ウェルカム・トゥ・ワンダーオオトリ」
大胆な行動はヒロインの特権よ。
「……」
「……」
はい、フリスさんに手を引かれて家を出たのは良いものの……これと言って会話が弾んでいるわけでもありません。
はい、先程からずっと二人して無言で歩いております。
_人人 人人_
> 気まずい <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
ごめんなさい、調子乗ってました。
生まれてから16年、彼女はおろか女友達すら居なかった小林くんにフリスさんの気を惹くだけの小洒落た話題が浮かぶ筈がございません。
このザマで田中や安藤に自慢してやろう等という浅はかな事を考えた自分が情けな
「あの……」
「ヘェアッ!?」
何か変な声が出た!
「……大丈夫ですか? タクロー」
「……大丈夫です、フリスさん」
「……本当に?」
あ、やっぱりわかっちゃいます?
「ごめん、嘘ついた」
「……ですよね、やっぱりこの前の戦いが原因……でしょうか」
「うーん……」
このツインテエンジェルのフリスさんは俺の幼馴染だ。
>俺の幼馴染だ!<
……ということはやはり俺との付き合いも長いはずであって、多分彼女は俺の事をよーく知っているんだろう。
対するこの俺、小林くんは彼女の事を何一つ知らない。
知っているのは彼女の年齢と体重と スリーサイズ といった個人情報くらいのものだ。
うん、16歳にしてこの体は反則だと思うよ。夜道に気をつけてね。
「……私にも、話せませんか?」
ううっ、そんな潤んだ瞳でこちらを見つめないで下さい。耐えられません!
……駄目だ、早く何とか気持ちを切り替えないと。このままじゃ何もわからないまま事態が悪化する一方だ。
「……怒らないで聞いてくれる?」
「……怒りませんよ、タクロー。だって私たちはパートナーじゃないですか」
あーもー、何なのこのエンジェル。完全に男を駄目にするタイプの娘だよ。
もうこのまま全てを投げ出して彼女とうふふな時間を……
「だからまずは話してください、タクロー」
……ってそれは駄目だ! 駄目、駄目駄目!!
彼女は既に俺に心を開いてくれている。なら俺も彼女に心を開かなければ。その為にも正直に言うんだ、今のうちに言ってしまうんだ。
俺は、君の知っているタクローではないと!
「……実は」
《ブシャルルルルルァアアアアア!!》
「イィヤッフェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!」
《ブシャシャシャッシャルァアアア!!》
「今日も俺たちは絶好調だぜええー! はっはっはーっ!!」
俺が彼女に思いの丈を打ち明けようとした瞬間、俺たちのすぐ近くを 白くて大きな転がらないダンゴムシみたいな生き物 に跨った馬鹿が駆け抜けていった。
「……」
……って、何だ今のは!?
「実は……?」
「え、フリスさん今の見なかったの?」
フリスさんは隣を 未確認奇行物体 が通り過ぎたのに全く意に介していない。あれ、もしかしてこの子には見えてなかったのか?
「何か見えたんですか、タクロー?」
「いや、何でもない。気の所為だったわ。実は今の俺」
「イッケナァァァイ! 遅刻、遅刻ゥウウウウンフッブー!!」
「うぶるぁっ!!」
さっきの馬鹿を見なかったことにして引き続きフリスさんに真実を伝えようとした瞬間、近くの脇道から突然現れた 疾走する制服姿のオーク に突き飛ばされた!!
「きゃあ、ゴメンナサーイ!!」
リボンを付けた女子高生オークはダウンする俺に謝罪した後、猪突猛進という言葉を文字通り体で現しているかの如き勢いで通学路を駆け抜けていった。
わー、すごーい。僕、本物のオークなんて初めて見たよ。すごーい、女の子なのに猛々しいー!
おい、待て。落ち着け、俺! 何でオークが居るんだ!? どうして豚の顔したムキムキな女子高生が存在してるの!? すっごい今更だけど日本だよね、ここ!?
【発言の意味が不明。ここは日本。関西部近畿地方☓☓県の〇〇○市の】
本当だよね!?
「だ、大丈夫ですか!? タクロー!!」
「……た、多分、大丈夫で」
混乱しながら顔を上げた俺の目に信じられない光景が飛び込んできた。
「……は?」
それは前屈みになって手を差し伸べるフリスさんの顔が、一瞬にして意識外に消し飛んでしまうようなものだった……
なんということでしょう。
町のど真ん中に、空まで届きそうなとんでもない大きさの樹が立っているではありませんか!
町を変な人が歩き回っているではありませんか! 変な人というのはですね、体の形が変な人です!!
そもそも、このオオトリ町全体がおかしいではありませんか!!
【……警告、警告。コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】
精神状態:『絶好調』→『要注意』。精神が絶好調から要注意まで悪化。精神状態に問題アリ。安定剤の使用を提案。現実逃避の可能性アリ。
【……要注意】
「……俺、もう駄目かも知れません」
「えっ!?」
「聞かせて下さい、フリスさん」
「あ、はい! 何でしょうか、タクロー!」
「ここは、本当にオオトリ町ですか?」
「は、はい! ここはオオトリ町です!」
「では、最後に聞かせてください。これは夢ではないんですね?」
「え、ええと現実です!」
「嘘を付くなァァァァァァ────!!」
【……警告、警告。状態異常発生。状態異常発生】
精神状態:『要注意』……変化ナシ。安定剤の使用を提案。現実逃避開始。
状態異常:『錯乱』
「ええええっ!?」
「夢だね、君は夢だ。ぜーったい、夢だ。だからもう俺は寝る!」
「タクロー、しっかり! 夢じゃないです、これは現実です!!」
「ちょうどいい枕もあるしね! じゃあ、おやすみグッナイ! 起こさないでね!!」
「タクロー! 起きて! このままじゃ遅刻しちゃいますよ!!」
「うるせぇー! 第一、俺に君みたいな可愛い幼馴染いねーんだよ! 俺知らねーよ! 俺には幼馴染なんていないし、そもそも本当の俺はこんな化物みたいな姿してねぇんだよぉー!!」
「……ッ!?」
言ってしまった。言ってしまったよ、我慢できずについに言ってしまったぞ畜生……!
だがもういい、もうどうにでもなれ。だってこれは《夢》なんだ。夢なんだからさっさと覚めるべきなんだよ!!
そうして全てを諦めた俺は、鞄を枕に道路の上で大の字になって寝転んだ。
【……警告。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ。状態異常発生、状態異常発生】
目を閉じても視界には赤い文字が浮かぶ。
ああ、もう嫌だ。何もかもが嫌になってきた。
もういいや、考えるのは……やめた。
「タ、タクロー! しっかりして、こんな所で寝ちゃ駄目!!」
聞こえんな。
「タクロー、起きて! 私はちゃんと目の前にいますよ!!」
聞こえん、聞こえーん。
うーむ、中々覚めないなこの夢。いい加減にしつこいぞ。確かにこんなに可愛い幼馴染がいる設定の夢は魅力的だが、流石に我慢の限界だ。
さようなら、フリスさん。出来れば現実の世界で君と出会いたかったよ……
「……ッ!!」
ん? 何かね、この感触。俺の腹の上に何か柔らかいものが……ていうか重い。何だ、お腹の上に何か……?
「こ、これでも夢ですか?」
腹の上に感じる身に覚えのない感触と温もりが気になって俺は目を開けた。すると……
「これでも、私は現実ではありませんか……?」
フリスさんが俺の体の上で馬乗りになっていた。
「ヴェアアアアアアアア!!?」
【……警告、警告。コバヤシ・タクローのステータスに急激な変化アリ】
あまりに衝撃的な光景を前に俺は絶叫した!!
「これでも、私は夢ですか……?」
フリスさんは涙目になりながら顔を近づけて訴えかける!
彼女の真剣な眼差しと宝石のような瞳を濡らす雫に必死な表情。そして、たわわに実った大きな胸に俺の視線は釘付けになった。
(うわぁ、デカイ! 間近で見ると益々大きく見える! わはー……ってアホかぁぁぁー! 何処を見てるんだ俺ぇぇぇぇーっ!?))
【……警告、警告】
「こんなに近くで話しかけているのに……私は貴方の夢でしかないんですか……?」
夢だと思います!!
「な、なななんなななにしてるんですか!! フリスさんんんー!?」
「だ、だって……」
「あばばばば、ど、退いて、早く退いて!!」
「だって、貴方が変なことばかり言うから……」
フリスさんは潤んだ瞳で俺に訴えかける!
あわわわ、ヤバい! 心臓が、心臓が暴れまわっている! 俺の心臓がかつてないほどに猛り狂っている!!
「本当は、人前でこんなこと……恥ずかしくて出来ないのにっ!」
フリスさんは頬を染めながら自分の胸に手を当てる。
ふおおおっ!? 何をする気ですか、フリスさん!?
人前で俺にどんなことをしてくれ……じゃなくて何をするつもりですかァァ────!?
【警告、警告。コバヤシ・タクローのステータスに急激な変化アリ。状態異常発生、状態異常発生……】
精神状態:『要注意』→『><』……測定不能。判定不能。未知の精神状態。
状態異常:『錯乱』『混乱』『誘惑』『?』……表示制限に接触。判定保留。
【……状態異常発生、状態異常発生】
「ウェルカム・トゥ・ワンダーオオトリ」-終-
\KOBAYASHI/\Frith/




