表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/110

ハヤトと銀一

1年前 3月27日(日) 午前11時00分

アメリカ 元『団体』本部


「では、次に日本の『異星人共存エリア』である『星川町』の、【揉め事相談所】勤務者を発表する」

アメリカのどこかに、()()()()()設けられていた〝団体〟の本部。

団員のみが知る道順を通り、団員だけが持っているモノを鍵として、初めて入る事ができる秘密の施設。

そんな施設の、まるで学校の教室のような会議室にて現在、

アメリカ出身の〝団体〟のリーダーの口から、これから学業、もしくは仕事と両立しつつ勤める事になる、

【揉め事相談所】所長、副所長、所員の発表があった。


当時の白鳥銀一は、少し前に、主に舞台裏で活躍する『隠蔽組』をわざわざ辞め、

表舞台である『異星人共存エリア』で活躍する【揉め事相談所】所長に立候補した。

理由は2つ。1つは、『隠蔽組』は【揉め事相談所】に勤務できないからだ。

『隠蔽組』はあくまで、地球を、異星人が受け入れられる世界にするための情報操作が主な仕事。

主に1つの町限定で活動する所員には、絶対にできない仕事なのだ。


ちなみになぜ『隠蔽組』と呼ばれているかについてだが、

実は最初、このグループは『諜報組』と呼ばれていた。

しかし『セーブ・ド・アース』の登場により、何回か異星人に関する機密情報が漏洩。

その対処に様々な隠蔽手段を用いた事から、『隠蔽組』と後に呼ばれる事となった。

ちなみに情報を漏洩させた犯人は、銀一やケイティだという事は言うまでもない。

さらに言うと、情報を漏洩させた理由は2つあり、その1つは、団員達に銀一達を信頼させるためである。


そしてもう1つの理由は、所長と副所長は自分の判断で、武器を使用する事を許されているからだ。

後に『星川町テロ事件』を起こす身としては、武器の携帯は必要不可欠だ。

ちなみに副所長に立候補しなかった理由は、所長ならば、副所長や所員を利用しやすいと考えたため。

とにかく銀一は、後に『星川町テロ事件』を起こすには、

【揉め事相談所】所長に勤めた方が都合がいいと判断し、自ら【揉め事相談所】の所長に立候補した。


しかし、ここで銀一にとって予想外の事態が起こる。

「日本の【揉め事相談所】所長は……アメリカで多くの活躍をしてくれた……〝光ハヤト〟君!」

「!!!!!?」

銀一は驚いた。主に日本でいろいろ活躍し、成果を上げた自分ではなく、

主にアメリカで活躍した〝自分の知らない団員〟が所長に決定したのだから。

「ありがとうごz――――」


「――――ちょ……ちょぉ待ってぇな!!」

納得がいかない決定に、銀一はハヤトが話している途中にもかかわらず抗議した。

「なんでそないなどこの馬の骨とも分からんヤツを所長にするんや!?

どうせするなら日本で活躍してきたワイでしょうに!!」


銀一の意見はごもっともである。

ハヤトも、言われてみれば彼の言葉にも一理あるかもしれない、と思い始めた。

しかし〝団体〟のリーダーは顔色1つ変えず、銀一に言った。

「納得がいかないか……なら1度、彼と戦ってみるといい」


「「……………え?」」

〝団体〟のリーダーの返答の意味が理解できず、銀一とハヤトは

一瞬思考が停止した……が、すぐに〝ある事〟を思い出した。

あぁ、そういえば所長になる条件の1つに『町のために命を張れる者』ってのがあったっけ。

そう。『異星人共存エリア』は『セーブ・ド・アース』などの組織に、常に狙われ続ける町。

そんな町で所長を務めるには、どんな相手にも対応できるくらいの力量がないといけないのだ。



10分後

本部内 柔剣道場


銀一とハヤトの、初めての決闘の準備がようやく整った。

多くの団員達が見守る中、銀一とハヤトは、柔剣道場の床に描かれた、6m四方の赤いラインの中に入った。

ちなみに2人共、『スポーツチャンバラ』というスポーツで使う防具を身に付けた上、

銀一は『スポーツチャンバラ』で使う槍を片手に、

ハヤトは同スポーツで使う長剣2本を両手に、得物として持っている。


ちなみになぜその防具と得物なのかというと、銀一は長槍、ハヤトは日本刀を得物としているため。

本物を使うワケにもいかないし、竹製でもヘタをすれば重傷を負うので、

限りなく安全であり、武器を扱うスポーツであり、しかも自由に得物を選んでいい競技種目があるらしい

『スポーツチャンバラ』の防具と得物を使う事となったのだ。


「君がどんだけ実力を持ってるのか知らへんけど……この勝負だけは譲れへん」

槍を構えながら、銀一はハヤトに言った。

一方ハヤトは、銀一を強い眼差しで見つめつつ、

「それは俺も同じだ。選ばれたからには、絶対にその務めを果たす。

でなきゃ、俺は俺を選んでくれたリーダーの期待を裏切る事になる」

「……………ん?」

とその時だった。銀一はふと、ハヤトに対し正体不明の()()()()()()()


なんや? この感じ……アイツ……から? いやでも、アイツなんか変な事言ったか?

いくら考えても、その違和感の正体に気付けない。

「行くぞ」

言うと同時、ハヤトが両手に持った長剣を構えた。

銀一は、未だに違和感の正体が気になるものの、とりあえず槍を構えた。

一瞬で、静寂がその場を支配する。

赤いラインの周りに集まっている団員達が、いっせいに息を飲む。



と次の瞬間。



「にぃにぃ~~!! 頑張れぇ~~!!」

可愛らしい女の子の声援が、柔剣道場に響き渡った。

その空気の読めない声援に、思わずその場に居る全員がズッコケた。

「だ……誰やねん決闘の最中に……君の妹さんか?」

「……まぁ……な。義理の、だけど」

「……へぇ、義理なん?」


ちょっと気になったので、銀一は声のする方向を、ハヤトと同時に見た。

声がした方向には、長い、茶色がかった黒髪をツインテールにした可愛い女の子が立っていた。

……………へぇ……結構かわえぇやん? 胸も……大きくしがいがあるし……今度揉ませてもらお♪

ちなみに『胸は揉むと大きくなる』とかいう噂があるが、アレはウソである。

さらに言えば、揉んだ分だけ乳房を形成している脂肪が失われ、かえって小さくなります。


常識知らずかつスケベな銀一は、ハヤトの義妹がこの場に居て、さらには義兄のハヤトが、

日本の『異星人共存エリア』に所属する事が確定なので、彼女も同じ職場に勤務するのだと予測。

勤務中にハヤトの義妹に対しどういう風にチョッカイ(完璧セクハラ)を出そうか、

いろいろと考えながらハヤトの方を向き直り……突如前方から強烈な〝殺気〟を感じた。

「お前、なにイヤらしい目でハルカを見てる?」

ハヤトが、まるで感情がこもってない、絶対零度と称してもいい声で銀一に尋ねてくる。


同時に、銀一は悟った。

こ……コイツ、シスコンやな。義妹の危機を咄嗟に察知って……すごっ!

しかしシスコンだろうがなんだろうと、今は【揉め事相談所】所長の座を賭けた決闘中。

正直、ハヤトの殺気と絶対零度な声に圧倒されてはいるが、絶対に勝たねばならない。

銀一は、ハヤトに負けないくらい鋭い眼差しで、ハヤトを見つめ、再び槍を構えた。

ハヤトも、殺気を出しながらも、両手に持った2本の長剣を構え――――



――――互いに前へと踏み込み――――




現在

某家屋 屋根


「!!?」

――――再戦の中、約1年前と同じ展開が起きた。

ハヤトが一瞬にして、ギンの背後へと回り込んだのだ。

しかしギンは、ビックリはしたが慌てない。なぜなら前と同じ手ならば、これはフェイント。

自分の意識が背後へと向いた瞬間、すぐさま前方へと回り込み、一閃をくらわせるのだろうと。

読心術(リーディング)』でも、そんなハヤトの考えが見て取れたのだから間違いない。


前と同じ手で……勝てると思うなや!!!!

ギンはハヤトの気配を背後から感じつつ、前方にも注意を向けた。

実はギン、前回の戦いでは、ハヤトに背後に一瞬で回り込まれ、

自分の意識が一瞬背後に向いた直後に、ハヤトに前方に回られ、面を貰って負けたのだ。

なので、ギンがそんな風に警戒するのもムリはない。


しかし数瞬待っても、ハヤトは前方に戻らない。

なっ!? い……いったいどういう!?

いったいなにがどうなっているのか分からなくなり、一瞬混乱するギン。

その間。コンマ数秒の出来事の中で、ハヤトは瞬時に背後から、ギンに斬りかかった。

「!!!!」

背後から迫る凶刃の気配に気付き、慌てて防ごうと、視線と八千夜を己の背後へと移動させる。


だが、双月の刃と八千夜の柄の部分がぶつかろうとする、まさにその瞬間――――双月の刃が()()()

「!!!!!!!?」

ギンはすぐさま気配を追う。

右斜め前から、双月の凶刃が迫っていた。

は……速い!? さっきよりも……格段に!!?

先程八千夜で倒した時よりも、さらに速い。


八千夜のギミックを受けて立てるのも驚きだが、まさかここまでスピードを出せるとは思わなかった。

しかもそのスピードのせいで、相手の表情を視認できなくなり、相手が途中で考えを変えても気付かない。

いや……っちゅーかありえへん!! なんでアレを受けてまだここまで戦えるんや!!?

右斜め前から迫る凶刃を、咄嗟に後方へと移動する事で避け、

さらに十数歩後方に下がり、ギンは距離をとった。

()()()()()()()()()()()とはいえ、八千夜のアレを受けて無事なハズが無い!!

その言葉を証明するように……ギンは再び八千夜のギミックを発動させようとした。


だがその前に、ハヤトがギンとの間合いを()()()()()()()()

「!!!!!!!!?」

「お前の八千夜のギミック……確かロケットブースター付きの

長槍に変形する『破砕流槍シューティング・ランスター』と、『自動(オート)回帰機能(リターン)』。

そして『自動(オート)再生機能(リバース)』……だったよな?

後の2つはともかく……最初のは間合いさえ詰めれば撃てはしない!!」

「ちぃっ!!」


八千夜のギミックの1つを封じられ、2人に戦いは再び、刃の打ち合いへと移行した。

しかしギンは、いろいろ納得がいかない。

ハヤトの戦闘力が先程よりも格段に上がっている事についてもそうだ。

しかし、それ以上に……なぜまた戦うのだろう、と。

異星人同士が交流する事によって生まれる問題点を挙げ、

さらには行方不明のハルカが帰ってくる可能性を挙げたにもかかわらず。


「ハヤトおおおおぉぉぉぉおおおおおおおっっっっっ!!!!!!」

納得がいかない事柄が何個も起こり、ギンは怒りの形相をあらわにしながら叫んだ。

同時にギンは攻撃を中断した。ハヤトもそれに応じ、1度攻撃を止めた。

「なんでや!!? なんでお前はそうまでしてこの町を守る!!?

さっきも言うたやろ!!? 異星人同士が交流した先の未来は!!

お前やハルカちゃんが望むような未来やない事を!!

このテロの先に、ハルカちゃんが戻ってくる可能性がある事を!!」


「そんな未来……ハルカが望んでると、本気で思っているのか?」

「!? な……なに言うて……?」

だがハヤトはギンの質問には答えず、逆にギンに尋ね返す。

冷静な口調で。真剣な眼差しで。まるで相手の内側に、直接問いかけるように。

その瞬間。ギンの表情が固まり、言葉に詰まったのか、なにも言わなくなる。


やっぱり。

ギンの表情を見て、ハヤトは確信した。

ギンとは違い、ハヤトはあまり『読心術(リーディング)』が得意なワケではない。

だけどハヤトには分かった。自分と違い、ギンはハルカとたった1年程度の付き合いではあるが……

いや、それ故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「お前に気絶させられたおかげで、思い出す事ができたよ。ハルカがどんな夢を持っていたか」

さらに続けて、ハヤトはギンに言う。

「覚えてるか? 星川町での最初の仕事を終えて、

相談所で休んでた時、ハルカは俺達に夢について語ってくれたよな」

「……………黙れ」

ギンは、今にも消え入りそうな声で言った。

しかしハヤトは話すのを止めない。


今から言う事が、ギンの心を変えるキッカケになると、信じているから。

「その時ハルカは、こう言ったよな。『この宇宙に生きる全ての人達が手と手を取り合えたら、

この宇宙で起きる、どんなつらい事も、きっと乗り越えられると思う。

私は、そんな〝絆〟という繋がりによって生まれた、明るい世界を見てみたい』と」

「……………黙れや」


「確かに、これからも異星人同士が交流したら、世界の闇は増えるかもしれない。

だけど、世界にあるのは闇だけじゃない。闇に負けないくらい、光もある。

ハルカが望む世界に変わるには、まだまだ足りないだろうけど……

だけど、変わる可能性は……けっしてゼロじゃない!!

俺達やハルカのように!! そんな世界を望むヤツが居る限り、

いつかきっと……いや絶対、この世界は変わる事ができる!!」


「……………黙れって――――」

ギンが、言葉に怒気を含ませながら、再び八千夜を構え、

「――――言ってるやろがああああぁぁぁあああああぁぁぁぁあああああっっっっ!!!!!!!!!!!」

直後。ギンは力強く地面を蹴り、ハヤトに急接近をしてきた。

しかしハヤトは慌てない。怒りに任せて振るう刃は、自然と大振りになるため、

軌道を読みやすく、見切りさえすれば簡単に避ける事が出来るから。


さらには『ハヤトが再び自分の前へと立ちはだかった』事、

そして『ハヤトの戦闘力が上がった』という想定外の事態を前に、ギンは徐々に冷静さを欠き、

アメリカでの特訓で鍛えた『動体視力』と、透明化したジョンの居場所を

すぐに見抜けるレヴェルまで鋭くなった『観察眼』を思うように使いこなせなくなっていき、

それに伴ない、ギンの戦闘力が、なぜか上がったハヤトとは反対に下がったためだ。


ギンの攻撃を避けながら、大振りの攻撃をするがために生まれる隙を狙い、ハヤトは双月にて突きを放つ。

ギンは慌てて八千夜の柄の部分で防ごうとするが、柄は刃とすれ違い、ギンに浅く刃が突き刺さる。

「ぐぅっ! こっのおおおお!!!!!」

ギンはすぐに後方に下がり、槍のリーチを利用しての攻撃をしようとするが、それに合わせてハヤトも移動。

さらには移動速度を、徐々に徐々に上げていき、ついには

〝ジェイドとの戦闘で見せた超スピード〟を上回る超スピードでギンを翻弄する。


「くそっ!!!! くそおおおおぉぉぉおおおおぉぉぉおおおおっっっっっ!!!!!!」

自分の『観察眼』。そして『動体視力』を()()()()()()()

超スピードを前に、なす術も無く追い詰められていくギン。

そしてハヤトは、ギンの意識が後方へと向かった状態のまま、

一瞬で前方に回り込みつつ、自分の覚悟を――――



「〝ギン〟。お前や、お前の仲間のやっている事は単なる〝逃げ〟だ。

確かにソレも1つの選択かもしれない。だけど……俺は……

逃げるよりも、前に進む事を選ぶ。仲間や……この町、

そして他の『異星人共存エリア』の町の皆と一緒に!!」



――――告げた。



そしてその直後。ハヤトは一瞬にしてギンの後方へと移動する。

ただ単に回り込んだのではない。

その証拠に、八千夜の柄が真っ二つに裂け、

さらにはギンの胸に、少し斜め気味の十字の切れ目が入り――――



「『(そう)(じん)(しゅん)(こう)(ざん)』」



――――ハヤトが、()()()()()()()()()()()()()技名を告げると同時に――――




――――ギンの胸から、鮮血が噴き出た。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ