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ハヤトの過去2

1年前 6月21日(月) 午後13時56分

星川町揉め事相談所 自宅スペース


「ほら早くしろ。予定の便に遅れるぞ?」

()()姿()()ハヤトは、自宅のとある部屋のドアの前に立ち、中に居る者に声をかけた。

チラチラと、時折、左腕にはめた腕時計の針を気にしながら。

すると中から、どちらかといえば柔らかめの、女の子の声が聞こえてきた。

「もぉっ! ちょっと待ってよ! 女の子は〝準備〟に忙しい生き物なんですーー!」

「……まったく……〝髪の手入れ〟くらい機内でやればいいじゃないか」


ハヤトは相手に聞こえないよう声を潜め、そう呟くと、1拍置いて溜め息を吐いた。

それだけ、今日は絶対に遅れてはいけない用事があった。

そう。今日は〝自分達〟が、今の生活を送るキッカケとなった、あの――――

「お待たせ!」

いきなりドアが開いた。

危うく相手が開けたドアにぶつかりそうになり、ハヤトは慌てて後ずさる。


そしてそのドアの陰から姿を見せたのは、

薄く茶色がかった黒い長髪をツインテールにまとめ、ハヤトと同じく()()()()()少女。

ハヤトの家族と、少女の家族を奪ったあの忌まわしい航空機事故以来、

ハヤトの〝義妹〟として、ハヤトと共に生活している少女だ。

名前は〝ハルカ〟といった。ちなみに真名ではない。


彼女は目覚めた時、自分の名前も、出身地も、家族の事さえ覚えていなかった。

どうやら事故のせいで記憶喪失になってしまったようなのだ。

故に他の親戚を捜す手がかりが無く、親戚を名乗る者が出てくるまで、

ハヤトと、2人を助けた2人の養父である光進也と、3人で生活する事になった。

ちなみに、その養父がまだ出てきていない事についてだが――――

「よし、じゃあ行くかハルカ。いつも通りに()()()()()()()()()()()()


そして2人が向かったのは、自宅スペースのとある畳部屋。

しかしそこには進也は居なかった。いや、正確には進也の〝遺影〟があった。

「じゃあ進也さん。行ってきます」

「行ってきます。養父(おとう)さん」

光進也は、自分達を助け、数週間共に生活した後、とある任務に出て、命を落とした。


共に任務に出ていた団員は、この家に来た途端、自分達に何回も何回も謝ってきた。

その団員の様が、皮肉にもディーテ夫妻とかぶった為、その時の事は今でも鮮明に覚えている。

そして、その団員はせめてもの罪滅ぼしに、自分達を養子にしたいと言ってきた。

だけどハヤトは即断った。

自分は養父の事を、本当の親の事を忘れたくないから、敢えて『進也さん』と呼んでいるが、

それでも自分と、ハルカの父である事には、変わりないのだから。


「じゃあ行こうか」

「……うん」

そして2人は外に出て、駐船場である町立星川中学校の運動場へと向かった。

せめて……今在る愛する家族だけは失わないよう願い……想い……

強く……強く……互いの手を握り締め合いながら。



しかしその数分後。



2人のその儚い願いは、想いは、いきなり断ち切られた。



黒いフードで顔を覆った、謎の人物によって。






現在 午後21時42分


「…………………………夢?」

肝心な所で目が覚め、目の前に広がる知らない天井をボンヤリと眺めながら、ハヤトは呟いた。

そして同時に、思う。

昔の事を夢で振り返るのは、ハルカが何者かに連れ去られて以来だな……と。

血は繋がってはいないものの、本当の家族のように一緒に生活してきたハルカを失って以来、

ハヤトは夢で過去を振り返る事ができなくなっていた。


それは、彼女になにかがあっても、自分が必ず護ると、自分自身に誓ったにもかかわらず、

自分自身の中にあった油断、不注意により護れなかったが故に。

つらい事を、できる事ならば2度と思い出したくないと、心の底で思っていた故に。

()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


でもなんで今さら、昔の夢なんか……なにか意味があるのか?

もし、人が死ぬ直前に見るという走馬灯ならば、ここは死後の国であるハズ。

しかし、今自分は生きている実感がある。なら……あの夢は……。

「……ハルカ。まさかお前が俺に見せてくれた? 『もう逃げるな』って?」

科学が発達し、ほとんどの怪奇現象が科学的に解明されるようになったご時勢にもかかわらず、

ふとそんなバカらしい事を、なぜか考えてしまった。


自分でもバカらしいと、ハヤトは思う。

でも同時に、そうだといいなと、思ってしまう自分も居る事を、ハヤトは無意識的にだが、感じていた。

なぜなら過去の夢を見たおかげで、昔、ハルカが自分に話してくれた〝これからの夢〟を、

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その理由を思い出す事ができたのだから。


「……ってあれ? ここどこだ?」

そこまで考えた時、ハヤトはようやく、最初に疑問に思うべき事を思い出す。

と同時に、なにやら自分の上半身が、なにかにきつく締め付けられているような感覚を覚えた。

なんだと思い、ゆっくりと視線を首から下へと向ける。



自分の上半身が、包帯でグルグル巻きにされていた。



「!!?」

驚きのあまり、ハヤトは目を見開いた。

目が覚めたら自分がミイラっぽくなっていたのだから、ムリもない。

だがすぐに、意識が途切れる寸前までの記憶が一気に頭の中で甦り、ハヤトは少し納得した。

……そうか。俺、ギンを説得する事ができなかったんだ。


ギンの説得に失敗し、逆にハルカの事を引き合いに出され、動揺し、

その隙を突かれ、ギンの必殺技『破砕流槍シューティング・ランスター』をくらい――――

「……でも……俺は誰に治療されたんだ?」

マトモにくらってはいないものの、すぐに治療しなければいけない程の重症を負ったハズ。

その上、自分はその場に1人だった。治療してくれる人は居なかったハズだが……。


「ふぅ……よかった! 生きてた~~……」

なぜ自分が今の状態なのか。

それを考えてる途中、突然視界の右側に、見知らぬ男の顔がヌッと出てきた。

「……………誰ですか?」

一瞬ドキッとしたが、すぐに敵かもしれないと思い、上半身を起こしながら、身構えるハヤト。

すると男は慌てて、ハヤトに自己紹介をした。


「あっ……ごめん! 自己紹介を忘れてたね。俺の名前は中津秀平。亜貴先輩の前の職場での部下です」

「……………亜貴さんの?」

ランスとエイミーを救助した後の事情聴取で、ハヤトは亜貴から、簡単に前職について聞いていた。

世界規模の探偵組織の構成員であったと。

しかし、まさか部下が居るくらい偉い階級であったとは、知らなかった。


「その人に感謝しなさいね。君を助けて手当てを施したのはその人なんだから」

「!!?」

今度は背後から、なにやらくぐもった感じの、聞いた事が無い声が聞こえてきた。

誰だ、と思いハヤトはバッと振り向いた。

するとそこには、

「レイア博士……ですよね?」

『化学防護服』という、毒ガスやウィルスの付着、吸引を防ぐための

服装を装着している、レイア=ホドウィック博士が居た。


「久しぶり。なんだか物騒な事態に直面してるわね」

「ど……どうしてここに? あとなんで化学防護服?」

「どうしてって……化学防護服に関しては、この町に変なウィルスがばら撒かれてるっぽいから」

……ああ。そういえばそんな事態だったな。

目覚めたばかりの頭を強引に回転させながら、ハヤトは現状を少しずつ思い出し、

「あれ?」

1つ、気になる疑問に行き着いた。


「どうして俺、生きてるんだ? ギンのギミックをくらったハズなのに……」

「ああ、それなら」

秀平がハヤトに説明する。

「あの音速の攻撃が放たれた時、君は運良く音速によって発生した衝撃波()()()受けて、

さらに運良く、君は君達が居た家屋の庭に生えていた大木にぶつかって、

そのまま大木の枝が君の落下の勢いを殺してくれたから、

その時僕が君を受け止めて、なんとか助かったんだよ」


「そ……そうだったんですか。ありがとうございます」

ハヤトは正直に、頭を下げて礼を言った。

「いや。僕だけのおかげじゃないよ」

「えっ? まさかレイア博士も?」

「私はなにもしてないわ」

レイア博士は首を横に振った。だけどすぐに、真剣な眼差しで、

「だけど、〝私をこの町に入れてくれた女の子〟が……今この瞬間も、

銀一君の相手をしてくれているおかげで、今私達は、私達が見つけたこの場所まで逃げ切れたの」



同時刻

ハヤトとギンが戦っていた家 敷地内


「……いい加減やめてくれ。死んだら元も子も無いやろが?」

「嫌や。アンタが投降しない限り、ウチは死ぬ覚悟や」

ギンは家の屋根の上から、家の庭に居る1人の少女を見つめていた。

化学防護服も着ずに、自分の喉下に持参のナイフを突きつけている、

かつて〝相棒〟であった1人の少女……リュン=リリック=シェパードを。

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