星川町電脳戦
午後20時
星川公民館付近 道路
ま……まままままさかこんな所で織部京子さんに出会えるなんて……。
テロリストの1人、桑谷浩太の心は舞い上がっていた。
自分が知っている有名人がすぐそばに居る事に。
そしてその有名人の運命が、自分達の手中にある事に。
こ……こここここの際だ!! 前々から京子さんに会ったらやってみたかった事を!! 今こそ!!
おかげで浩太の理性は、ほとんど吹っ飛んでいた。
浩太が、自分の右側を歩いている京子に右手を伸ばし……肩に手を回そうとした。
だがその瞬間、
「ガウ!」
盲導犬のコロナが牙を剥き出しにし、浩太のお尻に噛み付いた。
「……………い……いってえええええぇぇぇぇぇえええええええっっっっっ!!!!!!!!!!!」
「「!!!?」」
京子と、もう1人のテロリスト・池上哲が、ギョッとして浩太を見た。
そしてコロナが浩太のお尻に噛み付いているという、
コメディアニメの1シーンのような様子を見て、哲は思わず噴き出した。
「ご……ごめんなさい……」
目が見えなくても、なんとなく状況を察した京子は、おそるおそるテロリスト達に言った。
「コロナには、私に変な事をする人には噛み付くよう躾けたので」
「……なぁにぃ~~?」
哲が、京子の言葉を聞いた瞬間、コロナに未だ噛み付かれている浩太を睨み付けた。
そしてそんな浩太の胸ぐらをすぐに掴み、ガクンガクンと前後に揺する。
「テメェなに羨まし……じゃなくて失礼な事を!!」
「い……痛い痛い苦しいヤメテ!!」
そして京子は、2人のテロリストの、コメディ映画などの1シーンらしき
やり取りを聞きながら、ずっと自分の息子の事を心配していた。
信じてはみたけど、いったいあの子……なにをするつもりなのかしら?
同時刻
『塔』の外
「え~~っと、確かこの辺に……あるハズ……」
カルマは時折周りを警戒しながら、【Searcher】にカギを閉められた事によって、
入る事ができなくなった『塔』の周りを歩き、『塔』に設置されているらしい〝あるモノ〟を探していた。
いつどこから、自分か、異能力者らしい謎の逃亡者を捜すテロリストが現れるか分からないからだ。
敵が居ない、この瞬間しかなかった。『アレ』を見つけられるのは。
そして、〝星川町のいろいろなモノを制御しているこの『塔』〟を取り返すチャンスは。
「……………あった!」
探し始めて十数秒後。ようやくカルマは目的のモノを見つけた。
それは、透明な立方体のガラスのカバーによって守られた、〝パソコンのコードを繋ぐ差込口〟だった。
「待ってろハヤト、今この『塔』を取り返すからな!」
この町が謎の集団によって隔絶される少し前、ハヤトから『今すぐ戻る』とメールでの連絡があった。
だからカルマは、ハヤトがすぐそこまで来ていると信じ、
〝小型ノートパソコン〟を懐から取り出し、コードで『塔』とを繋いだ。
「さぁ、久しぶりの出番だぜ? 早く起きろ『ミコガミ』!」
同時刻
『塔』 2階
「ん? システムに侵入者?」
【Searcher】の小型ノートパソコンの液晶画面に、【警告 侵入者アリ】という表示が浮かんだ。
これは今現在、『塔』の外側から何者かが、『塔』のシステムにハッキング行為をしている事を示している。
「ふぅん……町の見廻り班の包囲網を抜けて、この『塔』に侵入できるヤツが居たんだ……ふぅん……」
【Searcher】は、この町に侵入する前に町の外で買っておいた飴玉を口の中で転がしながら、
興味が無いと言いたげな退屈そうな目をして、そう呟いた。
どのような方法でこの『塔』まで近付いて、
どのような方法でこの『塔』のシステムにアクセスしたかは知らないけど、
どうせ私が新たに『塔』のシステム内に構築した
ファイアーウォールやコンピュータウィルスの排除プログラムその他諸々によって、
すぐに侵入が阻まれるどころか、侵入してる間に知らずに感染する私特製のコンピュータウィルスによって、
パソコンを2度と使えないようにされるに決まってる。
――――そう、思っていた。
「!!? な……なに!!?」
すぐに【Searcher】の表情が驚きに染まる、とんでもない事が起きた。
なんとシステム内に侵入してきた何者かが、
【Searcher】が作ったファイアーウォールをあっさり破壊し、
さらにはコンピュータウィルス排除プログラムを難無く消去。
おまけに相手のパソコンはコンピュータウィルスに感染していないのか、侵入の勢いが止まる気配が無い。
「……………面白い……じゃないですか」
【Searcher】が画面を見つめながら、不適に嗤う。
今までどんな場所のシステムも簡単に攻略してきた、天才的なハッキングスキルを持つ彼女にとって、
侵入してきた敵(=カルマ)は、久しぶりに出会えた競争相手であり、遊び相手。
「久しぶりに……ハジケちゃっても……いいよね?」
今まで彼女は本気ではなかった。しかし今、彼女は自身の、理性という名のリミッターを取り外す。
もう遠慮はしない!! 久しぶりの遊び相手なんだ!!
っていうかもう……このワクワク、抑えられないよ。だからさ……責任取ってよね?
『塔』 電脳世界
『塔』のシステムに『コンピュータウィルス』だと判定された1人の少女が、
『塔』のシステム内を、ただひたすら走り回っていた。
見た目は12歳くらい。華奢な身体に巫女装束を纏い、黒い長髪を生やした、
いかにも巫女だと誰もが言いそうな顔つきの美少女だった。
しかしそんな容姿に似合わず、先程も言った通り華奢な体型であるにもかかわらず、
自身の背丈の2倍もの大きさがある大剣を右手だけで持ち運ぶという怪力ぶり……というか、
電脳世界のデータに過ぎないのだから、なんでもありなのであるが、
それでも少女は、ハタから見れば凄いギャップの少女であった。
そんな少女の前に、突然鉛色の高い壁と、銀色の甲冑を身に纏った5体の兵士が出現する。
現実世界では、ファイアーウォールとウィルス排除プログラムと呼ばれるモノだ。
おそらく【Searcher】が新たに作った、少女をこれ以上進ませない為のプログラムだろう。
「主様、前方にウィルス排除プログラムとファイアーウォールが出現しました」
しかし少女は、慌てる事無く、透き通るような声でそう報告する。
擬似人格プログラムである、自分こと『ミコガミ』の創造主である、不動カルマに。
『構わない。遠慮なくやれ』
キーボードを通じ、カルマは現実世界から『ミコガミ』に、そう命令した。
すると『ミコガミ』はいったん立ち止まると、正面を見据え、
さっきと変わらない、透き通るような声で、こう返答した。
「承知しました。我が主様」
返答と同時、『ミコガミ』はその場から一瞬にして消えた。
ウィルス排除プログラムである甲冑兵士達は、ただちに周囲を見渡し、索敵する。
だが、ようやく『ミコガミ』を見つけ出した時には、すでに遅かった。
『ミコガミ』を最初に見つけ出した甲冑兵士は、上半身と下半身を分けるように、
『ミコガミ』が右手に持つ大剣によって横に真っ二つにされた。
瞬時にその甲冑兵士は、電脳世界からデリートする。
甲冑兵士の1体がデリートした瞬間、他の甲冑兵士も『ミコガミ』の姿をその目で捉えたが、
捉えた順に『ミコガミ』によってデリートさせられた。
そして『ミコガミ』は、今この場に居る全ての排除プログラムをデリートさせると、
今度はファイアーウォールの方へと視線を向け、大剣を両手で持ち、上段の構えをとると、
ファイアーウォールに向かって走り出し、ファイアーウォールを縦に真っ二つに、豪快に斬り裂いた。




