多貴子の正体
7月12日(火) 午前11時21分
惑星アーシュリー
ハルカの情報を求め、ハヤトは異星に居る男友達の家を訪れた。
ちなみにその男友達の名前は、ナチル=ローヤンといった。
しかし、玄関でインターホンを押してもその男友達のナチルが出てこなかったので、
ハヤトはとても心配になり、悪いと思いつつ、黙って玄関を開けて、家の中に入った。
そして、その家のリビングへと歩みを進めた時、ナチルが手足を縄で拘束され、
さらには口に猿ぐつわをはめられ、衰弱しているのを見た。
「おいっ! 大丈夫か!?」
ハヤトは慌ててナチルのもとへと駆け寄り、縄と猿ぐつわを取った。
くそっ! いったい俺が来るまでになにがあった!?
そう思いながら、ハヤトはナチルに声をかけ続けた。
するとナチルはハヤトの声に気付き、声のする方へと、焦点が合っていない両目を向けた。
「は……ハヤ……ト?」
「ああ、俺だ! いったいなにがあった!?」
ハヤトが、声を張り上げてナチルに尋ねる。
するとナチルは、途切れ途切れに、言葉を紡いだ。
「……誰かが……僕の家に……入って来て……僕を……縛った後……
変声……機を……使って……僕のこ……えをマネて……君に電話を……かけ……たんだ」
「な……なんだ……って?」
同時刻
某惑星 某宇宙空港
……ウチは……これでええんやろか?
〝ある惑星〟へと戻る途中の宇宙空港のロビーで、リュンは迷っていた。
このまま〝あの惑星〟に戻って、いいモノかと。
リュンはあの後クラスの皆に、盛大に町立星川中学校の運動場から送り出してもらった。
自分の、最も大切な人であるギンとの思い出もできた。
これで、心残りは無い〝ハズ〟だった。だけど……だけど……。
「いやや……ウチは……まだギンに……」
「心残りがあるなら、すぐに引き返しなさい」
突然リュンの後方から、何者かが声をかけた。
それは、リュンが知っている人の声だった。
リュンは慌てて後ろを振り向いた。
すると案の定、そこには〝あの人〟が居た。
「あ……あなたは……なんでや?」
「どうしたの? 心残りがあるのでしょう? それとも、今のままでコチラに戻りたいのかしらん?」
「!!? い……いえ……おおきに!」
リュンは目の前に居る相手に、感謝を込めて一礼をすると、
すぐにジ=アースこと、地球へと向かう旅客宇宙船のチケットを買いに行った。
そしてリュンに声をかけた人は、1回だけ溜め息をつくと、
「……『なんでや?』……ですって? そんなの、決まっているでしょう?」
リュンの背中を見守りつつ、その人は言った。
「私に恋する乙女の気持ちが分からないと思っていたのかしらん?
どうせもう2度と逢えないのだから、永遠の別れの前に、
ちゃんと本当の想いを告げるべきだと思った。それだけですわ」
7月14日(木) 午後17時16分
星川総合病院
「ん? なんだこれは?」
多貴子達の血液を検査している医師が、多貴子達の血液の
検査結果の記載された用紙を見つめ、眉をひそめた。
「これは……まさか多貴子さん達は……」
信じられない、結果だった。でも、検査機器の誤作動なワケが無い。
検査機器は作動させる前に、ちゃんと点検をしている。
だけど、この結果が検査機器の誤作動でなければ……多貴子さん達は……。
同時刻
某病院 廊下
「多貴子の……正体? お前いったいなに言って!?」
突然現れた親友。鮮明によみがえってきた曖昧な記憶。そして〝多貴子の正体〟。
いろんな事が起こりすぎて、亜貴の頭の中はグチャグチャになりかけていた。
いったい……なにがどうなって……?
「アハハッ! 君はなにも知らないんだねぇ? あの子の幼馴染だっていうのに。
僕はね、実は君にあの子の存在を知らされる前からあの子の正体を知ってたんだよ?
あぁそうそう。一応言っとくけど、あの子自身は自分の正体を知らなかったよ?」
困惑する亜貴をよそに、ハルヒトは得意気に告げる。
「あの子はね、大昔に地球へとやって来た異星人と、当時の地球人との間にできた子供の末裔なんだよ」
「……な……んだっ……て?」
驚愕のあまり、亜貴の頭の中が真っ白になった。
自分の妻が、そして娘達が異星人の血を引いていたのだ。驚くなという方がムリである。
な……なんて事だ。まさか多貴子さんが?
亜貴同様、和夫も多貴子達の正体を知り、驚愕した。
えっ……異星人? いったいあの人、なに言って?
どういう状況なのか分析しきれていない麻耶は、亜貴と和夫以上に混乱した。
「アハハッ! 驚いているようだねぇ? あぁそうそう。
もう1つ伝えなきゃいけない事があったんだった♪」
ハルヒトが、まるで面白いゲームをしているかのように、陽気な声で告げた。
「今君が住んでいる町、近い内に〝テロ〟が起きるよ?」
「な……星川町に!? なんで、なんでお前が知っているんだ!?」
多貴子の件とはまた違う、別の衝撃の情報を知らされ、和夫は慌ててハルヒトに尋ねた。
するとハルヒトは、少し怪訝な顔をしながら、和夫に返答をした。
「ん? もしかして君はあの町の関係者?
なら亜貴君と一緒に早く町に戻ったらどうだい?
急がないと、全てが台無しになるよ?」
「!!? いったいどういう事だ!!? っていうか、なんで君がそれを!!?」
「あぁもう、なんで〝君みたいな劣等種〟に詳しく教えなきゃいけない!?」
和夫はハルヒトに、2度目の質問をした。
だがさっきとは打って変わり、突然ハルヒトは声を荒らげた。
ハルヒトの豹変ぶりに、和夫と麻耶は唖然とする。
「まったく。それくらい自分の目で確かめたらどうだい?」
必死に冷静を保とうとしながら、ハルヒトは話を続けた。
「あと、君達に知らせたのは、そのテロが僕達のこれからの
〝計画〟を阻害する事件に発展する可能性があるからだ。
はい教えたよ? あっち行っても分からない事は。だからもう亜貴君以外僕に質問しないでね?」
ハルヒトは言いたい事を全てまくし立てると、倒れている翔也を背負い、そのまま亜貴達に背中を向けた。
「逃がすと思うのかい!?」
和夫がハルヒトの方へと駆け出す。
だがその瞬間、ハルヒトは呟いた。
「フラッシュ・カーテン」
次の瞬間、その場が強烈な光に包まれた。
「な!?」
「なにっ!?」
「ぐぅっ!?」
和夫、麻耶、亜貴は慌てて目を閉じた。
しかしその光は、すぐに消えた。
と同時に、目の前からハルヒトと翔也の姿も消えていた。
同時刻
星川町を囲む森の中
「ええか? ワイが電話で合図するまで、ここで待っててな〝同志達〟」
ギンは〝ある集団〟の前方に立ち、その集団に指示を出していた。
〝同志達〟と呼ばれた者達は、ギンの指示に黙って頷いた。
そしてギンは、同志達に背を向け、ここに来るまでに通った道へと進んで行った。
……………これで……ええんや。
歩きながら、ギンは思った。
もしこのまま地球人が異星人と共存を続ければ、さらなる悲しみを呼ぶ。
星川町のような『異星人共存エリア』があるせいで……ハヤトはハルカちゃんを失った。
かなえちゃんは……この星に異星人が来るようになったばっかりに……。
リュンは……昔来た異星人の忘れモンのせいで、左腕を失った。
そして……ワイも……。
ホンマは、こんな事しとうない。もしすれば、星川町を含む全ての『異星人共存エリア』は永遠に……。
「今さら悩んでどないすんねん白鳥銀一。もう、決めた事やないか」
ギンは、自分自身を叱りつけた。
もう、後戻りするっちゅう道は無いやろ?
それに全ては、この星に住む全ての人達の……
果てはこの宇宙に住む全ての人達の為や。
なにを迷う必要があんねん?
そう思いながらギンは、星川町へと再び足を踏み入れた。
「さぁ、革命を……始めようやないか」




