表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/110

今へと至る

約1ヶ月前



【探偵結社『ミネルヴァ』】

終戦と同時に誕生した探偵結社。

世界中のありとあらゆる情報を掌握し、

それを駆使して世界中で起こる

様々な事件を解決に導く、世界規模の組織の1つ。



そんな組織が、なんの前触れも無くいきなり倒産した。

原因は分からない。

敵対組織の策略だ、などと結社内で噂されたが、結局、原因は究明できなかった。

そして、倒産してから数日が経ったある日。


「「あっ」」

秀平と麻耶は、偶然街中で再会した。

2人とも、手に求人情報誌を収めている。

「……お前もか」

「……あんたもか」

2人はその場で、同時に深い溜め息をついた。



2人は近くの喫茶店の中に入り、それぞれ自分の近況を報告し合った。

職業病と呼ばれるヤツだろうか?

とにかく、自分にとっては不利益にはならない情報の報告を、2人は無意識に(おこな)っていた。

「ふぅん。あんたが電気屋にねぇ」

「ああ。だけどどこもダメだったよ。これも景気が悪いせいだ」


「あんたの顔で落とされたんじゃない?」

「んだとコラ? っていうかそういうお前はどうなんだよ?

散り散りになる前『前に任務で勤めた喫茶店にでも行ってみるよ』とか言ってたけど?」

「……門前払いされた」

「……うそ?」


「もう〝あの時〟のような乱闘は勘弁だって」

「……乱闘……あぁ、そういえばそんな事あったな」

乱闘。喫茶店側からそんな物騒な言葉が出るような出来事を、秀平は知っている。

いや、というか見ていた。

それは、亜貴が秀平と麻耶を部下にしてからの、初の任務の時。


その任務の内容は、某麻薬組織の麻薬の取引の証拠を掴む、というもの。

秀平のハッキングで、その麻薬組織が〝ある場所〟で麻薬の取り引きをするという情報を掴み、

そして麻耶に、いろんな意味で頑張ってもらった……そんな任務だった。

そして〝ある場所〟とは、警察も、絶対にそのような公共の場所で麻薬の取り引きなどしないだろう、

と思ってしまう場所――――秋葉原のメイド喫茶だった。



数年前


麻耶は、そこのアルバイトとして潜り込み、組織の構成員が現れるのを待った。

そして秀平と亜貴も、麻耶のサポートをするべく、客として張り込んだ。

3人共、他の客達のワケの分からないトークに悩まされたが、なんとか任務を続行した。

ちなみに秀平は、ソッチ方面ではなく、機械関係にしか興味が無かった。



数日後


ようやく某麻薬組織の構成員達と、その取り引き相手の組織の構成員達が入ってきた。

みんな全身黒ずくめで、なかには顔に生々しい傷跡がある者も居る。

しかし構成員達に近寄ったメイドな店員は、構成員達を

コスプレイヤーだと思ったのか、ニコニコ笑顔で構成員達を席へと誘導した。


その後、構成員達はなんらかの注文をしたようで、

構成員達が注文した飲み物を、しばらくしてから麻耶が持ってきた。

麻耶が着ているメイド服に仕込まれている、秀平特製の超小型カメラで、証拠を撮るためだ。

秀平は最初、これでこの任務は終わりなんだと、安堵しながら思った。

けれどその時、麻薬組織の構成員の1人がとんでもない事をしてしまった。



なんとその1人が、飲み物を運んできた()()()()()()()()()()()



ここをキャバクラかなにかだと勘違いしているのだろうか?

メイド喫茶ではあるまじき行為が、ごく自然に(おこな)われた。

麻薬組織の構成員達がいやらしく嗤っている。

亜貴が立った。もう見ちゃいられなかったのだろう。

秀平も立った。任務に違反してでもここで行動を起こさないと、

自分は亜貴や麻耶の仲間だって、堂々と言えないだろうから。


しかし次の瞬間、秀平と亜貴は目を丸くした。

麻耶のもとへと向かおうとした次の瞬間、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

という、トンデモない事をしたのだ。


「メイドを……ナメんなや!」

麻耶は赤面しながら、いつの間にか麻薬組織構成員及び取引相手を全員戦闘不能にしていた。

その光景に、他のメイドさんやお客さんが、唖然とする。

するとそこで、ようやく麻耶は自分がなにをしたのかを自覚したのか、

「……も……申し訳ありませんご主人様」

もはや『後の祭り』。そして作戦は失敗である。



だがその後、2つの奇跡が起こった。



1つ目は、なんと伸びた麻薬組織の構成員の1人のポケットから

『大麻』と思わしき白い粉が入った透明な袋が出てきた事。

最初、全員が目を疑った。まさか乱闘が任務達成に繋がるとは、誰も思うまい。

そしてもう1つは、麻耶の乱闘ぶりがお客さんにバカウケし、

なんとサブカルチャー業界に【戦うメイドさん】というカテゴリーが新たに生まれた事。

正直、後者はどうでもいい。



とにかくそんな事があったので、麻耶が門前払いされても仕方がない。




数年後

普通の喫茶店


「あ~~もうっ! この世には私達が就職できる職場は無いのかしら!?」

自分が頼み、ウェイトレスが運んで来たメロンソーダを一気飲みする麻耶。

秀平はそんな麻耶を見ながら、どう返答したものかと考えた。

今の世の中、転職は難しい。景気が悪過ぎるせいだ。

そんな世の中、秀平達がなんらかの職場に就く方法は無いに等しい……のだが、



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



その事に、ふと気付いた。

なぜすぐに気付かなかったのか、とも秀平は思ったが、

すぐに麻耶に話さねばと思い直し、とりあえず秀平は麻耶に話しかけた。

「……なぁ麻耶」

「なにっ!!?」


麻耶が、イライラしながら秀平に尋ねる。

ヘタな事を言うと殴られるかもしれないな。

そんな事を一瞬、秀平は思ったりしたが、言うしか道は無い。

「無いならさ、作らないか?」

「なにを!?」

「俺達のような人が勤めても大丈夫な職場……〝探偵事務所〟とかさ」



半月後


秀平と麻耶は小さい探偵事務所を開設した。

ちなみに仕事は……やはりと言うべきか、最初はほとんど来なかった。

来るとしてもペットや家出人の捜索くらいなものだ。

なので開設してからの数日間、秀平達は内職などをして食い繋いだ。

ちなみに、その探偵事務所に『所長』は居ない。

自分達の上司は、いつどんな時でも亜貴なのだから。

故に、亜貴を見つけ出すその日までは、探偵事務所の所長の椅子に、誰かが座る事は無かった。



現在


「よし、やるぞ秀平」

今居る町の病院の玄関前。亜貴は秀平の右肩と右腕の関節を両手で掴み、真剣な目つきをして言った。

それに対して秀平は、冷や汗をかき、険しい顔をしながら答えた。

「は……はいっ!」

……………ああ。久しぶりだな、この作戦。

そう思いながら、秀平はギュッと目をつぶる。

すると次の瞬間、秀平の右肩と右腕の関節から、

なにやら嫌な音がしたと同時に、悲鳴を上げたくなる程の激痛が走った。



右肩と右腕の関節が()()()のだ。



「ふぅ。相変わらず外しやすい関節してるな、秀平」

亜貴は、秀平と同じくらい冷や汗をかきながら言った。

「それ、褒めてるんですか?」

秀平は半泣きになりながら、亜貴をジト目で見つめた。

すると、その様子を唖然として見ていた和夫が、2人に尋ねた。

「……なにやってんの?」


だがその質問には、麻耶が答えた。

「『トロイアの木馬』って、知ってます?」

「『トロイアの木馬』? もちろん知ってるよ。

ギリシア神話に登場する都市『トロイア』を陥落させる決め手となった……まさか?」

「そのまさかです」

麻耶は和夫に向かって、ニッと笑ってみせた。


そして次の瞬間、亜貴と麻耶は右肩と右腕の関節が外れた秀平を抱え、病院へと向かった。

和夫は慌てて、3人を追った。

なるほど。そういう事か。

和夫は、今から亜貴達がなにをしようとしているのか、すぐに悟った。



()()()秀平君を入院させて、病室から秀平君に招き入れてもらう作戦か!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ