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強さを求めし者

午前7時56分

日本 星川町


「はぁっ!? なんですって!?」

登校中。携帯電話を片手に、かなえは電話の相手であるハヤトの『ちょっと誘拐犯を追うから学校休むわ』

という台詞に対し、ワケが分かんないとでも言いたげに眉をひそめ、声を張り上げた。

「こっちはカルマ君が今朝、何者かに連れ去られるわ、()()()()()()()()()()――――」

だが、今はそんな事を言っている場合じゃないとでも言いたげに、今度はハヤトが声を張り上げ、

『カルマは今こっちに居る!! でもってカルマを拉致した犯人をこれから追うって言ってんだ!!』


「あっ! そうなの……っていうか最初にそう言いなさいよ!!」

『いや。だから最初からそう言ってるだろ?』

「いや言ってないし……って、アンタ今日中に帰ってこれないの!?」

かなえは、急になにを思い出したのか、慌てた様子でハヤトに尋ねた。

『?? そうなるけど?』

「アンタ不在の今日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!?」


ギンこと白鳥銀一は、自身の歓迎会の後も、隙あらばかなえにセクハラをかましていた。

まぁセクハラと言っても、女性の胸を揉むだけで(それだけでも大問題である)それ以上はしない。

「っていうか優ちゃんに聞いたんだけど、ギンのヤツ、

アメリカ行く前もいろんな女の子にセクハラかましてたらしいじゃん!?

アイツいったいなに!? セクハラかまされた子の方はまんざらでもない顔してたって言うし!

顔なの!? あのいかにも女ったらしな顔が皆をそうさせるの!?」


途中から、かなえがなにを言っているのか、ハヤトは分からなくなってきた。

ギンのセクハラに対する怒りで、頭が沸騰しかけているせいだろうか?

そんなかなえに対しハヤトは、とりあえず冷静に対応する事にした。

『……まぁ落ち着け。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

すると次の瞬間かなえは、パアッと目を輝かせた。


「えっ!? そんな方法あるの!?」

『ああ。アイツは、後ろから声をかけてからセクハラをかますまでの――――』

とハヤトが淡々とかなえに説明している時、噂をすればなんとやらで、

「かなえちゃ~~ん!! きょ~~もいい天気でんなぁ~~!!」

後方から相変わらず陽気なギンの声が聞こえてきた。


かなえは、まだギンにセクハラをかまされていないにもかかわらず、背筋に寒気を覚えた。

最初にセクハラをかまされてからだった。

こんな、まるで『パブロフの犬』のような条件反射が身に付いたのは。

『――――ほんの数秒間、必ず目をつぶる。だから声がしたらすぐに()()()()

「えっ!?」

かなえは、ハヤトの説明がまだ続いていた事などすっかり忘れていた。

だが、ハヤトの『しゃがめ』という指示が、なぜかとても重要な事だと思ったかなえはとっさにしゃがんだ。



スカッ



「……あり?」

その瞬間、ギンのセクハラが空振りに終わった。

「あ……れ……? 避けれた?」

ギンのセクハラを回避できたのが、未だに信じられないのか、かなえは目を点にして素っ頓狂な声を上げた。

『そんで、無事にかわせたらギンをど突け。そうすりゃ今日1日おとなしくなる』


「こっの! なにしようとしてんのよ!!」

携帯電話を持ちながら、かなえはギンの胸を狙い、思いっきりど突いた。

「ゲホォっ!!?」

ギンが胸を押さえながら、ゲホゲホと咳き込む。


それを見てかなえは、すぐにハヤトに礼を言った。

「ありがと。アンタのおかげでなんとかなったわ」

そしてかなえは、ドヤ顔で携帯電話の電源を切った。

……あ……あの回避方法……()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

ギンが、ふとそう思っていると知らずに。



同時刻

宇宙空間 1回目のワープ航行終了地点


「……なんとかあっちは大丈夫そうだな」

携帯電話を片手に、ハヤトはカルマに目配せしながら言った。

するとカルマは、フッとハヤトに微笑みかけ、

「俺と同じように、かなえさんもお前が信じて選んだんだろ?

だったらある程度大変な事態になってもなんとかなるって。

前の『コショウ事件』だって、かなえさんが解決したようなモンだし」

「……ああ。そうだな」

ハヤトも、フッと微笑みながらそう言った。


それから、数秒間の沈黙が訪れた。

今は話などしている場合ではない。というのもあるが、それ以上に、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

という異常が起きている事に、お互いがお互いにどう接したらいいのか分からないからだ。

アルガーノ星人は、宇宙一身体能力が高い民だ。

そしてそのパンチは、『蛇霊縛呪病』を発症する覚悟でふるえば、

トラックを横転させる事ができるとかできないとか。


そんな規格外レヴェルの威力のパンチを受けて、なんでハヤトは立っていられるんだ?

ハヤトから、【星川町揉め事相談所】所長になるまでの経緯をだいたい聞いていたおかげで、

前回星川町に現れたジェイドを、目にも留まらぬ超スピードで追い詰めた時とかは、

なんとか納得がいったものの、今回ばかりは異常だとしか思えなかった。

だからカルマは、聞かなければならない。



()()()()()()()()()()()()()()



カルマは勇気を振り絞り、ハヤトに尋ねた。

「……話は変わるんだけどさ、ハヤト。2つ程、質問いいか?」

「ん? なんだ?」

心臓の鼓動が、徐々に高鳴る。緊張のあまり、喉が渇く。

『お前はなぜ、ジェイドのパンチを受けて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

言う事は、決まっている。だけど、その言葉がどうしても口から出ない。


俺は……怖いのか? ハヤトの口から、とんでもない事実を聞かされるのが。

思わず、そう思ってしまう。

だけど、聞かなければ……聞かないで一生後悔したくない!

強く、強くそう自分に言い聞かせ、カルマはまっすぐハヤトを見て、

「ハヤト!! お前はいったい――――」

と次の瞬間。突然カルマのパソコンが『ピーピー』と音を立てた。



カルマが、ジェイドが乗っていた小型宇宙船に付けた、発信機の反応だ。




同時刻

惑星ドゥームーン


ジェイドは、砂漠の上を全速力で走っていた。

死ぬほど暑いだとか、喉が渇いたとか、いろんな思考が脳裏をよぎりながらも、

そのたびにジェイドは、それら全てを頭から振り払い、ひたすらに走った。

なぜなら、ジェイドを最初に襲い、()()()()()()()()ジオ・ワームが、

死ぬ直前に仲間を呼んでしまい、今、その仲間に追いかけられている為。

その数、およそ10匹。とても相手にしてられない数だ。


「クソッ……タレが! 絶対生き延びてやる!」

そう罵声を出しながら、ジェイドは思い返す。

自分が、強さを求めるワケを。

自分が弱いばかりに、()()()()()()()()()()()()()()()()()

だからジェイドは、こんな辺境の無人惑星で死ぬワケにはいかなかった。


だからジェイドは走って、走って、走って……。

次の瞬間、ジェイドの意識が一瞬飛んだ。

あまりにも過酷な環境下で、体を酷使しすぎたのだ。

今まで意識が飛ばなかったのが、奇跡だった。

とその一瞬の隙を突き、ジオ・ワーム達が、一斉にジェイドめがけて跳びかかる。



避けるか



殴るか



受けるか



無意識下で、3つの選択肢が脳裏に浮かんだ。

だがほとんど考える間も無く、ジオ・ワーム達の口が眼前に迫る。

……こんな所で、俺は終わるのか? こんな辺境の星で……

辺境のバケモンに喰われて……まだだ……まだ俺は――――


死を――――受け止められなかった。

だからジェイドは、強く思う。

こんな所で、終わるワケにはいかない、と。

故にジェイドは、玉砕覚悟で、ジオ・ワームに自分の拳を叩きつけようとして、


次の瞬間、ジオ・ワーム達を突如、〝光の雨〟が襲った。

それを受けてジオ・ワーム達は、苦しそうに悶える。

いったい何事かと、ジェイドはその光の雨の発射地点を見て……目を丸くした。

そこにあったのは、自分が乗って来た宇宙船より少し大きい宇宙船。


そして光の雨は、その宇宙船の両翼に装備されているレーザーライフルから発射されるレーザーだった。

そしてその宇宙船から、1人の少年が顔を出す。

「ジェイド!! 今すぐ投降しやがれ!!」

怒りと、悲しみが入り混じった顔でジェイドを見つめるハヤトが。

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