かなえと謎の男
午後13時55分
天宮宅
かなえは自分の携帯電話で、ただちに【民間協力者】である優、ユンファ、リュンの3人を呼び出した。
ハヤト不在の今、自分だけで、この町から1人の人間を捜し出すのは、到底ムリだからだ。
ちなみにエイミーは、一時的に他の友達に預けた。
「いったいどうしたんだい、かなえちん?」
「ってか、ひっさびさやな、ウチらの出番も!」
「待ちに待ったぜよ!」
3人がそれぞれかなえにそう言うと、かなえは1度深呼吸をし、真剣な目で3人に告げた。
「皆、よく聞いて! この町のどこかに、
今、他の星で起きている事件について、
なにか知っているかもしれない人物がいるハズなの!
私と一緒に、ソイツを捜すの手伝って!」
すると3人は、同時に、右手の親指を、立てた。
「それでかなえちん、ソイツの特徴とかの情報は?」
優がかなえに尋ねる。するとかなえは、自信なさげな小さい声で、
「確か……紫がかった黒髪に、銀色の瞳の男。【コショウ】なるモノを、この町で探し回ってるわ」
「【コショウ】ってアレか? 調味料の?」
これはリュンだ。
「たぶん違う。ただの【胡椒】だったら、事件なんて起きないわ」
「ところで、いったいどういう事件が起こっとるがぜよ?」
この質問はユンファだ。
「……アイドルの『ルナーラ=エール』が、この町に来た後で行ったライブで倒れたの」
かなえがそう告げると、同時に3人が、動揺した。
「【コショウ】なるモノとその事件の関連性はまだ分からないけど、とりあえず、瞳が銀色の男を捜して!」
「そういや、どうしてかなえちんが、その怪しい男の特徴を知っちょるんじゃ?」
ユンファがまた質問をしてきた。
「……『明星食堂』で、ソイツが【コショウ】なるモノを探してたのよ。でも、その時はまだ事件の事を知らなくて」
「なるほど。じゃあとりあえず、1人1人、分かれて捜しましょ。
そんでソイツを見つけたら、すぐに皆の携帯電話に連絡って事で!」
優の台詞を合図に、謎の青年の捜索は始まった。
それから2時間以上、かなえ達は謎の青年を、町中捜し回った。
だけど、誰もが、その謎の青年を見つける事は無かった。
おっかしいな。4人でこれだけ捜しても見つからないだなんて……。
もう星川町から居なくなった可能性もあるが、それはありえなかった。
あらかじめ、かなえは星川町唯一の出入り抜け道の近くに住む人に、出入り抜け道の監視を頼んでおいたのだから。
なので、その道を通るのが地球人だろうが、異星人だろうが、すぐにその人から連絡が入るハズだ。
『町立星川中学校』の校庭は……別に捜さなくてもいいわよね。
だってアイツ、異星人の気配がしなかったし。
かなえはそう思うと、謎の青年の捜索を再開した……その時だった。
かなえの後方から、何者かの両腕が伸びてきた。
「!!?」
かなえは、すぐにその腕から離れようと、前方に駆け出した。
だがかなえの後ろに居るヤツは、すばやく右腕で、まるでかなえを抱き締めるように動きを封じ、
左手で口を封じると、近くの路地裏へと、かなえを連れ込んだ。
「ん゛!? ん゛ん゛~~~~!!?」
必死に体を動かし、抵抗しながらかなえは大声を出そうとする。
だが、ソイツの力は強く、かなえは抵抗らしい抵抗が全くできなかった。
まさか、このまま顔も知らない人に、いやらしい事をされるのだろうか?
かなえの中に、背筋が凍る程の、とてつもない恐怖が生まれる。
だが、その時だった。
「こっそり〝エ〟を見つけて、速やかに帰らせてもらいたかったのに。
まったく。まさか君がここまで事を大きくするとは思わなかった」
その声には、聞き覚えがあった。
『明星食堂』で擦れ違った、自分達が今捜している謎の青年の声だった。
「ん゛!? ん゛~~!!? ん゛~~!!?」
自分の動きを封じているヤツが、あの銀色の瞳の青年だと分かった瞬間、かなえの顔が一気に赤くなった。
同時に、心臓が高鳴り始める。
ど……どうして私、この人の前だとこんなにドキドキするの!?
かなえは、自分がよく分からなくなった。
と、かなえの心がそんな状態だと知らずに、青年はかなえに話しかける。
「とりあえず、この件から手を引いてくれると嬉しいんだけど、ダメかい?
君が今、関わろうとしてるのは、宇宙の裏社会が関わる事件だ。下手に関われば、君の命は無い」
言い終わると同時、青年はかなえの口を封じている左腕を、かなえから離す。
これだけ脅しをかければ、おとなしくなるだろうと思ったのだ。
だが、青年の予想に反し、かなえは大声で、
「ちょ!? どこ触ってんのこの変態!! 宇宙の裏社会だかなんだか知らないけど、
今アンタが現在進行形で私にしてるのは『強制わいせつ』よ!!
警察に捕まりたくなかったらさっさとその手をどけなさい!!」
怖気付く事無く、かなえがそんな台詞を言ってきた事に、青年は一瞬唖然とした。
だがそのすぐ後に、
「クッ……ハハッ!」
急に青年は笑い出した。
「な……なによ!!」
青年の反応に、かなえは顔を真っ赤にしながらも、怒った。
すると青年は、なんとか笑いをこらえ、
「ゴメン。まさかそんな返事が返ってくるとは思わなかったもんで。
しかし、君も勇気があるな。この事件に関わろうとするなんて」
「アンタが探してる【コショウ】なるモノのせいで、少なくとも1人、被害者が出てるかもしれないのよ!
しかもそのせいで、この町が消えるかもしれないの!!」
「……なんだって?」
かなえに衝撃の現状を告げられた瞬間、青年は急に真剣な顔になった。
「まさか、もう誰か【コショウ】を使ったっていうのか!?」
そう言うと青年は、かなえから右手を離し、すぐにかなえの前に立つと、かなえにさらなる質問をした。
「あの【コショウ】は、とても危ないモノなんだ!! いや、正確には【コショウ】じゃないが……
とにかく、品名に【コショウ】と書かれた小包がこの町に届いたハズなんだ!! 知らないか!!?」
急に青年が自分の前方に回り込んだ事に、かなえは心臓が飛び出そうになるくらい驚いた。
だけど、その【コショウ】なるモノがとても危ないモノだと知り、一気に頭が冷めた。
しかし、いくら頭が冷めても、品名に【コショウ】と書かれた小包など、知らなかった。
「……ゴメン。知らない」
「……そうか。すまない、強引に話を聞いてもらって」
『強制わいせつ』に対しての謝罪は無いのか、とかなえはふと思った。
その間に、青年はまた、かなえの前から立ち去ろうとする。
かなえは、『強制わいせつ』に対しての謝罪を求めようと、青年を呼び止めようとして……思い出した。
『ルナーラ=エール』は、ライブの前、確か『中華飯店【王龍】』に寄った。
そして、青年が探している【コショウ】なるモノ。
かなえの中で、今回の事件の全ての事柄が……繋がった。
「待って! もしかして私、【コショウ】の在り処、知ってるかもしれない!」
「……なに?」
青年は振り向きざまに、真剣な目でかなえを見た。
午後16時14分
中華飯店『王龍』
突然、シュウレイにとっては会うのは2度目である青年によって、乱暴に『王龍』のドアが開かれた。
「いらっしゃ……いいっ!?」
青年はカウンター越しに、鋭い目付きでシュウレイを睨んだ。
「アンタ、やっぱり俺が探してるモノを隠してたな?」
「えっ!? い……いったいなんの事アル!? さっきも言ったアルが、
ここには小包に入った【コショウ】は来てないネ!!」
「……おい、やっぱ来てるじゃないか!!」
「だから来てないアル!!」
と2人が口論を始めかけたその時、遅れて現れたかなえが、2人の仲介に入る。
ちなみに優達には、青年が見つかった事をメールで報告してある。
「ちょ……ちょっと待ちなさいアンタ!! シュウレイが怖がってるでしょ!!?」
そしてかなえは、2人からそれぞれ意見を聞いた。
すると、とてもややこしい真実が判明した。
《シュウレイの意見》
『小包に入った【コショウ】は、貨物宇宙船停船場所である、
町立星川中学校の運動場まで受け取りに行ったアル。
だから宅配の人が【コショウ】を届けに来てはいないアル!!』
かなえと青年は、言葉が出なかった。




