表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

感じる違和感

夜。



 布団に横になっているのに、眠りは浅くて、何度も目が覚める。


 暗い天井を見つめながら、今日のことを思い返してしまう。


 ――距離を取ろう。


 そう決めて数日が経った。

 最初は、冷たくされる痛みから逃げるための自己防衛だった。

 けれど今は、その「距離を置いている自分」すら正しいのかどうか、わからなくなってきている。


 沙夜の表情が頭から離れない。

 昼休み、弁当を広げるときに何か言いかけて、けれど口を閉じた仕草。

 放課後、歩幅を合わせてくるように感じた足音。

 ひとつひとつがやけに鮮明に焼き付いていて、まぶたを閉じても消えてくれなかった。


「……気のせいだ」


 小さくつぶやいても、胸の奥の違和感は晴れない。


 眠れぬまま朝を迎えた。


 制服に袖を通し、ネクタイをゆるく結ぶ。

 鏡に映る自分の顔は、どこか疲れていた。


 外に出ると、空は曇り。

 ひんやりした風が頬をかすめる。

 通学路を歩いていると――角を曲がったところで、沙夜と鉢合わせた。


「……」


 一瞬だけ目が合う。

 沙夜はすぐに視線を逸らし、表情を無に戻す。

 俺も小さく頷くだけで、それ以上は言葉を交わさなかった。


 ただ、後ろから聞こえる足音は、ずっとついてくる。

 歩幅を速めても、やっぱり消えない。

 妙に耳が敏感になって、そのリズムが気になって仕方がなかった。


 ――十五分の道が、やけに長い。


 教室に入っても、違和感は続いた。

 沙夜はいつも通り席に座り、ノートを開いている。

 黒髪が光を吸い込み、艶やかに肩へと流れていた。


 けれど今日は、何かが違う。

 ノートを取る手が、時々止まる。

 窓の外を眺める時間が長い。

 俺が視線を移すと、ばったりと目が合う。


 ……その回数が、増えていた。


 心臓が小さく跳ねる。

 気づかないふりをして前を向くが、胸の奥でざわつきが広がる。










 昼休み。

 弁当を開けていると、横から声がした。


「……ねえ、悠斗」


 不意に名前を呼ばれて、箸を持つ手が止まる。

 顔を上げると、沙夜がこちらを見ていた。

 その目は、どこか探るようで、戸惑いも含んでいた。


「ん……なに?」


 わざと素っ気なく返す。

 声の調子を落とし、なるべく感情を消して。


 沙夜は一瞬言葉を飲み込み、視線を逸らした。


「……ううん。なんでもない」


 そう言って、また黙り込む。


 胸がずきりと痛んだ。

 けれど、あえて追及はしない。

 そうしないと、今までの決意が揺らぎそうだから。










 放課後。

 人の波にまぎれて帰る道。

 ふと足音が近づいてくる。


 ちらりと横を見ると、沙夜がいた。

 言葉を交わさず、ただ黙って隣を歩いている。


 俺はわざと歩幅を広げた。

 数歩、距離を開ける。

 それでもしばらくすると、またその距離が縮まる。


 ――まるで、無意識に合わせてきているみたいだ。


 心臓が重くなる。

 このままじゃ、逃げ切れない。


 そんな予感が、妙に確信めいて胸を締め付ける。















 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ