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妖精専属菓子職人  作者: おきょう
続編

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15

「……難しい」


 何をどこまでなら言っていいのか。迷惑でないのか。

 人付き合いをしてこなかった期間が長すぎて、上手く計れない。


 そもそも十歳という年齢的に、まだ人との付き合い方が未熟で、言動での失敗が多いのは当たり前なのだけど。

 それでもルーカスは、上手くできないことが歯がゆかった。




 ――そこで、すくっと立ち上がる者がいた。



「しかたねーなぁ。おれが、おんなのあつかいおしえてやるよ」


 腰に手を当てて胸をはり、ふふんと鼻をならす手のひらサイズの生きもの。

 現在絶賛リリーのストーカーとしてフィリップ邸に居ついている、中級妖精シロだ。

 

「いや、ふられっぱなしのシロに女の扱い方とか言われても」

「は? わかってねぇなー」


 チっチッチッと、シロが立てた人差し指を振って得意げに顎をそらす。


「おれはなー、ソフィアとくらしてたんだぜ? あいつのせーかくなんておみとーしだぜ!」

「っ! た、たしかに……シロは僕の見ていないソフィアを見てきている……」

「だろ? どんとまかせろ!」


 自分の胸をおおきく叩き、さらにふふんと鼻をならすシロ。

 ここまで自信満々だと、説得力があるような気がしてきた。


「そ、そうか。ならアドバイスを頼む」

「おう!」

「ルーカス……意外に単純なんだな」


 マークスからの生暖かい視線が気になるけれど、今はソフィアについてのアドバイスに飢えているのだ。

 ルーカスがサンドイッチを皿に置き、姿勢をただして聞く姿勢になったのを確認したシロは、よしっと大きく頷いてから口を開いた。


「まずは、おかしのねだりかただ!」

「は?」

「いっちばんじゅーよーだ! かわいーかおだ! かわいーかおするんだ!」

「なる…ほど……?」 

「かわいーしぐさもつけろ! んで、ウルウルのめだ! これでカンペキだ! ぜったい、ぜったい、うまいのくれる!」


 確かに、まだ猫をかぶっていた本当に最初の時、ソフィアはルーカスがにっこりと可愛く笑ってみせるだけで顔を真っ赤にしていた。

 ルーカスが着飾ると、もの凄く幸せそうに眺めてきたりもする。

 思わず気を抜いてへらりと笑ってしまったときには、「今のすっごい可愛かった! もう一回! もう一回見せてください!」なんて言われた事もある。


 可愛いものが、好きなのだろう。

 たぶんルーカスの容姿を好んでもくれている。


 だが今は、そうじゃない。

 知りたいのはソフィアのそういう扱い方じゃない。

 

「あのな、シロ……」


 机の上で得意げにふんぞり返っているシロは、ふんぞりすぎてもうすぐ後ろに転がってしまいそうだ。

 支える為に手を差し伸べながら物申そうとしたとき。


 コンコンと、部屋をノックする音が聞こえた。


「失礼いたします。マークス殿下に城より緊急の使いのものがいらしています」

「緊急だと?」


 入室を許可すると、屋敷の侍従に案内されてきた城の近衛兵の制服を着た男が入ってきた。

 

「何があった?」

「はっ! ターニャ王女殿下が、まだ帰城されていないとのこと。また、城下で負傷し拘束された護衛と御者の詰め込まれた、王族専用の馬車が見つかっているとことです」

「なにっ!?」

「……」


 マークスが眉を潜め、ルーカスはガタッ! と、大きな音を立てて思わず立ち上がった。


(あの馬車には、たしか……)


 震えそうになる声を必死に抑えながら、近衛兵にたずねる。


「ソフィアも……ソフィア・ジェイビスという娘も一緒に馬車にのって帰ったと聞いていたが」

「は、同乗していた娘と侍女も王女とともに消息不明になっているようです。国王陛下より、マークス殿下がこの誘拐事件の指揮を取るようにと伝言を賜りました。さらに詳細を報告させていただいて宜しいでしょうか」

「頼む」

 

 近衛兵の話した詳細によると、王都の外れの人気の少ない場所で、廃墟に隠すようにして馬車は停められていたと言うことだった。

 中から王女と一緒に行動していた護衛と御者が四肢を拘束された状態で見つかった。

 薬で意識を失わされているらしく、未だ誰もまともに話せるほどに意識がはっきりしていないとのこと。

 

 その中に乗っていたターニャとソフィア、侍女が消えたということか。

 

「状況からして確かに誘拐だな」

「ゆう、かい」


 ルーカスの心臓がばくばくと飛び跳ねる。

 ソフィアに何かあったらどうしよう。

 どうしようもない恐怖が湧いてくる。


「人質の安全の為に、大々的に動くのはまずいか」

 

 マークスが捜索のための指示を近衛兵に飛ばしつつ、城に戻るためにと立ち上がる。

 妖精のジンが無言のままに飛び上がった。

 不安に顔を青くさせているルーカスを見下ろし、しかし慰めの言葉などくれず。ただ凛と張った声で命じられた。


「ルーカス、お前も来い」

「っ! ――は、はい!」


 その後、夜を徹しての捜索がはじまった。



 しかし結局――――。


 朝になっても、翌日になっても。

 そのまた翌日になっても。

 ソフィアとターニャの消息は、まったく分からないままだった。



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