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妖精専属菓子職人  作者: おきょう
閑話

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妖精との後日譚 6

  

「ジン、どうしよう……」


 じわりじわりと、目に涙があふれていく。

 『どうしよう』なんて言ったって、どうにもならないことは頭では分かってる。

 死んでしまった生き物は、もう絶対にかえってこない。

 それでもソフィアは、助けを求めずにはいられなかった。


「ソフィア?」


 ジンは眉を寄せ、少し焦ったような声で降りてきた。

 地上に降りると同時に、彼は大人の姿になる。

 たくましく大きな手が伸びてきて、ゆっくりと頭を撫でられた。

 その仕草に、ソフィアはますます心の柔らかい部分を刺激されてしまう。


「何があった」

「き、きえたって……アカと、アオが……」

「消えた……。あぁ、消滅したのか」

「っ……どうして。ジン、妖精っていったい何なんですか。こんなにあっさり居なくなるなんて、私、考えてなくって」

「……」


 ソフィアの訴えに、ジンは少し考えた様子を見せたあとに口を開く。


「俺は、説明が下手だ。人間の感覚も、知識として知ってはいるが同調は出来ない」

「……へ?」

「だから城に行こう。こういうのはマークスに任せるのが正しい」

「……は、はい」


 前から少し感じてはいたけれど、マークスとジンの二人はそれぞれの役割がきっちり別れているみたいだった。

 マークスが考えたり口で上手く物事を回す頭脳派で、ジンは特異な身体能力を生かして動く肉体派。

 現に今回もソフィアの疑問に対しての『話す・説明する』ことを、ジンはあっさりとマークスに投げた。

 マークスなら大丈夫だと、それだけ信頼しているのだろう。


「……仲良しですね」

「何がだ?」

「いえ」


(私は、アオやアカとこんな信頼関係を築いては無かったわ)


 沢山いる妖精それぞれに気持ちを傾けてなんていなかった。

 後悔を感じながらもソフィアは小さく深呼吸して、ジンへと顔を上げる。

 混乱する今の状況に手を差し伸べてくれるのなら、行かないわけにはいかない。


「連れてってください。ジン。私、妖精に付いて知りたいです」

「分かった」




* * * *





 ジンに促されて、ソフィアは出掛ける支度をするために急いでクローゼットを開いた。

 いつも服の支度はメイドのオーリーに任せている。

 でも自分の持ち物だ。どこに何が入っているかくらいは覚えてる。

 

(急いでるけど、王城という場所柄変な恰好はできないよね。髪も纏めないと)


 出来る限りきちんとした身なりになるドレスを選んでひっつかむ。

 この淡いピンク色のドレスは、とにかく色が綺麗で、装飾が少なくても華やかに見える。

 きちんと感を出しつつも地味すぎない装いになるから、無難な選択だろう。ソフィアは急いでそのドレスに着替えて、髪をまとめ上げた。 


「よし。とりあえずこれで失礼ではないはず。さあ、行こうジン!」

「ああ」

「えっと、急ぎだから、家の馬車出して貰らって……って…ん?」


 戸を開いて階段を駆け下りつつ、はたとソフィアは気がついてしまった。


「……ねぇジン」

「なんだ」

「朝一番に王子様の身分をもつ人に会いに行って、会わせて貰えるものなの? 事前の約束もしてないのに」

「……無理だな」

「だよねぇ」



 どうしようかと悩んだけれど、結局ジンが先に行って直接マークスに伝えてくれることになった。

 ソフィアは一人で少しゆっくりめに城へ向かうことにする。

 ちなみにソフィアの家の馬車は基本的に父が仕事で使う用のものなので、ソフィア自身は普段は使わない。

 今日はまだ仕事の始まる前だったので、起き抜けの父と御者にお願いして使わせて貰ったのだ。



 そうして城に着くと、すぐに応接間のような部屋に通された。

 ジンの伝言のおかげで止められることも不審がられることもなかった。

 部屋に入ってからほとんど待つこともなく、小さな妖精の姿になったジンを連れたマークスが現れた。


「早くにお邪魔してすみません、マークス様」


 一番に頭を下げたソフィアは、彼の姿を見て肩を落とす。


(やっぱり、突然すぎた……)


 部屋に現れたマークスは、いつもとは違い長い赤い髪を下ろしたまま。

 服も装飾の無いシャツにスラックスだけと、とても簡易な恰好だったのだ。

 朝の身支度もそこそこに、ソフィアに応対してくれたのだろう。

 

(すごく有り難いけど、すごく申し訳ない)


 王子様相手に無理を効かせてしまったことに、恐縮してしまう。

 だがそんなソフィアを安心させるように、マークスは朗らかに笑うのだ。


「いいや。問題ない。何かあれば知らせてくれと言ったのは私だしな--とは言っても、さすがにあまり長く時間は取れないのだが」

「はい。十分です。本当にありがとうございます」


 頷いたマークスはソフィアに椅子を勧めてくれた。

 正面の席に彼も座りながら、早速本題を口にする。


「ジンに、ソフィアの傍にいた下級妖精が消滅したと聞いたが、間違い無いか」

「はい」

「そうか。ずいぶん親しくしていたようなのに、残念だな」

「残念……なんでしょうか」

「……」


 自分の気持ちが、まだよく分からない。

 ただどうしてこうなったのかと、混乱はしている。

 どうしていきなり、こんなふうにあっさりと居なくなるのか。

 分からないから、とにかく妖精についての知識が欲しくて、ソフィアはここに来たのだ。




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