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妖精専属菓子職人  作者: おきょう
閑話

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妖精との後日譚 1



 ――――ポカポカとした陽気の、春の昼下がり。


 日の光がほど良くそそぐ王城の庭園で、ソフィア・ジェイビスは「ふふん」と得意げに胸を張っていた。


 王城にお呼ばれということで、今日のソフィアはいつもより上品めなドレスを着て来た。

 はちみつ色の髪も綺麗に結い上げている。

 しかし恰好に反して、たいへん残念なことに態度は上品とは程遠く、得意げに胸を張ったまま、大きく息を吸った直後。

 ソフィアは威勢の良い声を、周囲に響かせる。


「さぁさぁさぁ! 三日かけて頑張って作った、超大作ですよ! どうぞ召し上がってくださいな。 あ、適当に食べちゃダメですよ。しっかり、きっちり、味わってくださいね!」


 そうして周りにいる皆に披露したのは、自分で作ったお菓子の数々だ。


 たっぷりのクリームとフルーツでデコレーションした、シフォンケーキ。

 そして艶々な苺をふんだんに使ったタルトケーキ。

 それらを中心にして他にテーブルに並ぶのは、可愛くアイジングデコレーションしたクッキーや、味違いの生地を合わせてマーブル模様にしたパウンドケーキなどの数種類の焼き菓子だ。

 さらに、中の味を色々変えた、トリュフチョコレートと生チョコレートもある。


 さらにさらに甘い物のみ大量に食べるのは、人間には(・・・)キツイだろうと、サーモンを入れたキッシュや、胡椒を利かせたチキンを挟んだサンドイッチ、色々な野菜のピクルスなども並べた。


「これは凄いな……」


 ソフィアの披露した品々に、正面の席に座っているマークスから感嘆の声が漏れた。


「妖精を含めると数が多くなるから、少し多めに用意して欲しいとは頼んでいたが……まさかこんなに作って来てくれるとは。ソフィア、大変だったろう」

「そうですね。日持ちする焼き菓子や寝かせられる生地とかを先に作っておいて、生ものは昨日の晩に仕上げられように、段取りと下準備をしっかり立てて、結構頑張りました!」


 ソフィアは自国の王子様へと、更に得意げに鼻を鳴らしながら自分の苦労を説明してみせて。



「あ。この苺タルト、美味いな」

「でしょう! 苺の品種にもこだわりました!」


 右隣に座る、今は赤い苺の乗ったタルトをもぐもぐ頬張って、ほっぺがハムスターみたいに膨らんでいる年下の少年の言葉に、にんまりと唇を上げた。



 ソフィアは次いで、テーブルの上でウロチョロしている妖精たちを見下ろしてみる。

 予想通りお菓子の山に大喜びしているようで、すでにそれぞれが思い思いにお菓子を抱え込んでいた。


「うまー」

「たからのやまだぜ!」

「いえーい!」


 テンション高くはっちゃけてるのもいれば。


「すてき……すぎる……」

「し、幸せ……」


 幸せのあまりか、プルプル打ち震えているのもいる。

 喜び方も様々な、コロコロした二・三頭身の、ぬいぐるみかマスコット人形にさえ見えてしまう下級妖精たち。


 ソフィアの家から着いて来たキーとシロの二匹とは別に、どこからかフワフワと寄って来た他の下級妖精も合わさって、結構な数になっている。

 花々咲き誇る庭園で、お菓子に集まる妖精たちがいる光景は、何だかとてもファンタジックだ。


「―――まぁ、そうね。良い出来だと思うわ」


 彼ら下級妖精と一緒にいて食べてるのは、白銀の髪が美しい美女の容姿の、上級妖精のリリー。

 ソフィアはそんな妖精たち皆の反応に「そうでしょう、そうでしょう」と頷いていた。




「おぉぉぉぉ。カスタードやぁばい」

「あら、キーは良いところに気づくわね。そのタルトのカスタードに使ったバニラビーンズ、とって置きのやつなのよ! とっておきの時に使おうと、取って置いたやつなのよ」

「ほうほう」

「ソフィアさん、てんさーい! もぐもぐ」

「えらぁーい! もぐもぐ」

「ひゅう! かっこいーい! もぐもぐ」

「ソフィアは偉いな」

「まぁ、確かに美味いと思う」


 ソフィアは沢山の誉め言葉を貰えて、たいへん上機嫌だ。


「ふふっ! ありがとう!」


 ――――これでこそ、三日間の苦労が報われるというもの。


 メニューを決めたり材料を注文したりの下準備まで含めたら、さらに一週間はかかっている。

 なので、その分くらいはやっぱり誉めて貰いたかった。

 だって頑張ったのだ。

 王城に持っていくからにはと、結構気合いを入れたのだ。


(うん、満足だわ。頑張って良かった)


 ひとしきり皆に褒められて努力が報われたソフィアは、落ち着いて椅子に深く座り直し、紅茶を一口飲んでふうと息をついた。


「美味しい……」


 ……もちろんソフィアも、貰った誉め言葉の中に、存分におだてが入っていることも頭の端では分かっている。

 誉めて欲しいとあからさまにしていた自覚もちゃんとある。

 それでもやっぱり、誉められると嬉しいものなのだ。

 そして皆がニコニコの笑顔で自分の作ったものを食べてくれている光景も嬉しくて、紅茶を飲みつつもどうしても口元が緩んでしまう。


「――――ん?」


 しかしふと、ソフィアはあることに気が付いた。

 キョロキョロと辺りを見回して、首をかしげる。

 このお菓子を渡すのに、今回一番優先するべき相手の姿が、見当たら無いのだ。


「あの、マークス様、ジンがどこへ行ったか分かりますか? このお菓子、元々はジンとの約束のものなのに……食べてくれないのかしら……」



 ――――ソフィアが怪我をして、王城に滞在していた間のこと。


 王子であるマークスの傍についている妖精のジンが、『妖精にとって特別なお菓子を作れる力』を持つ菓子を食べてみたいと言っていた。

 だからソフィアは、彼へとお菓子を届けることを約束していたのだ。 


 あれからしばらく経って、もうルーカスは全快した。

 さらに正式に伯爵位を受け継ぎ、家での新しい使用人達との新しい生活も落ち着き始めている。

 それによって、彼の後見人役のマークスの方も時間が取れるようになっただろうと思って、ソフィアはジンとの約束を果たすべく、城へのお菓子のお届けを申し出てみた。


 すると、王子であるマークスから、城へのお茶会の招待が届いたというわけだ。 

 お菓子を届けるだけでなく、話をしてみたいということらしい。



 そんな流れで今、町娘のソフィアと、第三王子のマークスと、伯爵家当主のルーカスという、立場も年もバラバラな人間三人と、妖精たちによる王城でのお茶会が行われているのだった。




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