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それはいつの話だ

総合評価が一万を越えました、ありがとうございます!!

 ローズメイをはじめとする一党は、まずバディス村で旅銀を稼ぐことにした。


 村付きの狩人として活動していた青年は、薬物と呪詛で命令を受けた狼龍シーラに殺害されてしまっている。

 また田畑を荒らす鹿などの害獣や、時には人さえ襲う凶悪な魔獣の類に対する対処は、生贄騒動のごたごたで後回しにされていた。


 ローズメイは、まずこれらの問題を片付けることにした。獣を売って肉を得、皮を剥ぎ、なめして現金収入に換えるためである。

 最も悪漢達に弓の扱いが達者なものはあまりいない。

 最初ローズメイは、ならば自分がと思っていた。戦場での勘を培う為に狩りは嗜みのように行われていたし、ローズメイは疾走する獣を、揺れる戦車から射抜くほどの腕前であった。まず問題ないだろうと思っていたのだが……一つ問題が起きた。


 弓が、あまりにもやわいのだ。

 もともと戦場では、大の大人でも引くことさえ出来ない十人張りの剛弓を矢継ぎ早に速射するローズメイ。

 そんな膂力を誇る彼女が使ってみようとした狩人の弓は――あまりにも弱く、引き絞るだけで弦を切断してしまった。

 仕方ないのでローズメイは、狩人の残した八寸剣鉈を片手に握り締め、疾走する兎を走って追いかけて斬り殺すことしかできなかったのである。

 しかしそれは、狩りとしてはあまりにも効率が悪かったのだが。


『まともに使える弓さえあれば、もっと数を狩れるのにな』


 いや、何で逃げる兎を走って追いかけて首を狩れるんだ、と村人も家来たちも思ったが、口にはしなかった。


 

 役に立ったのは――狼龍シーラとシディアの二人、そしてトドメ役を任された自称家来衆である。

 狩猟動物である狼と龍種の性質を掛け合わせて生まれた狼龍シーラは大変に賢く、多くの獲物を狩るならば人間と共同したほうが良いと気づくと積極的に手伝うようになった。

 何せ、馬以上に素早く疾走し、森の中の悪路もモノともせず、人語を理解する知性さえ持った理想的な勢子だ。

 狼龍シーラが動物や魔獣を追い立てて。そこに魔術師の卵であるシディアが術を用いて地面に穴を開けておいて。そして力仕事担当となった家来たちが、そこに上を向いた木の杭を並べておくのだ。

 こうなると、面白いように獣が狩れた。

 幸い村付きの狩人は解体用具一式と手入れのための研ぎ石の準備は欠かしておらず、ローズメイの家来衆は早速それらの皮の加工を始めた。悪漢無頼も食わねば生きてはいけぬ。幸いそういった解体に彼らは通暁していたのである。

 ある程度数が纏まれば、このバディス村から出て都会に出た時の換金物となるだろう。


 ローズメイとしては、いささか悪い気がしないでもない。

 彼女にとって貴族や指揮官というものは部下を食わせてやるものである。そんな自分が部下の収益に頼る立場になるのも、なんとも情けない。


 ただ……ローズメイは今回だけ、家来衆に養われることにした。

 今まで醜女しこめ将軍として十年近くを戦い抜き……国家の命運と部下の命、王子の未来を双肩に乗せ、常に神経を張り詰めさせ続けていたローズメイは、少しばかり気を緩める必要も感じていた。

 戦場に長くいすぎると心が壊れる――そんな実例を何度も見たことがある。

 だから、短い間ではあるが、バディス村での少しの滞在はいい気分転換になりそうだ。




「村のもの達は喜んでおりました。久しぶりに肉を食えると。

 それに村の外の、開墾の障害だった木を何本も引っこ抜いてもらったそうで」

「ああ。いい腹ごなしの運動であった」

「え? ……あの。狼龍に綱をつけて、それに引かせて根を抜いたのですよね?」

「いや? 鍬で地面を掘って下に棒をつっかえさせ、梃子の原理で引き抜いたが、途中からまどろっこしくなってな。掴んで引っこ抜いた」

「……他にも早朝から鍬で地面を耕してくださったとか」

「たまには剣術稽古でない形で汗を流すのもよいな」

「……ローズメイさまが、いきなり暑いと言い出して上着のボタンをあけそうになったから、慌ててサラシを巻いてもらいました」


 隣に控えていたシディアがなにやら物言いたげな視線を向けるが、ローズメイはあんまり気にした様子もなく応える。


「さて。……色々聞きたいところだが……まず。北方にはサンダミオン帝国が存在しているのだったか」


 


 ……領土拡張政策を取るサンダミオン帝国は、大陸で最も強大で、危険な敵だ。

 東方に位置し、かつての魔王と女神の残した地を耕し海を埋め立てるゴーレムが今だに生き残る『リヴェリア王国』。

 西方に位置し、かつては大陸全土を支配していたという矜持から、自らが唯一無二の国家であると言い、対等の国家などいないと宣言する『王国』。かつてギスカー王子がいて、ローズメイが忠誠をささげていた母国だ。

 そして、大陸中央の竜骨山脈の山間の盆地などに位置する『ガレリア諸王国連邦』。


 それが、今ローズメイのいる国の名であった。



 もっとも『ガレリア諸王国連邦』という名前だけを見ると、サンダミオン帝国を相手にして互角に戦えそうな強そうな名前であるが……実際は烏合の衆と言っていい。

 本来は小競り合いを続ける団栗の背比べな小王たちが、躍進を続けるサンダミオン帝国の脅威に危機感を覚えて結ばれた軍事協定である。

 だが、領土を帝国に面した北部の王達と、危機感の薄い南部の王達では意識の差ははなはだしい。

 北部の王達は『自分達が帝国の脅威の防波堤となっているのに、南部の連中は金も兵も出さない』と騒いでいるし、南部の連中は『事あるごとに、やれ戦時協定に従い資金を援助せよ、と人の財布に手を突っ込んで卑しいことだ』と顔を顰めている。

 

 恐らくはサンダミオン帝国側の工作員が紛れ込んでいるのだろう。

 帝国は純粋な軍事力においても他国を圧倒しているが……更にそこに加えて、敵国に十分な戦力を結集させずに各個撃破する事を旨としている。

 戦力に上回り、策略も一流。なるほど、手ごわいわけだ、とローズメイは状況を聞きながら思った。


 シーラ、あの売女もこの近隣の国で蠢動したりしているのかも。

 縊り殺せる距離に来ないかな、と微笑む。


 


 このアンダルム男爵領は、ちょうど『ガレリア諸王国連邦』の中央ほどの位置になる。

 南部の領主ほど戦争から離れておらず、北部の領主ほど空気は張り詰めれていない。ただ戦の雰囲気を感じ、いつどこで火蓋が斬って落とされるか、不安を覚えているような空気がある。



「それにしても……ローズメイ様とはお懐かしい名ですな。

 西方の武勲歌にも出てくる『11騎』の醜女将軍様と同じ名とは。……あ、いえ。もちろん目の前のあなたは美しいですが」

「気にするな、よく言われる」


 ローズメイはそう答えて笑う。もう気の早いことに武勲歌として詠われているとは武人の名誉である。

 もちろん、こうまで痩せ細り、美しい容姿となった今では自分が醜女将軍と同一人物と言っても誰も信じるまいが。


「……ん?」


 そこまで言って……ローズメイは違和感を覚えた。

 彼女の記憶では……11騎でメディアス男爵の8000の兵に戦いを挑んだのはほんの数日前の事だ。

 だが、幾らなんでも三日程度の時間で、武勲歌などが詠われ、『王国』から遠く離れたこの辺境にまで伝わるものだろうか?


「いつだ?」

「は?」

「おれではない醜女将軍ローズメイ=ダークサント卿が、10騎と共に8000の兵に挑んだのはいつ頃の話だ?」


 質問の意味が分からず、村長は目を白黒させたが……素直に応えることにする。


「ほぼ……一年、正確には11ヶ月ほどではないかと思います」


 時間が、飛んでいる。

 常軌を逸した事態に、ローズメイは驚きで声を失った。



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― 新着の感想 ―
ほぼ一年経つだと!! じゃあもう彼女の祖国は。
愛し子回復するのに時間かかったって言ってないけど、 ま、いっか☆ (•ㅁ•́*)✧ つ   づ(-.- *)zZZ
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