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ある日の夕方。もう一時間もすれば晩飯の御呼び立てが掛かる頃。
椋原家の敷地内にある俺が暮らすプレハブ小屋で、俺と真帆は五匹の子猫たちをあしらいながらのんびりとしていた。
最近真帆は学校から帰ってくると、直行で俺の部屋の戸を開けていつも動物と一緒に訪れにくる。今日は何故か五匹のやんちゃな子猫たちを器用に抱いてきた。
この町にやって来て早一ヶ月が経過し、ようやくここでの生活にも慣れてきた。
といっても妖狐を探してる陽陰師や庭を動物園にしてる俺と同い年の奴がいたり、ようやく町長に会えたと思ったら犬達を一喝する天狗が現れたりと、かなり意味不明なことが多いが、まぁなんだかんだ楽しみながら日々を過ごしている。
この間なんかペットショップ『Love ふぁみりあ』の散歩バイト中、案の定犬達の素晴らしい連携で羽交い締めにされていたところ、たまたま通り掛かったスーツ姿の川崎省吾さんに助けてもらった。感謝の気持ちを伝えながら、軽く他愛のない話を交わしていると、何故か眼を潤ませ感激した様子でお昼ご飯を奢らせてくれと、助けてもらった揚句昼食をご馳走になるという予想外な展開になってしまった。更に彼はツチノコハンターであると耳を疑う宣言をかまし、気づいた時には一緒に草むらではいつくばって架空の生物を探してしまった。
以前の俺なら馬鹿馬鹿しいと一蹴していただろう。しかし、この町ならツチノコくらいいてもさほど不思議ではない気がした。もう既に俺は一ヶ月そこらで普通じゃない経験をしているから。
不意に可笑しくなって俺は喉を鳴らした。
「マサムネなに笑ってるの?」
どうやら聞こえてしまったようだ。
部屋に敷かれた畳に俯せになりながら、ペット雑誌を読んでいた真帆が顔をあげた。
「ああ、いやなんでもね」
「気持ち悪いなぁ」
はっきり言うなぁ。
「なぁ真帆、ツチノコって見たことあるか?」
「マサムネって子供ね」
「お前はもうちょっと夢見よう!?」
遠い眼を向ける生意気な真帆に俺は突っ込む。
真帆は「マサムネはだめねー」とそろそろおねむになってきた子猫たちを撫でながら語りかける。
悪いことしたペットみたいに言うなよ。
「この間、ひょんなことからツチノコ探してるおっさんと一緒にツチノコ探してさ」
「それで、ツチノコさんはいたの?」
「んにゃいなかった」
「……おじさんと二人で昼間から?」
「そうだけど」
すると真帆は大きく溜息をついて立ち上がり、俺の前に正座した。
「知らない人に勝手についてっちゃメって言ったでしょ?」
「だから悪いことしたペットみたいに諭すなよ!?」
そんな世話のかかるやつだみたいな顔しないで!
「……まぁいいや。それで、例えば真帆がツチノコ見つけたらどうする?」
「見て見ぬ振りする」
「意外だな。真帆ならてっきり拾ってくると思ったんだけど」
素っ気ない返答をする真帆に俺がそう言うと、真帆はおもむろに苦い顔つきになる。
「えーだってツチノコさんって蛇さんでしょ? わたし怖いし触れないもん」
「む、確かに」
いくら伝説の未確認生物だとしても、素手で触れって言っても無理だな。そもそも蛇の一種だし、毒も持っているかもしれない。何より得体の知れない生物を目の前に平然といられる方がそもそもおかしい。
「でも怪我して困ってたりしても見捨てるのか?」
「うーん……」
俺がそう問うと、真帆を口を尖らせて考え込む。
「マサムネを召喚する」
「俺に何を求めてるんだよ」
「マサムネが噛まれてる間に傷の手当をしてあげる」
「怪我人の数が変わってない!?」
「大丈夫。マサムネの犠牲は無駄にはしないよ」
「怪我人どころか死傷者だと!?」
最近全く遠慮がないな!
俺がいつものツッコミ疲れによる頭痛に悩まされていると、ふっと真帆の表情が緩んだ。
「んーでもこのプレハブはツチノコさんには勿体ないよね」
「……え、ああ、そうだなぁ」
イマイチ喜んでいいのかわからないことを真帆が呟いたが、俺は首を傾げるしかなかった。
三衣 千月さんの『うろな天狗の仮面の秘密』から天狗の話題、裏山おもてさんの『うろなの虹草』から草薙家の話題、とにあさんの『URONA・あ・らかると』からペットショップの話題、シュウさんの『『うろな町』発展記録』から町長さんの話題、ここもとさんの『うろな町でツチノコを探し隊』から川崎省吾さんとツチノコの話題を出させていただきました!
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