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54 不審者

(セルったら、みんなの前であんなことを恥ずかしげもなく堂々と言ってしまうだなんて……)


 国王たちへの挨拶が終わり、リリアたちは聖女についての情報交換と勉強をする場所へ移動していた。王城内はとても広く、セレーナたちがいなければ簡単に迷ってしまうほどだ。


「それにしても、セル様のリリア様への熱烈な思いを聞けて感無量でした。とても素敵です」


 フィーニャがうっとりとした顔でそう言うと、セルは表情を変えずにただ静かに頷く。


(あの言葉、どこまでが本当でどこまでが作り話なのかわからないわ……セルに言ったら、全部本当だと言われてしまいそうだけど)


 チラッ、とリリアがセルを見ると、セルはその視線に気づいてほんの少しだけ微笑んだ。それはリリアにだけわかるくらいのほんの些細な変化だが、明らかにそこにはリリアへの熱い思いがこもっているようで、リリアは思わず頬をほんのりと赤らめ、視線をそらす。


「それに、まさかリリア様がみんなの前であんなに表情を崩すとは思いませんでした。いつも完璧で美しい表情のままなのに、さっきは顔も真っ赤でしたし!セル様は、今まで知ることのなかったリリア様の意外な一面を引き出すことができるんですね」

「……自分としては、できればリリア様のそういう一面は他の誰にも見せず、俺の前だけにしてほしいというのが本心です。ですから、今後はこの手の話は控えていただけるとありがたいですね」


 セルがほんの少し眉を下げてそう言うと、フィーニャはまぁ!と目を輝かせて嬉しそうに頷く。オルグとディアスは目を合わせてなんとも言えない顔をし、セレーナは相変わらず真顔で前を向いたまま歩いていた。


 ふと、セレーナの前に王国の制服を着た男が立っている。セレーナたちに気がついて、その人物は声をかけてきた。


「セレーナ様、勉強会で使うはずだった部屋で急遽議会が開かれることになり、部屋が使えなくなりました。場所が変わりましたので、ご案内します」

「そんな話、聞いていないのだけれど」


 セレーナが不審そうな目を向けると、男は神妙な面持ちで声を潜める。


「なんでも、聖女はいらないと豪語する過激派がこの国にも潜んでいるとの情報があったとかで……」


 男の言葉に、セルの眉がピクリと動く。オルグとディアスも厳しい視線を男へ向けた。


「……そういうことであれば仕方がありません。案内をお願いします」



 男の後をついてきたリリアたちだが、なかなかその場所へたどり着かない。


(歩きすぎな気がする。それに、なんだかおかしいわ)


 リリアが気づいているのだ、セルたちも気づかないわけがない。そう思った時、セレーナが口を開いた。


「まだ歩くのでしょうか?この先に勉強会で使えるような部屋はないはずですが」


 王城の中ではあるが、いつの間にか人気のない薄暗い場所にたどり着いていた。男は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。その目は怪しげな光を含み、顔はにやりと気味の悪い笑みを浮かべていた。


「いえ、もうすぐ着きますよ」


 男がそう言って両手を広げると、リリアたちの足元に突然魔法陣が浮かび上がる。


「転移魔法か!」


 セルはすぐにリリアを腕の中へ抱き寄せる。他の騎士たちも聖女たちを守るように引き寄せるが、そのまま魔法陣の光の中へ吸い込まれていった。



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