第6話
20230303公開
「なるほど、それはかなり運が良かったと考えるべきですね。まあ、生き残っている我々も運が良いと言えるんでしょうが・・・」
俺の『落ち人』人生を聞いた後の山口さんの言葉だ。
ザック君が聞いた限り、今も生き残って暮らしている『落ち人』は少ない。
人口密度から考えて、新生児の状態で現れた『落ち人』は、かなりの確率で人知れず死んだと考える方が自然だ。
ましてや似通った人類種の『知恵持つ栄光の人』の生存圏以外の場所で出現した場合、例え人里だとしても良い扱いをされるとは思えない。
ガラバナン人なんかの生存圏に現れれば、そのまま埋葬をしかねない。
まあ、情に篤い『音と共に生きる人』なら助けてくれるかもしれないが、ザック君の記憶には特に情報は無い様だ。
「カーヌ卿、鈴木氏が貴族になった経緯を聞いても?」
少し考えた後で山口さんがシス・δ・カーヌ四等級爵に訊いた。
きっと、王城に住んでいても、訊いた事に答えて貰えることが少ないのだろう。
囲い込まれた立場の弊害と言える。
「以前に1度話に出た『別系魔矢』魔法開発の功労者ですから、功績に報いたという事です。先程行われた叙爵の儀でも披露されましたが、ガラバナン人を食い止めている最前線のゼントリウス公国でも評価が高く、我らがミッドガラン王国に多大な名誉と貢献を齎してくれています」
「なるほど」
「鈴木さんに質問なんですけど、どこの自衛隊に居たんですか?」
ある意味空気を読まずに質問をして来たのは、確か高校生だった田所君だった筈。
「陸自で普通科でした」
「おお、それは今回みたいな異世界転生するのにはうってつけですね」
「どういう事?」
「いや、空自とか海自よりも陸自の方がココの戦闘に向いているって事だよ」
「クウジ?カイジ?」
「あー、そう言う話は後で時間が出来た時にした方が良いんじゃないかな」
「あ、そうですね」
OLだった小川さんに説明する口調から考えると、田所君は自衛隊に詳しいのだろう。
話を打ち切る様に言った山口さんも詳しいみたいだ。
それに、カーヌ四等級爵に地球の情報を与え過ぎない様に口を挟んだところを見ると、政治的なセンスも持っていると思う。
きっと内心では聞きたい筈だが、カーヌ卿はさすがに優秀な文官らしく、興味の無い表情をしている。これほど内心を隠せるのなら、のじゃ爺は一種のカモフラージュだったのかもしれないな。
「今回、ザック・ε・ログナス五等級爵を紹介したのは、皆さまも功績が有れば我がラカント王国の貴族になる事が出来るという事をお伝えしたかったからです」
まあ、王国とすれば、ただ飯喰いの集団よりも実利を齎す集団で有ってくれた方が良いだろう。
「それは期待して欲しいですね。こういう場合、異世界人はチートだって言うのがテンプレですから。まあ、さすがに覚醒してすぐですから結果を出せていないですけど」
田所君が自信を持った表情で答えた。残りのみんなの表情は冴えない。
それと今のカーヌ卿の反応で、この集団と王国側との繋がりに少し考慮すべき点が発生したが、誰も気付いていないのだろうか?
「それは楽しみですね。では、積もる話も有るでしょう。晩餐会迄少し時間が有るので、皆さまはこのまま交友を深めて下さい。私は用事が有るので失礼致します」
そう告げた後、カーヌ卿は「ログナス五等級爵は後で迎えに来ますので」と言ってから部屋から出て行った。最後まで慇懃な態度だったな。ちょっと、のじゃ口調が懐かしい。
少し無言の時間が続いたが、最初に口を開いたのは、元教師で引退されていた尾崎幸雄さんだった。
懐かしいと思うほど時間を置いていないが、それでも半月ぶりくらいに聞く日本語だった。
「この国の者は全て胡散臭いな。儂たちを利用する気が見え透いておる。下手に成果を出したら利用するだけ利用して捨てられかねん」
「尾崎さん、それは前にも話し合ったでしょ? 我々の価値を示さなければ、立場が悪くなるって」
「そうですよ、尾崎さん。出過ぎた釘は打たれないって」
「いや、抜かれて終わりだろう」
ふむ、どうやらここに居る17人でも意見が微妙に分かれている様だ。
そう思って、みんなの顔を見渡したら、和田さんと目が合った。えーと、パートをしていた人だったかな?
「鈴木さん、何か私たちの事で聞いていませんか? 鈴木さんはどうやらここでは一番立場というか地位が上の様ですし」
「申し訳ありませんが、自分も覚醒して間が無いですから、ほとんど自分で得た知識というのが無い状態でして。貴族になったのも覚醒前の功績ですし。お役に立てず申し訳ありません」
「あ、頭を上げて下さい。批判している訳じゃないんで」
「ただ、この国がと言うか、人類種がかなり追い詰められているのは確かの様ですね」
「人類種間戦争か・・・ 地球ではホモ・サピエンスしか居なかったから実感は湧かんな」
「ネアンデルタール人とは4万年前まで共存していましたよ。確か出生数の差で住処を奪われて滅亡したって覚えていますが」
山口さんがちょっとした知識を披露した。
「それに、ホモ・サピエンスにもネアンデルタール人の遺伝子が受け継がれているから、完全に滅びたとも言えないかもしれませんね。この世界での問題として、3㍍もの巨人やファンタジーモノ定番のゴブリンモドキとの間に子孫を残せるかですが、無理みたいですね。共存共栄もどうやら無理っぽいですし、僕たちが生き残るにはこの国に協力して存続させて行くしか無いと思いますよ」
山口さんの言葉に頷いたのは12人だった。まあ、残りの5人も2人を除いてまだ実感出来ていないだけの様な気がする。
「いや、それ以前に自衛官なら、俺たち国民を守る義務が有る筈じゃないか? おあつらえ向きに貴族らしいしな」
唐突に発言したのは、俺の左側2つ目の席に座っている人物だった。日本で何をしていたかを言わなかった渡辺さんだ。子供の顔の割に下卑た表情をしていた御仁だ。ちょっと『俺のモノは俺のモノ。お前のモノも・・・』で有名なキャラに似ている。ガタイも17人の中では1番大きい。俺と変わらないくらいか?
一瞬の間が空いた。
なるほど、この人物は問題児としてみんなに認識されているんだろう。
論破するのは簡単だが、こういう手合いは論理的な思考をしていない気がする。
どう答えるかを組み立てて、口を開こうとしたら先に発言された。
山口さんだった。
「渡辺さん、無茶言わんで下さい。僕たちが鈴木さんの給料を払っていない状況では納税者でも何でもないんですよ。第一、ココは日本じゃないんですから、鈴木さんが僕たちを守る義務は有りません」
「そんなの関係有るか! 税金泥棒にやっと仕事をする機会が来たんだ。収めた税金分働いてもらって何が悪いんだ!」
或る意味、清々しいくらいに輩な発言に苦笑が浮かんだ。
「てめえ! 何がおかしい! なめんじゃねぇぞ!」
「いや、ご自身の立場を分かっていない事に苦笑いが浮かんだだけです。この会合は一種の茶番ですよ。ミッドガラン王国は試しているんですよ。誰が役に立って、誰が役に立たないかを」
「どういう事だ!?」
「日本の様な手厚いセーフティネットは無いという事ですよ。『働かざる者食うべからず』という事です」
「ああ!? 俺たちは難民だぞ! 助けて当然だろ!?」
「地球ならね。ココはどこですか?」
「知るか!」
お読み頂き誠に有難う御座います。
第6話「生き残れた日本人たち」をお送りしました。
次話は明後日になる様な気がします(^^)




