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17 見殺しにする勇気

沢山のガラス片と共に私たち四人は建物から飛び降りた。

アイリスに抱えられた私は、直ぐ目の前に衝突しようとしてくる地面に体を強張らせた。

しかし私が地面にぶつかることはなく、ふわりと体が浮く感覚を覚えた。


「ふう、危なかったですの。ご主人様、反応が遅いですわ」

「あ、ありがとうアイリス」

「う……、でもさすがに重いですわ。着地しますわよ」


アイリスは苦しそうに、だけど丁寧に私を地面に降ろしてくれた。どうやら普段アイリスがやっている浮遊で、私を守ってくれたみたいだ。

ちなみに補足すると私は重くない。


隣を見ると、無事着地しているサンとキュイールがいた。二人の方はサンの荒縄で華麗に着地していたらしい。サンのそのスキル、めちゃ便利だよね。私はそっと自分の首に括られている縄に触れた。

これさえなければなあ……。


「おい、何事だ!! 何が起きた!」


騒ぎを聞きつけた族長とその仲間たちが別荘から外まで出てきた。それらは、庭に着地している私たちを見た後、割れた二階の窓を見上げ絶句していた。


窓は瘴気で黒く濁っている。それらが晴れた時、私たちが出くわした謎の怪物がその姿を再び現した。


「にひひひ、またしても勝手に死んだ。なんてもろいんだ。心を必死に保とうとしないから死ぬんだ。でも羨ましいなあ。オレもその程度の絶望で死にたいなぁ」

「てんめえ!!」


サンがその言葉を聞いて声を荒げる。また目の前で家族同然の盗賊団(なかま)が殺された。憤らないはずがないのだ。そんなサンの様子を見た族長もその怪物を標的に定めたようだ。


「おい、お前らぁ! 敵はアイツだ! ひるむんじゃねえぞ!」

「「「おう!!」」」


二階の窓から壁伝いに下りてくる怪物に向かって団員たちは駆けだした。建物から出てきた団員およそ100名。それらが一斉に戦闘を始めた。近距離の団員は剣を使い、中遠距離の団員は弓矢や魔法スキルを使って怪物を囲ってるのが見える。


しかし、それを怪物はいとも簡単に吹き飛ばしてしまう。


「うわああ!」


叫び声と共に剣を持った団員が四方に飛ばされる。中には壁に強く打ち付けられ、血しぶきをあげて絶命する者もいた。怪物のその巨大な腕の膂力(りょりょく)は凄まじい物だった。私なら、その腕に触れられた瞬間に肢体が弾けてしまうだろう。


その怪物の強さにひるんだ中遠距離の団員たちは、既に及び腰になってしまっていた。


「ひ、ひぃぃ」

「バケモンだぁ、ありゃあ」

「族長、コイツはやばいですぜ!!」


すると、族長が前に躍り出てその怪物を見据えた。


「心配すんな。俺がついてる。お前らはアイツの動きを止めてくれ、俺がアイツの首を叩き落してやっからよ!」

「アタイも加勢するよ、父ちゃん!」

「サンか。……親父としては止めたいところだが、頼む」

「うん!」


サンが族長の方へ向かったその瞬間、族長が後方へ吹き飛ばされた。


「なッ!」

「父ちゃん!!」


サンが族長の元へと駆けよる。吹き飛ばした元凶である怪物は、伸ばした腕を自分のところまで戻していた。あの腕、数メートルも伸びたぞ。あの太さ、威力で範囲も尋常じゃないって、卑怯すぎるでしょ!


「おいおいおいおい、いつまでオレを待たせておくつもりだあ? みんなで寄ってたかって集まってお涙頂戴の親子愛ですかあ? そんな茶番をオレに見せられても困るよぉ、困るんだよぉ。オレからすりゃ、大人数でオレをいじめてくる悪者はお前らなんだからよぉ。いつだってそうだ、みんなで集まって一つの目標を達成した奴だけがそのみんなから評価されて、1人で孤独に戦っているオレみたいなやつはいつも爪弾きだ。徒党を組んで勝つよりも、独りで戦ってるやつのほうがずっと強ぇに決まってる。でもわかってもらえない。この恐怖と戦ってるオレなんて、誰にも見てもらえねえんだよ!!」


怪物は早口でそうまくしたてると、先ほどのように腕を伸ばし横に振りぬいた。

避けきれなかった団員たちがまとめて薙ぎ払われ、場は静まった。

立っているのは遠方でそれを見ていることしかできなかった私、アイリス、キュイールの三人だけになってしまった。


族長の傍にいるサンは動こうとする気配はない。

もはやこれまで……か? 今なら私たちだけ逃げられるかもしれない。サンに掛けられた縄の呪い。私の予想が当たっているなら、この縄は私の魔力を使って維持されている。


牢の中でサンが私たちにこれを付けなかったのは、私たちが魔力を封じる枷を付けられていたからだ。牢の中で抵抗できない状態で縄をかけるのが最も安全なのに彼女はそうしなかった。いや、きっとできなかったのだろう。発動・維持に必要な魔力が封じられているのだから。


私はポーチの中に入れていた枷を取り出す。そう、出発する前に牢に置いてきたこれを回収してきていたのだ。今これを付ければおそらく首の縄は外れ、自由の身になる。そうすれば私たちはサンを恐れることなくこの窮地から逃げ出すことができるだろう。幸いあの怪物も私たちを見ずに族長の方を見つめていた。


けど、本当にそれでいいのか。人としていいのか?

私はこれからこの人たちを見捨てたという罪悪感を抱きながら世界を巡れるのか?

そんな気持ちで、心から楽しめるのか……?


私は枷をぎゅっと強く握りしめた。

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