島流し3日目:まずは食料*4
「ごきげんよう!ああ、もうできてるわね!ありがとう!」
まず、マッドゴーレムに研がせていた石を回収した。
2体のゴーレムが夜通し研ぎ続けていた石は、それなりに刃のついた形になっていた。これなら石斧として使えそうだ。
「じゃあ次はこれをお願いね!」
回収した石の代わりに別の石をゴーレム達に握らせれば、ゴーレム達は石がすり替わったことにも気づかないように、ただ黙々と、また石を研ぎ始めた。
これがアイアンゴーレムであったなら、騎士らしく恭しい礼の1つもしただろうが、これらはマッドゴーレムだ。単純作業を行うだけのゴーレムなので、知能があるでもなく、やり取りは無味乾燥としている。……少々寂しいような気がしなくもない。
「……皆は元気かしら。シリルったら大泣きしていたけれど……ちゃんとフラクタリアに帰っているわよね」
寂しさついでに、別れた騎士たちのことを思い出す。彼らが海難事故に遭うとも思い難かったが……多少、心配になったマリーリアは、短い間ながらも祈りを捧げた。どうか、彼らが無事であるように、と。そして、今日も祖国フラクタリアが平和であるように、と。
さて。
マリーリアは朝食がてら、昨夜の残りのベリーと今朝のエビと魚とを食べた。まあ、腹は満ちない。やはり、そろそろお腹いっぱい何かを食べたいところではある。
そんなマリーリアは朝食後すぐ、石斧の刃となる石……いわば磨製石器を手に、適当な木材と格闘することになる。
この石器を石斧とするには、柄を付けてやる必要がある。……そのために、木材に適当な穴を開け、そこに嵌り込むように石斧の刃の反対側を差し込んでやり、その上から木の蔓で縛って固定する……のだが。
「ナイフが無かったらこの段階で相当大変だったわねえ……」
マリーリアは鋼のナイフでがりがりと根気強くやって、柄に穴を開けていく。……このように木材を加工できるのだから、『自決用』のナイフも役に立つものだ。このナイフが無かったら、これはとてつもなく大変な道程だっただろう。
そうして無事に穴が開いたら、穴の周りを火で炙って焼いて、木材を強固にする。不要なささくれの類を焼き落とし、更に、木材を焼きしめることで割れにくくするのだ。
「よし……これでいいわね」
そうして、石斧ができた。今回の石斧はマンイーターを狩るための保険のようなものだ。柄は長めにとってある。ゴーレムが研いでくれた石はもう1つあるので、柄の短い斧も1本作る予定だが……今はこれでいい。
「さて。じゃあひたすらゴーレムを作らなきゃね。あの2体はそのまま石器づくりをしてもらいたいから……別で3つくらい?でもできれば5つくらい……うーん、大変だわぁ……」
マリーリアはぼやきつつ『やっぱり無駄が多いわよねえ』と嘆きつつ……しかし、今はとにかく、食料が必要だ。これをやるしかない。
『ごはん、ごはん』と呟きつつ泥を作れば、早速、少し楽しくなってきた。空腹は辛いが、それすらも今の作業のモチベーションになる。マリーリアはふんふんと楽しく鼻歌を歌いつつ、ざくざくと地面を掘り返すのだった。
そうして昼過ぎまで働いて、なんとか6体のマッドゴーレムを作ることができた。やはり、泥を作り、作った泥をかき集めていく作業は重労働だ。よってマリーリアは、1体目のゴーレムを生み出してすぐ、『地面を掘れ』と命令を刻んで泥づくりに従事させた。そうして1体目よりもう少し早く生まれた2体目には『泥を運べ』と命令したかったのだが、『どこからどこまで』の指定が難しかったので頓挫した。
ということで結局、2体目以降のマッドゴーレム達は『ここでステップを踏め』と命令を下されて、砕かれた土と水を合わせて踏んで捏ねる係になった。……ふにふにふに、とステップを踏む泥人形達はなんとなく、愛嬌があった。マリーリアは『やだぁ、なんだかかわいいわぁ……』とちょっぴり嬉しくなった!
……まあ、そうして、マリーリアの代わりに泥を作るゴーレムらのおかげで、前回よりはずっと楽にマッドゴーレムを量産することができた。
さて。
「じゃあ命令を書き換えて……ええと、北へ進め……あっ、あなた、北が分からないのね!?うーん、磁鉄鉱でも体の中に入れてあげられれば良かったんだけれど……しょうがないから、えーと、『立て』で立ってもらって、向きを変えてあげて……これで『進め』でいいわね。ふう、よしよし」
マリーリアは苦労しながらもなんとか、マッドゴーレムを歩かせることに成功した。……マッドゴーレムの命令は非常に面倒だ。石を研ぐように、動かずずっと同じ動作を繰り返すようなことをさせている分にはいいのだが、こうして動かして運用しようとすると、非常に面倒なのである。
「まあしょうがないわね……。あ、『石を拾いながら進め』に書き換えましょ」
更に、別の動作もさせようと思うと非常に面倒である
「ああああ、拾った石をどうしていいか分からないのね!?うーん、『進みながら石を拾って運べ』の方が良さそうね……」
……面倒である。とても、面倒である。
だが、それでもマリーリアはこうするしかない。現状、最も簡単に作れるゴーレムはマッドゴーレムだ。ほぼ使い捨てのようなマッドゴーレムだが、それでも今は必要なのである。
「やっぱり数の暴力って大事よねえ。ふふふふふ……」
……何せ、今のマリーリアが安全にマンイーターと戦う術は、これだけなのだから。
さて。
そうしてマリーリアはゴーレム達と共に、マンイーターの近くまでやってきた。
マンイーターは最初に見た時と同じ位置で、うねうねと蔓をくねらせている。元気そうだ。ついでに、新鮮そうだし、美味しそうである。今のマリーリアを動かすものは食欲だ。食欲なのだ。
「じゃあ命令を書き換えて……よいしょ、と」
このままゴーレム達に前進されても困るので、マリーリアは早速、ゴーレムの体の命令を潰して『石を拾って』だけにする。すると、ゴーレム達は拾い集めてきた石をそのままばらりと足元に落として、それらをまた1つずつ拾い始める。
「じゃあ、これでよし」
……そんなゴーレム達の命令を、マリーリアはいよいよ書き換える。
『投げろ』と。
マンイーターの特徴は、植物でありながら自由に蔓を動かして人や他の生き物を襲うこと。咲かせる花には生き物を誘引する効果があること。蕾の内側には牙のような棘があり、そこから獲物を捕食すること。
……そして何より、『植物なので動かない』ということである。
そう。マンイーターは、花の香りで獲物を呼び寄せ、自分の元へやってきた獲物を捕食する、という生き物。蔓や花を動かすことはあれども、テケテケと歩くようなことはしないのだ。
つまり。
「数を揃えて遠くからボコボコにすればいいのよねぇ。うふふふふ」
……こういうことである。
動けないマンイーターは、自分に向かって飛んでくる石に気づいたようだが、気づいたからといって対処できるものでもない。蔓で石を払おうにも、石はどんどん飛んでくる。
ゴーレム6体とマリーリア、合わせて7つの石が飛んでくる上、マリーリアが投げた石はやたらと強く、やたら正確に飛んできてマンイーターを打ちのめしていくのだ。
マリーリアは、笑顔で石を投げ続ける。軍を率いていた頃に少しばかり鍛えた肩で、ガンガン投げる。とにかく投げる。石を投げて投げて投げ続けて……そうしている内に、マンイーターは弱ってきた。
「まだまだいくわよぉー。うふふふふ」
が、弱っても何でも、まだマリーリアは止まらない。ゴーレムも止めないので止まらない。
……そうしてマンイーターはやがて弱り切って、死んだ。斧を使うまでも無かった。やはり、動けない相手にはこれに限る。
数の暴力とは、かくも素晴らしいものなのだ!
「ああ、素敵!これでおなかいっぱい食べられるわぁ!うふふふ」
そうしてマリーリアは、大量の食材を手に入れた。
マンイーターの蕾は、それ1つが人間の頭を食い千切れるくらいの大きさであるが、それが6つも手に入った。それを持ってみたマリーリアは『立派すぎるカボチャかキャベツか、そういうのを抱っこした気分だわぁ……』とにっこりした。
マンイーターの可食部は蕾だけではない。蔓も食べられる。これは比較的柔らかそうな部分を適当な長さに切って、そこらへんの木の蔓で束ねて持ち帰ることにする。
……そして、マンイーターの根っこはできる限り掘り出して持っていく。マンイーターは根っこにも栄養をしっかり蓄えているのだ。つまり……。
「ふふふふふ。これで主食が手に入るわぁー!」
マンイーターの根っこは、割とでんぷん質!でんぷん質なのである!つまり……食べるとお腹いっぱいになれるやつなのだ!
そうしてマリーリアは、『荷物を持ったまま進め』と命令を書き換えたマッドゴーレム達にマンイーター食材を運ばせつつ、それらがちゃんと拠点に向かうように時々向きや命令を調整しつつ、なんとか拠点へ戻ることができた。
「やっぱりマッドゴーレムを連れ回すのは効率が悪くってよ……。でもしょうがないわよねえ、こればっかりは」
拠点に着いたら、マッドゴーレム達から荷物を受け取って、そしてマッドゴーレム達には適当な位置で自壊してもらった。また必要になった時に捏ね直して作り直そう。
「ま、いいわいいわ。とにかくご飯よ、ご飯。うふふふふ」
ゴーレムについてはできるだけ早くテラコッタのゴーレムが欲しいところだが……それはそれとして、今はとにかく、ごはんである!
「ふふふ、焼くわよぉー」
今日こそはお腹いっぱいになるのだ!マリーリアは早速、夕食の準備に取り掛かった!
今日から1日1話投稿です。毎日20時20分に投稿されます。




